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新型コロナのオーバーシュート(感染者の爆発的増加)を起こさないために我々にできることは?

忽那賢志感染症専門医
密閉空間・密集場所・密接場面を避けましょう(首相官邸HPより)

3月19日に新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が開かれ、「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」が出され、以下のように報道されています。

現状は何とか持ちこたえており、拡大防止の取り組み強化が必要だとする一方、感染が確認されていない地域では学校活動や屋外スポーツなどの再開も奨励した。政府は、臨時休校などの自粛要請の一部を解除する方針だ。

出典:爆発的拡大「オーバーシュート」警戒 都市部の増加踏まえ、政府専門家会議が新見解

これを読むと、一見「対策は上手くいっていて、自粛も解禁して良いんだな」と思ってしまわれる方もいらっしゃるかもしれません。

こころなしか都内も自粛ムードがやや緩んでいるような・・・しかし、この専門家会議のメッセージは「自粛解禁OK」ではありません!

新型コロナ患者が報告されていない、あるいは報告数の少ない地域についてはリスクの低い活動から徐々に解除することを検討となっていますが、患者数が増加している地域についてはより一層の警戒が必要、というのが専門家会議のメッセージです。

オーバーシュート(感染者の爆発的増加)を起こさないために我々にできることを再確認しましょう。

日本の患者増加は比較的抑えられている

国別の累積感染者数の推移(「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」2020年3月19日)
国別の累積感染者数の推移(「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」2020年3月19日)

図は専門家会議の提言からの資料ですが、日本は1月中旬から武漢からの輸入例が報告されており、当初は中国を除いて最も症例数の多い国の一つでした。日本以外にもタイ、シンガポール、韓国など中国との往来の多い国で症例が多く報告されていました。

ところが、2月下旬頃からイタリアで爆発的な患者増加が報告され、その後ドイツ、スペイン、フランスなどヨーロッパ諸国でも患者が急増しています。

図にはありませんが、現在アメリカでもニューヨーク州を中心に患者が急増しています。

これらの欧米諸国は患者の爆発的な増加に対してロックダウン(都市閉鎖)やそれに準じた対応を余儀なくされています。

それに比べると日本の対策は上手くいっているように見えます。

しかし、油断は禁物です。

都市部ではジワジワと患者数が増加している

3月21日時点での東京都での新型コロナ陽性患者数(東京都新型コロナウイルス感染症対策サイトより)
3月21日時点での東京都での新型コロナ陽性患者数(東京都新型コロナウイルス感染症対策サイトより)

確かに日本での新型コロナ患者の数は欧米諸国と比べると増加のペースは緩やかですが、都市部では確実に増加してきています。

図は東京都における陽性患者数の推移ですが、東京都だけでなく大阪府、兵庫県、愛知県などではジワジワと患者数が増えてきています。

実際に都内で診療していても、2週間前と比べると明らかに陽性患者の数が増えていることを実感しており、実に不気味な気配を感じます。

クラスターから流行が広がっている

新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)より
新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)より

この図は新型コロナウイルス厚生労働省クラスター対策班作成のものですが、新型コロナ患者の8割は誰にも感染させていません。

感染を広げているのは残り2割の患者であり、この2割の感染者が広げた環境は多くが「密閉・密集・密接」の3要素を持つ空間(3密空間と勝手に命名)であったことも分かっています。

専門家会議にも出ている西浦博先生の査読前論文によると、このような「3密空間」にいる感染者は、いない感染者よりも18.7倍も他の人へ感染させやすいとのことです。

逆に「3密空間」にいない8割の感染者からはほとんど感染は広がっておらず、感染の連鎖は勝手に途切れていきます。

とにかく「3密空間」が感染拡大の大きな原因です。

クラスター発生リスクの高い3つの密(首相官邸HPより)
クラスター発生リスクの高い3つの密(首相官邸HPより)

クラスターの連鎖、メガクラスターの発生で日本もオーバーシュート(爆発的増加)が起こりうる

日本でこれまで欧米諸国よりも流行が広がっていないのは、もちろん国民の皆さまが手洗い・咳エチケットなどの感染予防を徹底したおかげという側面もあるでしょう。

しかし、大規模なクラスターであるメガクラスターが発生していないことや、クラスターから生じた感染者が別のクラスターを生み出すクラスターの連鎖が起こっていないことが大きな要因の一つと考えられます。

例えば、韓国での感染者増加の契機となった大邱市の新天地教会での感染者数は4000人以上です。

イタリア、スペイン、アメリカなどでも一部の地域で集中的に指数関数的に患者数が増加しており、メガクラスターの発生やクラスター連鎖が起こっているものと考えられます。

このようなメガクラスターが発生してしまえば、日本もあっという間に症例数が爆発的に増えてしまい、本来必要な医師や人工呼吸器の数を超えることで十分な医療が受けられない患者さんが多く出てしまいます。

また日本国内で患者数が爆発的に増加してしまえば、武漢市やニューヨーク市などのようにロックダウン(都市閉鎖)を行わざるを得なくなるでしょう。

オーバーシュート(感染者の爆発的増加)を起こさないために我々にできることは?

日本は今、なんとか社会の機能を維持しつつ、綱渡りの状態で新型コロナ対策を実行しこれまでのところ上手くいっています。

しかし、ヨーロッパなど新型コロナ流行地域からの帰国者の陽性例が増加してきており、これらの海外からの持ち込み例による感染拡大も懸念される状況です。

オーバーシュート(感染者の爆発的増加)を起こさないためには、とにかく「3密空間」を避けることが大事になります。

これまでのクラスターの事例では若い方はあまり多くありませんが、これは若年者が軽症例が多いためクラスターの検知が困難であると考えられています。若者がクラスター発生に関わっていないわけではありませんし、むしろ見つかりにくいがゆえに気づかないうちに感染を広げてしまう危険性があります。

老若男女、全ての人が「3密空間」を避けることが新型コロナ対策では重要です。

逆に、この「3密を満たさない空間」では感染伝播は比較的起こりにくいと考えられます。

特に感染者が出ていない、あるいは少ない地域ではこうした「3密を満たさない空間」における活動の自粛は段階的に解除していくことも可能と考えられます。

例えば花見なども周囲の人との距離が保たれていれば感染のリスクが高くないと考えられます(ちなみにさっぽろ雪まつりは屋外の雪像周囲ではなく雪まつりのイベントに関連した屋内施設がクラスターになったと推定されています)。

飲食店でも常に窓を開けて換気を良くし席の間隔を広くするなど「3密空間」を避けることでクラスター発生のリスクを下げることができます。

都市閉鎖という大きな犠牲を払って感染を抑え込んだ武漢市と違い、社会の機能をなんとか維持しつつ感染者を抑え込むことができれば、日本は新型コロナ対策のモデルとして世界中から参考にされることでしょう。

日々大変な状況が続いていますが、みんなで協力してこの難局を乗り切っていきましょう。

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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