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「それってパクリじゃないですか?」弁理士視点の感想と視聴者向け法律解説(6)

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
(写真:イメージマート)

それパク第6回目の知財ネタは発明の新規性等でした。簡単な法的解説と感想を書いていきます。ドラマを見たことを前提に書いています。未見の方にはネタバレになりますのでご注意下さい。

言うまでもなく、特許を取得するためには新規性があることが前提となります。既に世の中に公表された発明は特許化できません。たまに勘違いされている方がいますが、発明者自身が公表・販売等しても新規性はなくなります。したがって、発明(アイデア)を公表する前に特許出願しておくことが大前提です。

しかし、それにも例外規定があります。発明者自身が最初に公表・販売等した時点から1年以内に(しかるべき指定をして)出願すれば、その公表・販売等を理由に新規性がないと判断されることはありません(もちろん、それ以前から知られていた発明であれば、どちらにしろ新規性はないので特許化できません)。

この新規性喪失の例外規定を使うと、出願前には学会発表できないというドラマ中の問題はすぐに解決してしまうのですが、先に発表してしまうと第三者に勝手出願されてしまうリスクがあるので新規喪失の例外は使えないという前提で話が進みました。確かに、この第三者の出願が、発明者の発表をパクったものであることを立証できれば冒認出願(第1話で出てきた話です)として拒絶にでき、かつ、冒認出願には先願の地位がないので問題なくなるのですが、現実には、冒認出願を立証することは困難な場合があります(ドラマのように証拠になるビデオがあるわけもありません)。なので、ドラマとして成立させるために新規喪失の例外は使えないという設定にしたものと思いますが、実務上も新規喪失の例外は使わないなら使わないに越したことはないので、この設定自体は非現実的というほどではありません。

事前のあらすじを見ていた時点では、論文そのままの内容で仮出願して、後から国内優先権という制度を使ってちゃんとした出願を行うというめちゃくちゃ実務的な話になるのかと予測していましたが、そういった展開にはならず、学会発表前に完全な形で出願するにはどうしたら良いかという流れになっていました(まあドラマとしておもしろくする以上しょうがないですが)。

そして、学会発表日までの2週間で出願できないという理由も時間が足りないからではなく(現実には本気出せば2日もあれば出願は可能です)、発明の効果を主張できるだけのデータが十分になかったからということで、官能評価(人間の感覚に基づく評価)によりデータを追加するという展開になりました。食品や化粧品分野ではよくある話らしいですが、私はそれらの分野の実務をやったことないので、全然思いつきませんでした(私の観測範囲では、ツイッターの知財クラスターの予測でもこの話は出てこなかったと思います)。

カメレオンティーの特許出願の話はどうなったのかと思っていたのですが、敢えて(発明の公開が前提となる)特許出願はせずに、秘匿化して営業秘密(トレードシークレット)としていたのですね。トレードシークレットの例としてよく使われるのはコカコーラの原液ですが、番組スポンサーがサントリーなので、ケンタッキーフライドチキンのスパイスの例が使用されたものと思われます。なお、たとえば、スマホのユーザー・インターフェースの発明のように外から見るとすぐ内容がわかってしまう発明の場合は、営業秘密化が使えないことは言うまでもありません。

営業秘密にすると、費用をかけずに永遠に発明を守れますが、何らかの理由で漏洩したり、リバースエンジニアリングで発明の内容がバレたり、第三者に偶然同じ発明をされたりすると困ったことになります。ドラマ中では、「万一、他社が同じ発明を出願して特許化したら月夜野は終わり」みたいな話があったと思います。ただ、実際には、その出願前から実施していれば先使用権が生じるので、後で成立した特許により差し止めや損害賠償請求を受けることはありません(とは言え、改良発明の制限等でダメージを受けることは確かですが)。

予告編によると次回はパテントトロールのようです。知財の世界をドラマ化するとしたら最も盛り上がりそうな大ネタなのでどう料理されるのかちょっと楽しみです。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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