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「コロナに罹ったら14日で復職OK」は安全な基準か?

忽那賢志感染症専門医
感染した日からの感染性の推移(引用元は本文中に記載)

発症から14日経てば就業再開可能に

5月1日に厚生労働省より、

・宿泊療養または自宅療養の解除がされれば就業制限も解除としてよいこと

・宿泊療養又は自宅療養を開始した日から 14 日間経過していれば就業制限解除時にはPCR検査は必須でないこと

・解除後に勤務を開始する際、職場等に証明を提出する必要はないこと

が通知されました(厚生労働省新型コロナウイルス感染症 対策推進本部 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第 18 条 に規定する就業制限の解除に関する取扱いについて 事務連絡 令和2年5月1日)。

これにより、新型コロナウイルス感染症と診断された患者さんはPCR検査をしなくても発症から14日経てば職場復帰が可能となります。

これまでは新型コロナウイルス感染症の患者さんは2回のPCR検査で陰性を確認してから隔離解除となっていましたので、就業再開もこの後になっていました。現在は就業制限だけでなく隔離解除についても、PCR検査ができない状況であれば、宿泊療養・自宅療養開始から14日間経過した場合に解除できるという通知が出ています。

2020年5月4日現在の退院基準(厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部 事務連絡 令和2年4月2日より)
2020年5月4日現在の退院基準(厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部 事務連絡 令和2年4月2日より)

病院に入院している新型コロナの患者さんは、今も2回のPCR検査陰性を確認してから隔離解除・就業制限解除となることがほとんどです。

新型コロナウイルス感染症患者での鼻咽頭の検体を用いたPCR検査が陰性になるまでは中央値で20日かかることが分かっていますので、2回連続で陰性になるには約3週間かかります(ちなみに無症候性感染者でも2回陰性を確認するまでに9日かかるとされます)。

「PCR検査が陰性になるまで3週間かかるのに、発症から2週間で働き始めて大丈夫なのか?」と思われるのではないでしょうか。

「PCR検査が陽性=感染性あり」ではない

PCR検査はウイルスの遺伝子の特定の領域を検出しているものです。

ウイルスそのものではないため、死んだウイルスの断片を引っ掛けているだけのことがあります。

ですのでときどき発症から30日以上経ってもPCR検査が陽性になり続ける患者さんがいらっしゃいますが、だからといってずっと感染性が続いているとは限りません。

新型コロナウイルス感染症の感染性(https://doi.org/10.1038/s41591-020-0869-5より作成)
新型コロナウイルス感染症の感染性(https://doi.org/10.1038/s41591-020-0869-5より作成)

発症前が最も感染性が強い

症状がない人もマスクをつけるべきか?」でもご紹介しましたが、新型コロナウイルス感染症は発症前に感染性のピークがあることが分かってきました。

つまり症状が出てからよりも、症状が出る前の状態の方が人へ新型コロナウイルスをうつしやすいということです。

感染した日からの感染性の推移(Science 10.1126/science.abb6936 (2020).およびTomas Pueyo氏
感染した日からの感染性の推移(Science 10.1126/science.abb6936 (2020).およびTomas Pueyo氏 "The Basic Dance Steps~"より)

この図は感染した日(発症した日ではありません)からの感染性の推移を見たScience誌に掲載された論文の図を元にTomas Pueyo氏が作成されたものですが、なんかカッチブーな図なので紹介します。

これによると人から人への感染は、

・発症前の時期が45%

・発熱や咳などの症状のある時期が40%

・環境(高頻度接触面など)を介した感染が10%

・無症候性感染者からが5%

と推計されています。

発症後の感染性は我々が思っているより高くありません。

いつまで感染性があるのか

本題の「いつまで感染性があるのか」ですが、先ほど申し上げた通り「PCR検査で陽性=感染性」ではありません。

ではどうやって感染性を推測するのかですが、一つは「ウイルス培養」を用いた方法があります。

生きたウイルスが培養できるということは、感染性のあるウイルスが分離できたということになります。

この培養できるウイルスが分離できるまでの期間が感染性が有ると外挿することができます。

発症からの日数とウイルス培養陽性/陰性の推移(https://doi.org/10.1038/s41586-020-2196-xより)
発症からの日数とウイルス培養陽性/陰性の推移(https://doi.org/10.1038/s41586-020-2196-xより)

新型コロナ患者の感染性を調査したこの研究では、発症から8日目まではウイルス培養が陽性になる事例がありますが、9日目以降で陽性になった検体はありませんでした。

つまり8日目までは感染性のあるウイルスが分離できたということになります。

また、台湾から100例の確定患者とその濃厚接触者2761人(このうち22人が後に新型コロナウイルス感染症を発症)についての報告では、濃厚接触者のうち発症したのは、発症前または発症から5日以内の確定患者と接触した人だけであり、発症から6日以降に確定患者と接触した人のうち新型コロナに感染した人はいませんでした。

