仮想通貨の2018年、熱狂に次ぐ幻滅の先に光明はあるか

(提供:アフロ)

2017年は「仮想通貨元年」に

2017年はまさに仮想通貨元年と呼ぶに相応しい1年だった。ビットコイン価格は年初から2013年のピークを突破、12月19日には年初の約20倍の1BTC = 200万円を超えた。4月に改正資金決済法が施行されて仮想通貨の法的位置づけが明確になるとともに仮想通貨交換業者が正式に金融庁の登録を受けた。かねて懸案となっていたビットコインの処理能力もSegWitが有効化されて容量が拡張されて、ライトニングネットワークなどのオフチェーン取引が可能となった。ICOによる資金調達が国内でもいくつか出て、VALUなど個人向けの資金調達プラットフォームも登場し、仮想通貨ならではの新たなユースケースも出てきている。

一転してビットコイン価格は調整局面に

今年は仮想通貨にとって、どのような年になるのだろうか。まず昨年の上昇相場で見過ごされてきた様々なリスクや矛盾が顕在化する年となるだろう。相場の格言で「上がった相場は自らの重みで落ちる」といわれるが、ビットコイン価格はピーク後たったの2 週間で3割近くも下落している。値動きが激しく現物取引が多い仮想通貨では、相場の上昇局面では保有している誰もが得をするが、相場が下落すると高値で掴んだ者から含み損を抱えることになる。

関心の高まりと消費者問題の顕在化

仮想通貨に関する消費生活センターへの相談件数は2014年度194件、2015年度440件、2016年度634件と着実に増加している。2016年度の集計をみると60歳代以上からの問い合わせが過半数を超えており、高齢者を標的とした悪質な勧誘が増えていることが推察される。2017年4月期から独立して集計されるようになった金融庁の金融サービス利用者相談室への相談件数は、4~6月期の543件に対して7~9月期には685件と大幅に増加しており、これから公表される2017年度の消費生活センターへの相談件数は更に増えることが予想される。

消費生活センターが公表している相談事例によると、登録された交換業者を使った正規の取引よりも、友達経由での購入や投資の勧誘など、昔ながらの投資詐欺集団が、仮想通貨をダシに金融リテラシーの低い高齢者や無限連鎖講の愛好家から資金を集めているケースが問題となっているようだ。こうしたトラブルは消費生活センターが呼びかけているように、金融庁に登録されている交換業者を通じて取引することで防ぐことができる。

2018年はICO詐欺が社会問題に

これから深刻な消費者問題となるのは、仮想通貨で購入できるICO (Initial Coin Offer) を巡るケースだろう。ICOとは株式のIPO (Initial Public Offer) と同じように、これから新規に発行するコインを公募で売り出す仕組みである。ホワイトペーパーと呼ばれる事業計画なり目論見書に相当するものをネット上で公表し、その趣旨に賛同する個人がクラウドセールと呼ばれる募集に応募して、仮想通貨を払い込む形態が一般的だ。

2017年11月にシンガポールで行われたFinTech Festaで、仮想通貨Ethereumの共同創業者Joseph LubinやRippleのCEOであるBrad Garlinghouseが「多くのICOは詐欺だ」と警鐘を鳴らしている。規制を避けるために株式のような有価証券としてではなく、法律上は寄付や仮想通貨に分類される建付けで募集され、投資家保護の対象となっておらず、十分な情報開示が行われていないケースが多い。とはいえ2017年半ばにはFinTech分野でのシードやシリーズAでベンチャーキャピタルからの資金調達をICOが上回るなど、その存在感は無視できなくなりつつある。

海外の事例を見ると2016年6月のThe DAO事件のように、仮想通貨を募集後にシステムの脆弱性を悪用されて集めた仮想通貨を流出させたり、後から規制当局によって有価証券に分類されてしまった事例がある。2017年11月にはICOで約4200万円を集めたスタートアップのConfidoが資金調達直後に姿をくらまして話題になった。同社はブロックチェーンを利用して商品の追跡と連動した支払いサービスを開発するとして資金を集めていたが、同社自身が集めた資金を持ち逃げしてしまうとは皮肉な展開だ。中国でも実装をコピーした粗雑なICOが数多く行われ、裁判で係争となっているという。

