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アップル陥落?…アップストアのアプリ販売手数料値下げで、これからどうなる?

黒川文雄メディアコンテンツ研究家/黒川塾主宰/ジャーナリスト
(画像)アップル公式サイトより

悪のビッグブラザーに成り下がった…と追及されたアップルだが…

始まりは8月13日のことだ。大人から子供までに絶大な人気を誇るエピックゲームズを代表するコンテンツ「フォートナイト」が、アップストアからBAN(削除)されたことがきっかけだった。

追随してグーグルのグーグルプレイでも「フォートナイト」は同様に削除された。

詳細は8月24日にアップした筆者のテキストを参照いただきたいが、簡単に言えばアップルがアプリの大小にかかわらず一律に設けている30%の販売手数料を巡るアップルとエピックゲームズのせめぎあいによるものだ。

その「フォートナイト」を巡る動きでは…、

アップルは、1984年に、ビッグブラザー「IBM」を仮想敵として照準を合わせコンピュータ産業に変革を果敢に求め、全米にテレビコマーシャルで訴求したが、30年後にはアップル自身が「悪のビッグブラザー」に成り下がったとエピックゲームズから、全世界向けに配信動画で揶揄されるに至ったことは、メディアの使い方を見ても時代の変化と歴史の変遷を感じずにはいられなかった。

※)騒動の発端に関しては、筆者が8月24日にアップしたこちらのテキストを参照いただきたい。

エピックゲームズ VS アップル+グーグル 世界を巻き込んだ新世代ゲーム戦争のゆくえ

条件付きで販売手数料は30%から15%に軽減される

11月18日のアップルの発表によれば、現在、アップストアで有料アプリの販売手数料は、現在一律に30%をトップオフされているものが、2021年1月からは、中小事業社(者)向けの手数料比率は15%に軽減するという。

これにより、中小事業者と言われる約2800万社(個人を含む)の開発者の収益からの取り分が増えることになり、結果として開発者側の負担は軽減されることが予想される。

これらは、おそらく8月の「フォートナイト」の販売手数料騒動よりも前から、大手を中心にアップルの販売手数料の軽減を求めてきたこと…、さらにはアメリカ政府主導の議会などでの糾弾、反トラスト法(独占禁止法)違反の疑いでの調査が続いていること…、GAFA(グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾン)への風当たりが強まる中…、おそらく、今も大手のパブリッシャーを中心にアップルへの販売手数料の値下げの陳情は引きも切らないことだろうが、現時点でのアップルの選択肢と判断はベストだったと言えよう。

手数料減額の対象社(者)は…?

では、今回の販売手数料が減額される対象社(者)はと言うと、2020年のアプリ販売額合計が100万ドル(約1億円)以下のパブリッシャーを対象にするという。

同時に2021年から新規にアプリ販売を始めるパブリッシャーも減額対象とするという。

しかし、今回の措置によって、アップルが失うものはさほど大きくはないと筆者が考えている。

仮に年間100万ドル販売実績があるパブリッシャーを例にとれば、今までのアップル販売手数料は30万ドル(1ドル100円として3000万円)とすると、2021年からは15万ドル(1500万円)になるワケだ。

もちろん中小パブリッシャーにとってはその金額が大きいものだが、アップルにとっては、おそらく、その金額単位はあまり気になるものではないだろう。むしろ、今回の配信手数料の措置で、今までよりも多くのパブリッシャーやデベロッパーが参入することで、格言で準えるならば「塵(ちり)も積もれば山となる」ということになるだろう。

ちなみに、アップルのCEOティム・クック氏は「小規模事業者がアプリ開発に継続的に取り組むことを支援するものだ」と言っていることからも明らかなように、より多くのパブリッシャーやデベロッパーを取り込めば15%の値引きは取り戻せるし、それ以上のリターンがあるという自信すら感じる。

アップルが提供するiPhoneなどのデバイスは、世界に15億台超の普及があり、2019年のアップストア売上高の合計は5190億ドル(約54兆円)に達している。その売り上げの多くはゲームで言えば上位ランキングのアプリに集中しているのだ。

これから起こること……?

2020年を震撼させた新型コロナ感染症は未だその脅威は衰えることを知らず、日本では、むしろGoToトラベルが振興されるほど、その患者数が増えている。

企業のリモートワークは推進され、副業も公認され、奨励されるなか、今後、新規でアプリ開発をする個人、企業は増えることだろう。それらを考えれば、アップルの販売手数料15%へのダウンは、参入への撒き餌(まきえ)のようなものと言っても過言ではない。

そして、次に起こるのはグーグルもアップルの動きに追随するはずだ。

グーグルは写真(フォト)ストレージを一定以上に有料化を既に発表しているが、クラウドサービスのすべてを無料で提供する時代は徐々に終わる。ゆえに、販売手数料を下げてきたアップルへの対抗措置として、グーグルも中小パブリッシャーやデベロッパーを獲得したいために、横並びで販売手数料の減額を15%などの定量で行ってくるはずだ。

一見するとアップルが善人に見えるのは錯覚だ…

そして、その次に起こることはエピックゲームズなどの大手パブリッシャーとの和解だろう。

この和解のために準備されるプログラムは年間の販売収益に応じた段階的な手数料の減免、減額ではないだろうか。つまり一律30%の販売手数料の撤廃に向けての動きの手始めが、今回の15%の減額だと筆者はみている。

2021年は中国をはじめとした新興ゲームなどのアプリが再び市場を席巻することだろう。特にビジネスをするうえで中国人のタフな商談ぶりは言うまでもない。そこには、日本人のような遠慮はないのでここでもアップルは何かのトレードオフをせざるを得ないのではないだろうか。

アップルの今回の措置が、中小規模を対象にしたサポート・プログラムのように見えるかもしれないが、アップルはそんなに善人ではない。それは冒頭で述べたように、すでに21世紀のビッグブラザーだからだ。

今回の軽減措置は単なる一(いち)パブリッシャーのみを見据えた対策ではなく、テンセントやアリババなどのBATH(バイドゥ・アリババ・テンセント・ファーウェイ)との熾烈(しれつ)な戦いのための前線を構築するための下準備だと考えている。今後も、その行方を見ていきたい。

※ アップル公式サイト

※ 今回の発表内はこちらを参照

筆者参考記事)「エピック・ゲームズVSアップルは氷山の一角 キミはあの事件を覚えているか?」

19日18時誤字脱字を修正しました。

【追記】

黒川塾 96チャンネル にても今回の解説動画をアップしました。よろしければ、こちらもご覧ください。

メディアコンテンツ研究家/黒川塾主宰/ジャーナリスト

黒川文雄 メディアコンテンツ研究家/黒川塾主宰/株式会社ジェミニエンタテインメント代表 アポロン音楽工業、ギャガ、セガ、デジキューブを経て、デックスエンタテインメント創業、ブシロード、コナミデジタルエンタテインメント、NHN Japan (現在のLINE、NHN PlayArt)などでゲームビジネスに携わる。現在はエンタテインメント関連企業を中心にコンサルティング業務を行うとともに、精力的に取材活動も行う。2019年に書籍「プロゲーマー、業界のしくみからお金の話まで eスポーツのすべてがわかる本」を上梓、重版出来。エンタテインメント系勉強会の黒川塾を主宰し「オンラインサロン黒川塾」も展開中。

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