これら2つの研究から、発症から1週間を超えればほとんど感染性はなくなることが示唆されます。

というわけで、発症から14日以上経過していれば他の人にうつす可能性はかなり低いと言って良いでしょう。

なお、稀な事例として退院後に再度新型コロナウイルス陽性となる方が確認されていることから、厚生労働省は退院(=隔離解除)から4週間は以下のことを徹底するよう通知が出ています(医療機関における「新型コロナウイルスの陰性が確認され退院される患者の方々へ」の配布について. 厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部. 事務連絡 令和2年3月6日)。

●一般的な衛生対策を徹底してください。

・石けんやアルコール消毒液を用いて手洗いをしてください。

・咳エチケット(マスクやティッシュ、ハンカチ、袖、肘の内側などを使って口や鼻をおさえる、マスクの着用等)を守ってください。

●健康状態を毎日確認してください。

・毎日、体温測定を行い、発熱(37.5℃以上)の有無を確認してください。

●咳や発熱などの症状が出た場合

・速やかに帰国者・接触者相談センターに連絡し、その指示にしたがい、外出時には必ずマスクを着用して、必要に応じて医療機関を受診してください。帰国者・接触者相談センターへの連絡及び医療機関の受診にあたっては、あらかじめ新型コロナウイルス感染症で入院していたことを電話連絡してください。

これらの感染対策を退院後4週間徹底していれば、万が一再び陽性となってしまった場合も、濃厚接触者となる方は出ないはずです。

新型コロナと診断されていない風邪症状の人が休む期間は?

現在は医師の判断でPCR検査をすることができるようになっています。

しかし、地域によっては検査のキャパシティのために必ずしも検査ができないことがあります。

「コロナかもしれないのにPCR検査をしないなんて!」と思われるかもしれませんが、PCR検査をしたからといって新型コロナを100%否定することもできません。

また、若い方では新型コロナウイルス感染症は非常に軽微な症状であることが多いことも分かってきています。

そうすると、ただの風邪と新型コロナウイルス感染症とを区別することは医師であっても非常に困難です。

こうした発熱や風邪の症状があったものの新型コロナと診断されなかった(PCR検査が陰性、医療機関を受診しなかった場合を含む)人はいつ職場復帰すればよいのか、についても日本渡航医学会、産業保健委員会などが目安を示しています。

次の 1)および 2)の両方の条件を満たすこと

1) 発症後に少なくても 8 日が経過している

2) 薬剤*を服用していない状態で、解熱後および症状**消失後に少なくても3日が経過している

 

 *解熱剤を含む症状を緩和させる薬剤

 **咳・咽頭痛・息切れ・全身倦怠感・下痢など

この条件を満たした場合を職場復帰の目安としています。

新型コロナと確定した人は14日で、(検査がされなかった新型コロナ患者やPCR検査で偽陰性だった人を含む)診断されなかった人は8日で大丈夫かと思われる方も多いと思いますが、確定診断されていない方が14日休むというのは現実的ではありませんし、先ほどご紹介した2つの研究結果からは、この条件を満たしていれば仮に新型コロナだったとしても職場内で感染を広げる可能性は低いことから、8日というのは落とし所としては妥当ではないかと考えます。

この場合も、新型コロナ患者に準じて退院後4週間は感染対策を遵守することが望ましいでしょう。

新型コロナ患者も疑い患者も「傷病手当金」を受け取ることができる

発症から7日間も休むというのは、仕事をしている方々にとって死活問題となりえることと思います。

怪我や病気で仕事を休む際に傷病手当金の給付という制度があり、今回の新型コロナに関しても傷病手当金の給付を受けることができます(※国保の方は自治体によって給付されるところとされないところがあります)。

厚生労働省は3月24日付けで「新型コロナウイルス感染症に感染した被用者等に対する傷病手当金の支給について」という通達を出しており、その中で「新型コロナウイルス感染症に感染したとき又は発熱等の症状があり当該感染症の感染が疑われるとき」にも傷病手当金を支給するとしており、疑い例もその対象と明記されています。

原則業務できなくなった日を起算日として3日経過した4日目から就業不能期間の支給が可能になり、支給額は直近の給与によって異なりますが概ね通常の日当の2/3程度が支給される可能性が高いようです。

「新型コロナかも?」と思っても仕事が休めないから病院を受診できないという方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、無理をして仕事を続けることで職場内で感染を広げる可能性があります。

傷病手当金などの制度を上手く使いながら、体調が悪いときは無理をせず自宅で休むようにしましょう。

参考:矢吹 拓「新型コロナウイルス感染症:傷病手当を書くべし!」

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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