緊急事態宣言 私たちにできること

クラスター対策班 押谷仁先生からのメッセージ 「Stay at Home」

4月7日に安倍内閣総理大臣から緊急事態宣言が出されました。

私たちは今まさにオーバーシュートの瀬戸際にいます。

この緊急事態宣言を受けて私たちにできることは何でしょうか?

国内、特に都市部で症例が増加している

累積感染者数の国別推移(「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(2020 年4月1日))
累積感染者数の国別推移(「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(2020 年4月1日))

この図を見ると、これまで日本では新型コロナの症例数の増加はある程度抑えられていたように見えます。

少なくともオーバーシュートを起こしているイタリア、スペイン、アメリカなどと比べるとこれまで日本は「4日で患者数が倍増」という状況ではなかったと言えます。

日本国内の新型コロナ患者の日別増加数(都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ(ジャッグジャパン株式会社提供))
日本国内の新型コロナ患者の日別増加数(都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ(ジャッグジャパン株式会社提供))

しかし、日本国内でもいよいよ患者数が急激に増加してきています。

特に3月下旬からは増加が著しく、東京、大阪、神奈川、千葉、愛知、兵庫などの都市部で顕著です。

都市部では医療崩壊が進行している

都市部では患者の急激な増加に医療体制が追いついておらず、新型コロナ患者を受け入れる病床が不足する事態が続いています。

4月9日時点での各都道府県の患者数/感染症病床数(新型コロナウイルス対策ダッシュボードより)
4月9日時点での各都道府県の患者数/感染症病床数(新型コロナウイルス対策ダッシュボードより)

例えば東京では感染症病床数750床に対して患者数1251人となっており、入院が必要な患者もなかなか受け入れ病院が見つからず、20以上の病院に断られるという状況も発生しています。

4月7日から東京都では軽症者、無症候性感染者のホテルでの経過観察を開始しましたが、患者数の増加にまだ追いついていません。

救えるはずの命が救えなくなる事態になる可能性も

このまま対策をせずにいるとどうなるかという推計が専門家会議から出されています。

かなりショッキングなデータです。

大規模流行時に想定される10万人当たりの重篤患者数(「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(2020 年 3 月 19 日))
大規模流行時に想定される10万人当たりの重篤患者数(「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(2020 年 3 月 19 日))

これは横軸が時間(日)、縦軸が重篤患者数(人/10万人あたり)のグラフですが、赤線は日本国内の使用可能な人工呼吸器台数(人口10 万人あたり)です。

このまま新型コロナの流行が拡大を続け、患者数がオーバーシュートすると、肺炎がひどくなって本来人工呼吸器が必要な人も、人工呼吸器の数が足りないせいで使うことができなくなってしまいます。

大規模流行時に想定される人工呼吸器が使用できない重篤患者(「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(2020 年 3 月 19 日))
大規模流行時に想定される人工呼吸器が使用できない重篤患者(「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(2020 年 3 月 19 日))

この図の黄色の部分の患者さんが「人工呼吸器を使えば助かるかもしれないけど、使えなくなる患者さん」です。

本来は助かったかもしれない人たちも、感染者の数があまりに多すぎて助からなくなってしまうという、イタリアやアメリカで起こっていることが日本でも起こるかもしれないというわけです。

新型コロナの患者が爆発的に増えると、困るのは新型コロナの患者だけではありません。

例えば心筋梗塞を起こした場合、発症から再灌流療法までの時間(onset to balloon time: OTB time)が短いほど亡くなる可能性が低くなると言われていますが、新型コロナが爆発的に増えると、救急車を呼んでも医療崩壊によってすぐに病院が見つからず、命取りになる可能性があります。

新型コロナがオーバーシュートしたら困るのは新型コロナの患者だけではないのです。

緊急事態宣言により流行のピークを抑える

イギリスにおけるCOVID19の患者数のピークを抑制するための介入の影響(Imperial College COVID-19 Response Team)
イギリスにおけるCOVID19の患者数のピークを抑制するための介入の影響(Imperial College COVID-19 Response Team)

この図は先ほどと同じような図ですが、イギリスのImperial Collegeの論文から持ってきたものです。

何もしないと黒い曲線のようにすごく大きな流行のピークを迎えることが予想されますが、「新型コロナ患者を診断して隔離する」「さらに家族も自宅療養する」「学校・大学の休校」「70代以上の高齢者が社会的距離を取る」などの介入を組み合わせることによって流行のピークを下げることができる、という試算です。

当然ですが非常事態宣言の狙いは流行のピークを抑えることです。

これまでに学校の休校、三密を避けるなどの対策が行われてきましたが、今回さらに人と人との接触の機会を減らすためにより積極的な介入が行われたという訳です。

Thomas氏はこのような積極的介入によって流行曲線の頭を積極的介入(ハンマー)で叩き新規患者数を抑え込み、持続的介入(ダンス)によって流行を防ぐという考えを提唱しています(Hammer and Dance)。

