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大雨後の感染症、避難所での感染対策について

忽那賢志感染症専門医
羽海野チカ先生作成 手洗い啓発ポスター

7月3日からの激しい雨により、熊本県南部に大雨特別警報が出されています。一部では浸水もみられているようです。

大雨や洪水などの災害の後には特定の感染症が流行することがあります。特に水に浸かってしまった方、避難所で生活されている方は感染症にも注意しましょう。

災害後に問題となる感染症と発生時期 日本環境感染学会 大規模自然災害の被災地における感染制御マネージメントの手引きより引用
災害後に問題となる感染症と発生時期 日本環境感染学会 大規模自然災害の被災地における感染制御マネージメントの手引きより引用

避難所での感染対策

一部の地域では避難勧告が出ていることから、すでに避難所にいる方も大勢いらっしゃるかと思います。

避難所では特定の感染症が流行することがあります。東日本大震災のときには避難所でノロウイルス感染症やインフルエンザが流行しました。

日本感染症学会は避難所における感染対策マニュアルを策定しており、避難場所での「感染予防のための8ヵ条」として、

1. 食事は可能な限り加熱したものをとるようにしましょう

2. 安心して飲める水だけを飲用とし、きれいなコップで飲みましょう

3. ごはんの前、トイレの後には手を洗いましょう (水やアルコール手指消毒薬で洗ってください)

4. おむつは所定の場所に捨てて、よく手を洗いましょう

5. 咳が出るときには、周りに飛ばさないようにクチを手でおおいましょう(マスクがあるときはマスクをつけてください)

6. 熱っぽい、のどが痛い、咳、けが、嘔吐、下痢などがあるとき、 特にまわりに同じような症状が増えているときには、医師や 看護師、代表の方に相談してください

7. 熱や咳が出ている人、介護する人はなるべくマスクをしてください

8. 次の症状がある場合には、早めに医療機関での治療が必要かもしれません。医師や看護師、代表の方に相談してください

 ・咳がひどいとき、黄色い痰が多くなっている場合

 ・息苦しい場合、呼吸が荒い場合

 ・ぐったりしている、顔色が悪い場合

の8つを挙げています。これらの感染症を予防するために、手洗い、咳エチケットなどを心がけ、何か症状が出るようであれば早めに病院を受診しましょう。

羽海野チカ先生作 手洗い啓発ポスター
羽海野チカ先生作 手洗い啓発ポスター

これらの感染症の他、一昨年の平成30年7月豪雨の後、岡山県ではレジオネラ肺炎の報告が増えています。これはレジオネラ菌で汚染された雨水を誤飲したり、粉塵(土埃)と共にレジオネラ菌を吸引することによって起こる肺炎であり、重症化する恐れのある感染症です。

また2004年に愛媛県、2005年に宮崎県、2011年には三重県で台風とそれに伴う洪水の後にレプトスピラ症患者が発生しています。レプトスピラ症は発熱、眼球結膜充血、全身の筋肉痛などを特徴とする感染症です。

避難所における新型コロナ対策は?

避難所は人が密集し、新型コロナが流行しやすい環境と言えます。

対策としては、定期的に換気を行うこと、人との距離をなるべく広く取ること、避難所内ではなるべく大声での会話を控えマスクを着用することなどが挙げられます。

理想としてはパーテーションやテントなどによって、明確にスペースを区切ることが望ましいでしょう。

また感染対策ではありませんが、暑い時期ですので熱中症に注意し水分を十分摂ることを心がけましょう。

内閣府の防災情報のページから「新型コロナウイルス感染症を踏まえた災害対応のポイント」が参照可能です。

ここでは、新型コロナに対応した避難所入所時の問診票や健康チェックシート、滞在スペースや区画の振り分け方、運営側の防護具の目安などが掲載されています(動画でも解説されています)。

避難所入所時の問診票(新型コロナウイルス感染症を踏まえた災害対応のポイントより)
避難所入所時の問診票(新型コロナウイルス感染症を踏まえた災害対応のポイントより)
健康チェックシート(新型コロナウイルス感染症を踏まえた災害対応のポイントより)
健康チェックシート(新型コロナウイルス感染症を踏まえた災害対応のポイントより)
滞在スペースや区画の振り分け方の案(新型コロナウイルス感染症を踏まえた災害対応のポイントより)
滞在スペースや区画の振り分け方の案(新型コロナウイルス感染症を踏まえた災害対応のポイントより)
避難所運営スタッフの個人防護具の目安(新型コロナウイルス感染症を踏まえた災害対応のポイントより)
避難所運営スタッフの個人防護具の目安(新型コロナウイルス感染症を踏まえた災害対応のポイントより)

もちろんこれらをすべて遵守する必要はなく、その地域での新型コロナの流行状況によって強弱をつけて行うべきものです。

熊本県では過去1週間に1例の新型コロナ感染者が報告されており、横浜市で感染したと考えられる事例が6/28に報告されていますが、それ以降は報告がありません。

熊本県南部で新型コロナが蔓延しているという状況は考えにくいため、過剰に新型コロナの感染対策を行うよりはキャパシティに合わせた現実的な感染対策が求められるところかと思います。

参考情報:

大規模自然災害の被災地における感染制御マネージメントの手引き. 日本環境感染学会.

避難所における感染対策マニュアル. 日本感染症学会

新型コロナウイルス感染症を踏まえた災害対応のポイント. 内閣府

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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