こうした混乱を受けて、中国や韓国はICOを禁止する方針を打ち出しているが、先進各国は敷居の低い資金調達手段として規制しつつ認める方向にある。エストニアのeレジデンスプログラムのように、国としてICOを試みる動きも出て、ECB(欧州中央銀行)総裁の牽制する発言が話題となった。

いまのところ日本でICOのガイドラインはない。日本仮想通貨事業者協会が12月8日付で公表したお知らせによると、ICOが仮想通貨に該当する場合、その売出しは仮想通貨取扱業者が行う必要があるとされている。これは株式のIPOと同様の規律で、ICOを禁止した中韓よりは寛容だが、欧州と比べて厳しいハードルとなっている。

ICOの多くが仮想通貨による払い込みで簡単に国境を超えるため、日本がICOに際して海外よりも厳しい要件を課した場合ICO案件の海外流出を招く公算が大きい。とはいえリテラシーの高い投資家による海外で募集されたICOへの参加を妨げず、国内での野放図な投資勧誘を防ぐ効果は期待できるという見方もできる。

ICOブーム以前から実体の明らかではない仮想通貨を騙った投資詐欺が横行して消費者問題となってきていたし、年末には芸能人を担いでの派手なICOが話題になっており、各国ともICOに関するガイドラインや制度整備の動きが出てきていることから、日本でも今年中には投資家保護へ向けて、ICOについて何かしらの対応が必要となるだろう。業界として自主規制で規律できないようであれば、法令による規制を要することも考えられる。

税制上の扱いが明確化され、資金の流れを左右する

直近の動きとしてICOに資金が流入しそうな背景に、仮想通貨売却益の税制上の扱いが、株式のような源泉分離課税の譲渡所得ではなく、総合課税の雑所得として明確化されたことがある。仮想通貨の値上がりを背景に仮想通貨での含み益を抱えている利用者が増えたが、所得税の高い税率を懸念して年内に利益確定できず、他の仮想通貨やICOへの投資に流れ込んでいることが考えられる。

交換業者で売買される主要な仮想通貨は、ICOの募集で払い込みに利用され、いわば仮想通貨における基軸通貨として機能している。保有する仮想通貨で海外のICOに応募する場合は取引がブロックチェーン上で完結するため、仮想通貨の売買と比べると当局による捕捉が難しくなるケースも考えられる。国税当局が今年からビットコイン長者のリストアップに着手すると報じられたが、いずれ現物として引き出された仮想通貨が、何に投資されたかも追跡することになるのだろうか。

仮想通貨の前提を台無しにしたビットコインの分裂

ビットコインの分裂も仮想通貨の未来を見通し難くしている。ビットコイン(BTC)とビットコインキャッシュ(BCH)が分裂した2017年8月を振り返ると、容量を超えた送金によってコイン詰まりが続いて決済手段としてのビットコインの将来性が危ぶまれる中でSegWitの導入が決まり、ライトニングネットワークなどのオフチェーン取引が可能となることが好感されてビットコインは値上がりした。ビットコイン・キャッシュも方法は異なるが、処理容量を増やして仮想通貨の実用性を高める技術として好感された。

仮想通貨に対する需給が逼迫した時期に分裂したことから、結果として両者の価値の合計は分裂前を上回り、株式分割のようなものと楽観視されるようになった。ビットコインキャッシュも、その後のビットコインゴールドも、設計の多くをビットコインから借りてきたコピーコイン、フォークコインに過ぎないにも関わらず時価総額で上位につけるなど、ビットコインの価値にタダ乗りすることに成功した。この成功が地道に独自ブロックチェーン技術を開発するよりも、ビットコインをフォークした方が儲かるのではないかという「フォークコイン・ラッシュ」に繋がった。

