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新型コロナウイルス感染症の現状と評価(2020年1月21日現在)

忽那賢志感染症専門医
(写真:ロイター/アフロ)

中国・武漢で集団感染者が報告されている新型コロナウイルス感染症について連日報道が続いています。

現時点で分かっていることと、それから考えられる現時点で必要な対策を整理しました。

感染者数について

1月21日時点での感染者222人の分布(ECDCの図を元に筆者修正)
1月21日時点での感染者222人の分布(ECDCの図を元に筆者修正)

中国国内

・当初、中国武漢で発生した新型コロナウイルス感染症患者は41例と発表されていましたが、1月18日に4例、1月19日に17例、1月20日に136例の新規症例が報告され、計198例となりました。これまでは武漢の症例のうち最後の発症は1月2日でしたが、この新規21例を含めると最後の発症は1月18日となりました。

・1月20日に広東省から1名の感染者が報じられましたが21日現在14人になっています

・1月20日に北京市でも2名新型コロナウイルス感染症と診断された患者が発表されていますが、1月21日に5人になっています。

・1月21日に上海市でも56歳女性の感染者が報告されています。

・以上より中国国内では218人の感染者が報告されています。

・1月21日に北京市、深セン市、上海市で報告された症例のうちのいくつかは武漢の渡航歴のない感染者との接触者と報じられています。

中国からの輸入例

・1月14日に1人目、1月17日に2人目の感染者がタイで報告されました。

・1月16日に日本国内でも新型コロナウイルス感染症の患者が報告されました。神奈川県の30代男性が、1月3日発熱が出現、1月6日に中国の武漢から帰国、同日、医療機関を受診、1月10日に入院し15日にすでに退院しているとのことです。

韓国でも輸入例が報告されました。武漢に渡航歴のある中国人女性です。

・以上より現在4例の輸入例が報告されています。輸入例からの2次感染の報告はありません。

新型コロナウイルス感染症の広がり

世界全体で222人の新型コロナウイルス感染症の患者が報告されています。

日本、タイ、韓国で合計4例の輸入例が発生していますが、全て武漢で感染しているものと考えられ、そこからの二次感染例はありません。

一方、中国国内では武漢の渡航歴がない接触者が発症しており、二次感染が起こっていると考えられ今後の拡大について注視する必要がありますが、いずれも接触者の発症であり疫学的なリンク(どこから感染したのか)はたどれる状況です。

重症度について

・武漢での198例のうち、25例がすでに軽快し退院しています。

・現在武漢の病院で治療中の患者は170人で、そのうち126人は軽症、35人は重症、9人は最重症で、すべて武漢の指定医療機関で隔離治療を受けています。

・武漢での198例のうち、4例が死亡しています。1人目は61歳の男性で、肝疾患と悪性疾患の持病のある方です。2人目は69歳男性で心筋炎や多臓器不全で亡くなったようです。4人目は89歳男性で糖尿病、心疾患を持病に持っていたとのことです。

・日本で診断された30代男性はすでに軽快・退院しています。

・タイで診断された1例目の症例は安定していると報じられています。

・北京で診断された5人のうち1人は重症と報じられています。

新型コロナウイルスの重症度

222例中4名が亡くなっています(致命率 1.8%)。症例数の増加に伴い致命率は低下してきています。

亡くなっている4人のうち3人はいずれも高齢者であり、高齢者は重症化のリスクである可能性が高いと推測されます(4人のうち1人は詳細不明)。

SARS(重症急性呼吸器症候群)の致命率9.6%、MERS(中東呼吸器症候群)の致命率34.4%と比べると重症度は低いと考えられます。

感染経路について

感染者の感染経路について

・武漢での198例の症例の多くが武漢の海鮮市場で働いているなど、市場と何らかの関わりがあることが分かっています。同市場はすでに閉鎖されています。また正確な人数は不明ですが198人のうち海鮮市場との接触歴のない患者もいるとのことです。

