14年ぶりの国内例 狂犬病ってどんな病気?

(写真:ロイター/アフロ)

2020年5月22日、愛知県豊橋市で国内14年ぶりとなる狂犬病の発症者が確認されました。

国内14年ぶり狂犬病発症 来日者、フィリピンで感染か 愛知・豊橋

報道によると、今年2月、就労のためフィリピンから来日した方で、昨年9月頃に左足首を犬に咬まれたとのことです。

「国内で14年ぶり」ということで国内では非常に稀な感染症ですが、海外では毎年6万人の方が亡くなっている感染症であり、特に海外旅行前には注意が必要な感染症です。

狂犬病の流行国

狂犬病に日本国内で感染することはありませんが、世界的にはオーストラリア、ニュージーランド、アイルランド、スウェーデンなどのごく限られた国を除いてほぼ全ての国で流行している感染症です。

WHOは今も年間59000人が狂犬病によって亡くなっていると試算しており、その6割はアジアで起こっています。

アジアでも特にインドで感染者が多く報告されています。

狂犬病の発生状況(2016年時点. 厚生労働省HPより)
狂犬病の発生状況(2016年時点. 厚生労働省HPより)

日本では1950年代までは国内にも狂犬病に感染した犬が存在していたことから、国内で感染した事例がありましたが、1950年に狂犬病予防法が施行されて以降、国内の犬における狂犬病の発生もなくなり、それ以降は人の事例では1970年にネパールで感染した1例、2006年にフィリピンで別々に感染した2例のみでした。

報道にもある通り、今回の事例は14年ぶりの国内での狂犬病の症例となります。

狂犬病届出患者数および死亡者数の推移, 1947年~2006年(IASR Vol.28 p 61-62:2007年3月号より)
狂犬病届出患者数および死亡者数の推移, 1947年~2006年(IASR Vol.28 p 61-62:2007年3月号より)

狂犬病の感染経路

狂犬病は、狂犬病にかかった哺乳動物に咬まれた部位から、唾液に含まれる狂犬病ウイルスが侵入することで感染します。

哺乳動物の中でも症例の90%以上は犬に咬まれたことが原因とされます。

犬以外にも、アメリカなど先進国ではコウモリからの感染事例が報告されています。

人から人への感染は極めて稀であり、エチオピアで2例そうかもしれないという事例が報告されているのみです。

動物から咬まれる以外にも、稀な事例として実験室での感染、コウモリの棲む洞窟でのエアロゾル感染、感染者からの臓器移植による感染なども報告があります。

狂犬病の症状

今回報道された患者さんは昨年9月に左足首を咬まれたとのことであり、実に8ヶ月も経った後に発症しています。

8ヶ月も経った後に発症する感染症なんてあるのかと思われるかもしれませんが、元々狂犬病の潜伏期は長めで1~3ヶ月とされており、最長では感染した8年後に発症した事例も報告されています。

潜伏期は咬まれた場所や咬まれた際のウイルス注入量によって異なるとされ、一般には脳に近い部分を咬まれると発症までが早くなると言われています。今回の患者さんは左足首を咬まれたということですので、顔などを咬まれた方よりは長い潜伏期となることが多いとされます。

狂犬病の症状は、全身の脱力感や不快感、発熱、頭痛など、インフルエンザの症状と非常によく似た症状で始まります。これらの症状は数日から2週間続きます。また、咬まれた部位の違和感やチクチク感、かゆみを伴うこともあります。

その後、急性神経症状期として不安、混乱、焦燥感などの脳炎の症状が見られるようになり、進行すると、異常行動、幻覚、水を怖がる恐水症状や風を怖がる恐風症状などの症状が現れます。

狂犬病に対する治療薬はなく、症状に応じた対症療法・支持療法が行われますが、致死率はほぼ100%であり、これまでに狂犬病の生存例は20例に満たないという非常に恐ろしい感染症です。

海外で動物に咬まれたら

日本国内で狂犬病に感染することはありませんが、海外旅行中など狂犬病流行国で動物に咬まれた場合は、狂犬病に感染するリスクがあります。

海外旅行中に動物に咬まれることは決して稀ではなく、2017年10月から2019年9月までの2年間に輸入感染症を多く診療している全国15の医療機関を、海外渡航後の体調不良を理由に受診した3046人の患者のうち、「動物に咬まれた」のは2番目に多い受診理由でした(忽那賢志ら. 第31回日本臨床微生物学会総会・学術集会)。

海外で動物に咬まれて受診した患者の渡航国と動物の種類(野本英俊、忽那賢志ら. 第23回 日本渡航医学会学術集会)
海外で動物に咬まれて受診した患者の渡航国と動物の種類(野本英俊、忽那賢志ら. 第23回 日本渡航医学会学術集会)

このうち、大半がアジアで咬まれたものであり、アジア旅行中は動物に咬まれないように注意する必要があります。

動物の内訳としては、やはりイヌが最多ですが、次いでネコ、サルが続きます。

その咬んだ動物が狂犬病に感染しているかどうかは見た目では判断が難しく、また致死率100%近い感染症ということもあり、まずは狂犬病に感染している動物である可能性を考慮して対応する必要があります。

動物に咬まれたら、まずは何はなくとも傷をきれいに洗いましょう。これは水道水で構いません。

そして、速やかに受診できる病院を探しましょう。

狂犬病リスク評価のための分類(WHOカテゴリー http://www.who.int/wer/2010/wer8532.pdf)
狂犬病リスク評価のための分類(WHOカテゴリー http://www.who.int/wer/2010/wer8532.pdf)

咬まれた傷の深さによって、狂犬病のリスクは異なります。

なめられたくらいであれば普通は大丈夫ですが、傷のあるところをなめられた場合は感染することがあります。

WHOは傷の深さによって狂犬病に感染するリスクを分類する「WHOカテゴリー」を提唱していますが、ご自身で傷の評価が難しい場合には病院を受診することをお勧め致します。

必要に応じて、狂犬病ワクチンと狂犬病ウイルス免疫グロブリン(国内未承認)の接種を開始します。

事前にワクチンを打っていなければ、最大3ヶ月後まで合計6回の接種が必要になります。

最大の予防は渡航前のワクチン接種

狂犬病は致死率100%の恐ろしい病気ですが、事前にワクチンを接種しておくことによって予防可能です。

特に狂犬病が流行しているアジアに長期間滞在する予定の方は、事前に狂犬病ワクチンを接種しておくことをお勧め致します。

渡航前に3回のワクチン接種が必要になりますので、少なくとも1ヶ月以上の余裕をもって受診するようにしましょう。

狂犬病ワクチンは施設によって在庫状況が異なるため、受診する前に事前にワクチンがあるかどうか確認することが望ましいでしょう。

事前にワクチンを3回接種していても、狂犬病流行地域で動物に咬まれたら追加で2回ワクチンを接種する必要がありますが、これによりほぼ100%狂犬病を予防することが可能です。

備えあれば憂いなし、ということで長期に狂犬病流行地域に滞在する場合は狂犬病ワクチンを接種しておきましょう。