もちろん多様な実装の間で競争が起こり、市場を通じて優れた方式が選別されることは必ずしも悪いことではない。しかしながら相次ぐフォークコインの登場は、幾重にもビットコインの価値の源泉となる希少性をはじめとした前提を掘り崩してしまった。

ビットコインが産まれた2008年、リーマンショックの傷を癒やして金融秩序を維持すべく各国の中央銀行は大幅な金融緩和を実施した。こうした中央銀行による恣意的な量的緩和に対するアンチテーゼとして、予めアルゴリズムで発行量を決めて運営主体を持たないビットコインが構想されたことを振り返る必要がある。人間を信じることはできなくても、アルゴリズムと暗号強度であれば信用できるとサイファーパンクたちは考えた。

ビットコインが広く流通し価値の上昇を通じてその仮説は立証されてきたが、フォークコインの登場によって台無しになってしまった。元々のビットコインの発行量が約2100万BTCに限定されたままであったとしても、それとは別に様々なフォークコインやオルトコインを無尽蔵に発行でき、コインを分裂させる際に用いるハードフォークの手続きを経れば、ビットコイン自体の発行総額もいくらでも増やせることが明らかとなったからだ。

これまでビットコインの運営主体はいないとされてきたが、採掘事業者や開発のコアチームといった運営関係者が存在し、円滑な運営のためにはチームのガバナンスが必要で、仲間割れが起きた時にルールを強制する仕組みが何ら存在しないことも明らかとなった。仮想通貨も中央銀行と同じように、人間が創造し、人間が運用し、人間の意志によっていくらでも台無しにできるのだとすれば、仮想通貨だからといって発行に際して発行主体が負債を立てずに済む根拠をどこに置くのだろうか。

野放図なビットコインの分裂に加えて、ICOの多くが有価証券規制を潜脱するため新たに発行するコインを仮想通貨と位置づけてしまったために、当初ビットコインが勝ち取った仮想通貨の特権的な法的位置づけは風前の灯にある。2018年は仮想通貨の価値の源泉について改めて考え直すとともに、仮想通貨を取り巻くガバナンスへの関心が高まる1年となるだろう。ビットコインがさらに分裂を繰り返すことがあれば、その存在意義を掘り崩すことになる。

実現できることの真価を問われるブロックチェーン

仮想通貨に対する毀誉褒貶が激しくなると同時に、仮想通貨そのものよりも、それを支えるブロックチェーン技術こそ革新的であるという議論が出ている。昨年からISOやITUでブロックチェーンや分散台帳技術の国際標準化が始まるなど、その仕組みに対する関心は高まった。ICOで資金調達を行うプロジェクトの多くがブロックチェーンを採用し、日本取引所グループや日本銀行、多くの金融機関がブロックチェーンを使った実証実験を行っている。

かつてはブロックチェーンを24時間365日稼働し、低コストで効率的な分散データベースとして期待する向きが多く、もっぱらその効率や性能に関心が集まっていた。ビットコインの性能問題や通貨発行益を運営に充当するからくりが認識され、高騰する採掘費用や電力消費が問題とされるようになって、ブロックチェーンが銀の弾丸といえない現実が認識され始めた。

2018年は分散台帳の複数組織間での運用や、スマートコントラクトで実現できる機能、トランザクションのファイナリティ、誤った取引を行った場合のロールバックなど、金融実務でブロックチェーンを使おうとした場合の具体的な要件や機能について議論が進むだろう。

実際の金融システムにとって、ブロックチェーンや分散台帳が担うデータベース機能は、必ずしもコストの大部分を占めるものではない。ブロックチェーンや分散台帳を用いて決済コストを低減させようと試みることは、複雑な業務要件や仕様の文書管理など、従前のシステム開発のコスト構造を見直す契機にもなるのではないだろうか。

仮想通貨とブロックチェーンにとって熱狂と陶酔の2017年が過ぎて、今年は真価を問われることになるが、幻滅を乗り越えて現実と向かい合う中で見えてくる新たな光明もあるはずだ。