・武漢の症例のうち夫婦で感染した事例があり、夫は海鮮市場の従業員ですが、妻は市場に訪れてはおらず夫が発症した後に発症しています。

・1月21日に中華人民共和国国家衛生健康委員会の専門家は14人の医療従事者が感染したと発表しています。

・タイで診断された1例目の患者は、武漢の患者の多くが関連している海鮮市場に訪れていないが、別の市場には訪問しているとのことです。

・日本で診断された患者は、武漢市の海鮮市場には立ち寄っていないが、現地で肺炎と診断された父親との濃厚接触の可能性があるとのことです。

タイで診断された2例目の患者は、武漢の患者の多くが関連している海鮮市場に訪れていないとのことです

・1月21日に北京市、深セン市、上海市で報告された症例のうちのいくつかは武漢の渡航歴のない感染者との接触者と報じられています。

接触者調査について

・武漢では817例が接触者として追跡調査の対象となっており、このうち727例は観察が解除され、現在90例が調査中です。

・タイで診断された患者との接触者(タイ182例、中国17例)が追跡調査されていますが、このうち新型コロナウイルス感染症と新たに診断された人はいません。中国での接触者のうち1名が微熱と軽い咳があるとのことで現在精査中です。

・日本では41人の接触者調査が行われていますが、現時点で発症者はいません。

新型コロナウイルスの感染性

感染源はやはり海鮮市場で売られていた野生動物の可能性がありそうですが、武漢での症例のうち他にも海鮮市場との関連のない症例があることが判明しており、閉鎖された市場以外にも感染源があるかもしれません。

夫婦での感染事例、国内例の父親との濃厚接触歴、中国国内の14人の医療従事者の感染者の存在はヒトからヒトに感染しうることを強く示唆しています。

また中国国内で武漢の渡航歴のない、確定患者との接触者が新型コロナウイルス感染症と診断されたと報じられており、ヒトからヒトへの感染により伝播していると考えられます。

いずれも濃厚接触での発症であり、ヒトからヒトへの感染性は高くなく家庭内や病院内での濃厚な接触といった限定的な環境では感染しうる、ということを示唆するものであり現時点では容易にヒト-ヒト感染する感染症とは言えません。

引用元:

当市における新たなコロナウイルス感染に起因する肺炎の状況について(中国語 2020-01-21 04:18:02)

新しいコロナウイルス感染の肺炎に関する武漢市保健衛生委員会の報告(中国語 2020-01-19 00:43:34)

WHO.Novel Coronavirus - Thailand (ex-China)

厚生労働省. 中華人民共和国湖北省武漢市における新型コロナウイルス関連肺炎について(第5報)

WHO. Novel Coronavirus - Japan (ex-China)

ECDC. Risk Assessment: Cluster of pneumonia cases caused by a novel coronavirus, Wuhan, China

Ministry of Public Health Thailand. Ministry of Public Health receives 2 tourists from Wuhan for pneumonia at Bamrasnaradura Institute 2020(タイ語 2020年1月17日).

以上より、中国で二次感染と思われる事例が発生するなど引き続き今後の情報を注視する必要はありますが、現時点で日本国内で感染が拡大する兆候はありません。

武漢に渡航された方、これから渡航される予定の方については以下の点にご注意ください。

武漢に渡航する予定の方、渡航した方

・家禽や野生動物との接触、生肉や調理が不十分な肉の摂取は避けるようにしましょう

・現地で体調の悪い人、病人との接触は避けるようにしましょう

・食事やトイレの後など手洗いをこまめに行いましょう

・帰国後数週間(※潜伏期不明のため)は健康状態を注意深く観察し、体調不良時はすぐに病院を受診しましょう。その際には事前に渡航歴について医療機関へ連絡したうえで、受診するようにしましょう

日本で生活している方

・咳や鼻水、喉の痛みなどの呼吸器症状がある場合は、マスクを着用しましょう。マスクがないときも咳エチケットを徹底するようにしましょう

・手洗いをこまめに行いましょう

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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