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新型コロナが弱毒化しているという根拠はない

忽那賢志感染症専門医
(写真:ロイター/アフロ)

東京都を中心に新型コロナ患者数の増加が止まらない状況が続いています。

国内の感染者数は3万人を超え、新規感染者数も減る気配がありません。

一方で、感染者数は増え続ける中で重症者数や死亡者数が増えないことについて「ウイルスが弱毒化しているため」あるいは「夏は免疫力がアップするから」だという言説が散見されますが、今のところは特に根拠はありません。

根拠のない楽観論に惑わされず、必要な対策を続けていきましょう。

入院者数は増えているが重症者数は増えていない

7/25時点の東京都内の新型コロナ入院者数・重症者数(東京都 新型コロナウイルス感染症 対策サイト)
7/25時点の東京都内の新型コロナ入院者数・重症者数(東京都 新型コロナウイルス感染症 対策サイト)

確かに現在の入院患者数は1105人、そして重症者数16人となっており入院者数と比べても重症者数の数は多くありません。

例えば緊急事態宣言時のピーク時には入院者患者数1413人に対し、重症者数は105人となっていました。

比率からすれば重症者数が今は少ない状況と言えます。

しかし、これをもって「ウイルスが弱毒化した」と言えるのでしょうか?

結論から言うと、言えません。

以下にその理由を述べます。

第1波では診断されていなかった軽症例が診断されている

これまでに指摘されているように、第1波ではPCR検査体制が十分に整備されていませんでした。

第1波(2020年3月4月)当時のPCR検査数と検査陽性率(東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイトより)
第1波(2020年3月4月)当時のPCR検査数と検査陽性率(東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイトより)

第1波では、感染者数の増加に検査数が追いつけず、ピーク時には検査陽性率が30%を超えていました。

この時点での1日当たりのPCR検査数は320件と、患者数の増加に追いつけていない状況でした。

つまり、新型コロナに感染しているのにPCR検査が実施されずに診断に至らない事例が相当数あったものと考えられます。

軽症例については当時「4日ルール」などもあり検査の敷居がやや高かったため、重症例の方が優先的に診断されていた実態があります。

おそらく第1波のときも若者を中心に軽症者や無症候性感染者はたくさんいたのでしょう。

第2波(2020年7月現在)のPCR検査数と検査陽性率(東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイトより)
第2波(2020年7月現在)のPCR検査数と検査陽性率(東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイトより)

さて、現在はと言いますと、1日当たりのPCR検査数は3600件と10倍ほどに増加しており、検査陽性率も6%台を維持しています。

つまり第1波と比較すると、軽症例を含めて感染者が適切に診断されているものと考えられます。

第1波と第2波における症例全体のうち診断できている比率(筆者作成)
第1波と第2波における症例全体のうち診断できている比率(筆者作成)

第1波では氷山の一角しか診断できていかなった新型コロナが、今では検査体制の強化によってもう少し感染者の全体像が見えるようになってきている状況と考えられます。

これが、第1波と比べて感染者全体に占める重症者数が少ない理由の一つです。

極端な例では、ベトナムは現在までに400例以上の新型コロナ症例が診断されていますが、これまでに死亡者はいません。

これは、軽症例や無症候性感染者も徹底的に診断を行い、速やかに隔離をしていることから、重症化しやすい高齢者などに感染が広がらず封じ込めができているためです。

当然ですが、ベトナムの新型コロナウイルスが弱毒化しているわけではありません。たぶんベトナム人は誰もそんなこと言っていません(ベトナム人全員に聞いたわけではありませんが)。

重症者は遅れて増加してくる

2つ目の理由は重症化のタイムラグです。

第1波を振り返ってみますと、新規患者数と重症者数のピークには約2週間のタイムラグがあることが分かります。

国内の新型コロナ新規患者数と人工呼吸管理患者数の推移(https://gis.jag-japan.com/covid19jp/および日本COVID-19対策ECMOnetより筆者作成)
国内の新型コロナ新規患者数と人工呼吸管理患者数の推移(https://gis.jag-japan.com/covid19jp/および日本COVID-19対策ECMOnetより筆者作成)

これは、しつこく毎回言っていますが、新型コロナの特徴的な経過によるものです。

新型コロナウイルス感染症は発症してしばらくしてから急に悪化します。

新型コロナウイルス感染症の症状経過(DOI: 10.1056/NEJMcp2009575)
新型コロナウイルス感染症の症状経過(DOI: 10.1056/NEJMcp2009575)
新型コロナウイルスの典型的な経過(筆者作成)
新型コロナウイルスの典型的な経過(筆者作成)

典型的には、発症から7〜10日経ってから悪化してきます。

新型コロナ患者の多くは、発症から1週間前後で診断されていますが、高齢者や基礎疾患のある人はより短期間で診断される傾向にあるため、重症者が増えてくるのは診断時よりも後になります。