このような考え方は机上の空論と思われるかもしれませんが、すでにこのアプローチによって新型コロナの流行を抑え込んでいる国があります。

それが中国と韓国です。

中国では武漢から端を発した大流行が起こりましたが、現在は新規の症例数はほぼなくなり、完全に抑え込んでいる状況です。

武漢での大流行時、基本再生産数(Rノート:1人の感染者から何人に感染させるかの指標)は3.9でしたが、都市閉鎖という強烈なハンマーによって0.3にまで下がりました。

中国の感染者数の推移(COVID-19 Global Cases by CSSE at JHU 矢印・文字は筆者記載)
中国の感染者数の推移(COVID-19 Global Cases by CSSE at JHU 矢印・文字は筆者記載)

そしてその後も持続的介入(ダンス)によって患者数を抑えることに成功しています。

中国は一党独裁の強烈なリーダーシップによるところが多いので日本では無理だと思われるかもしれません。

しかし、強制的介入(ハンマー)は必ずしも都市閉鎖だけとは限りません。

韓国の感染者数の推移(COVID-19 Global Cases by CSSE at JHU 矢印・文字は筆者記載)
韓国の感染者数の推移(COVID-19 Global Cases by CSSE at JHU 矢印・文字は筆者記載)

韓国でも同様に新型コロナは現在かなりコントロールされた状態にあります。

韓国では積極的な検査、接触者の追跡、患者の確実な隔離によってこれを成し遂げています。

そしてその後も持続的な介入(ダンス)によって感染者を少数に抑えています。

「日本と海外とは違うし・・・」と思われるかもしれません。

しかし我々はすでに国内での成功例を見ています。それは北海道です。

北海道における感染者数と実効再生算数(「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(2020 年 3 月 19 日))
北海道における感染者数と実効再生算数(「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(2020 年 3 月 19 日))

北海道は、2月中旬から新型コロナ患者の急激な増加がみられていました。

しかし、2月28日に北海道知事による緊急事態宣言(ハンマー)が出されることにより、北海道での症例数は減少傾向となり、現在も散発的な症例は報告されていますが、爆発的な増加は抑えられています。

北海道は日本でもハンマー&ダンスが実行可能であることを示してくれました。

実効再生算数1未満を維持する

緊急事態宣言の目的は実効再生算数を1未満に抑えることです。

実効再生算数とは、1人の患者から何人に新型コロナがうつるのかということです。

実効再生算数が1未満になれば新型コロナは自然と収束していきます。

緊急事態宣言という積極的介入(ハンマー)を行うことで、実効再生算数を大きく下げて1未満にすることが今求められています。

そして、新規症例数が減り実効再生算数が1未満を達成した後は、緊急事態宣言のような強力な介入は必要ではありません。

実効再生算数が1を超えないようにするために、3密を避ける、咳エチケット、手洗いなどといった基本的な対策を徹底することで、社会機能を維持しながら新型コロナの流行を抑えることが可能と考えられます。

我々は今のような制限のある生活をずっと続けなければならないわけではありません。

時間を稼ぐことで解決策が増える

新型コロナウイルスに関する論文数の推移(Tomas Pueyo氏作成)
新型コロナウイルスに関する論文数の推移(Tomas Pueyo氏作成)

ハンマーで流行のピークを抑えて、ダンスで時間を稼ぐことで我々は作戦を立てることができます。

図は新型コロナウイルスに関する論文数ですが、1月下旬からすごい勢いで知見が増えています。

1月の頃よりも我々は新型コロナウイルスについて熟知しており、有効な対策を身に着けています。

その一つがクラスター対策です。

また、治療薬の開発、ワクチンの開発も進んでいます。

流行のピークを抑えて、持続的介入を行うことで新型コロナウイルスに対する戦略が増えていきます。

時間を稼ぐことで、私たちの新型コロナウイルスに対する武器がどんどん増えていくことが期待されます。

ハンマーがハンマーたり得るかが大事

緊急事態宣言は、日本が持ち得る最大のハンマー(積極的介入)です。

これが失敗すれば、おそらく我々にはもう後はないでしょう。

ハンマーが空振りに終われば、待っているのはイタリアやアメリカのようなオーバーシュートと医療崩壊です。

今まさに私たちはハンマーがハンマーたり得るかが試されています。

この緊急事態宣言という最後の切り札を決して無駄にしてはなりません。

私たちがすべきことは極めてシンプルです。

三密を避けて家で穏やかな日々を過ごしましょう。

厚生労働省クラスター対策班、そして最前線で戦う医療従事者からの心からのお願いです。

新型コロナの流行が抑えられるかどうかは私たち一人ひとりのこれからの心がけにかかっています。

厚生労働省 クラスター対策班 押谷仁先生
厚生労働省 クラスター対策班 押谷仁先生

※この記事の投稿にあたっては敬愛する厚生労働省 クラスター対策班 押谷仁先生、西浦博先生(通称クラスターおじさんズ)のお二人のご助言をいただきました。また、Tomas Pueyo氏の投稿と翻訳された加藤智久氏@kato_の「Coronavirus: The Hammer and the Dance」を大いに参考にさせていただきました。

※Conflict of Interest: この投稿により筆者は西浦博先生からアイスを2本おごってもらう予定です☆