つまり、重症者のピークは今よりも確実に遅れてやってきます。

今、重症者数や死者数が少ないのは、まだ重症化する人がしていないだけであり、これから重症者や死亡者は遅れて増えてくるものと思われます。

重症化しやすい年齢層の患者数も、若い年齢層から遅れて増えてきている

今も感染者の中心は20代・30代の若い世代ですが、全体的な患者数の増加に伴い高齢者の感染者も増えてきています。

重症化するリスクの高い60代以上の感染者だけの推移を見ても、明らかに感染者は増加しています。

週ごとにみた東京都における60代以上の年齢別の新規症例発生数(東京都公表データより筆者作成)
週ごとにみた東京都における60代以上の年齢別の新規症例発生数(東京都公表データより筆者作成)

厚生労働省が発表している「7月8日時点の国内における年齢別の新型コロナ患者の致死率」は、60代が4.9%、70代が14.6%、80代以上が28.7%となっています。

今後、重症者数や死者数が増加することは避けられないでしょう。

この状況がこのまま続くとどうなるでしょうか。

東京と同じ様に、当初流行の中心が若者であったフロリダの状況が参考になるかもしれません。

フロリダ州における年齢別感染者ヒートマップ(@zorinaq氏の7/16のTwitterでの投稿より)
フロリダ州における年齢別感染者ヒートマップ(@zorinaq氏の7/16のTwitterでの投稿より)

フロリダ州では6月から流行がさらに加速し、7月に入ってからは1日平均10000人以上が新型コロナと診断されています。

当初、流行の中心は若い世代であり、症例が増加しても死亡者は増えていませんでした。

しかし、高齢者の感染者が増加するにつれ、死亡者も増加傾向にあり、現在は1日に100人以上の方が亡くなっています。

フロリダ州における新規患者数と死者数の推移(NY times Florida Coronavirus Map and Case Countより)
フロリダ州における新規患者数と死者数の推移(NY times Florida Coronavirus Map and Case Countより)

東京都で人工呼吸器を使用している新型コロナ患者は7月16日から上昇傾向に転じました。

今後、しばらくは増加が続くものと考えられます。

このまま重症者数がどこまで増え続けるのかは私たちの行動にかかっています。

東京都の新型コロナ重症者における人工呼吸器装着数の推移(日本COVID-19対策ECMOnetより)
東京都の新型コロナ重症者における人工呼吸器装着数の推移(日本COVID-19対策ECMOnetより)

第1波のときよりも治療法が確立してきている

最後にもう一つ、第1波のときとの大きな違いがあります。

それは現在新型コロナの治療法がある程度確立してきていることです。

例えば、第1波のピークが過ぎた5月7日に国内ではレムデシビルという抗ウイルス薬が使用可能となりました。

これはランダム化比較試験というエビデンスレベルの高い臨床研究で効果が証明された治療薬です。

また、これに加えて、デキサメサゾンというステロイド薬も生存率を改善させることが分かりました。

新型コロナで起こる凝固異常についての理解も進み、抗凝固薬も使用されるようになってきました。

こうした治療の進歩によって重症化する患者が減っている可能性は十分にあるでしょう。

実際に診療をしていて、これまでは人工呼吸管理になっていたようなハイリスク患者が、早期に治療を開始することで人工呼吸管理を回避できるようになってきたという実感があります。

新型コロナウイルスが弱毒化している根拠はない

というわけで、現時点で重症者数が少ないのは、

・第1波のときよりも軽症例を含めて診断されている

・ハイリスク患者が重症化するのはこれから

・治療法が確立してきている

ためであり、現時点では新型コロナウイルスが弱毒化している科学的根拠はありません(ウイルスは常に変異しますので今後その可能性はありますし、もちろん私は今後ウイルスが弱毒化しているという科学的根拠が出てくることを願っています)。

弱毒化してるから感染しても大丈夫と思っていると、自身が重症化したり大事な家族に感染を広げることになりかねません。

また、感染し回復した後も後遺症で悩まされている方も多くいらっしゃいます。

決して「感染しても大丈夫」な感染症ではありません。

もう半年以上コロナと戦い続けて、皆さん疲れが出ていると思いますが、引き続き適切な感染対策を続けていきましょう。

最後にメディアの方へのお願いです。

現代社会では病院経営やビジネスの専門家が小学生の自由研究のような「ぼくのかんがえた、さいきょうのコロナりろん」を思いつきで述べることは誰にも止められません。

しかし、こういう根拠薄弱な理論を視聴率目当てにメディアが取り上げてもてはやすのは害でしかありません。

メディアにはしっかりと科学的吟味を行った上で、公益に資する放送を行っていただきたいと思います。

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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