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特許庁が「マジックミラー号」を周知商標であると認定した根拠

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
(写真:イメージマート)

「"マジックミラー号"の商標出願が話題、ソフト・オン・デマンドの狙いは?という記事を読みました。弁護士ドットコムの記事なので内容も正確かつ十分であり、あまり、追記することはありません。

しかし、「マジックミラーカー」なるソフト・オン・デマンド社ではない出願人による出願の審査の拒絶理由通知において、特許庁が「マジックミラー号」を周知(または著名)商標として認定している点がちょっと気になりました。

ラーメン二郎に関する過去記事等でも触れましたが、一般に、特許庁の周知性の判断では、新聞やテレビなどのマスメディアへの露出、市場シェア、広告予算などが重視される傾向があります。その結果、一部の世界の人々には超有名だが、その世界の外部の人は全然知られていないという商標は周知性がないとされてしまう可能性があります。「マジックミラー号」もそういうタイプではと思います。

拒絶理由通知を見ると、「マジックミラー号」を周知商標と認定しているのは、審査官の職権調査というよりは、第三者により行われた情報提供(刊行物等提出)によるところが大きいようです。情報提供とは、第三者が、審査に関連した証拠資料を提出できる制度です。通常は、他人による商標の登録を阻止するために行われます。

ウェブ(J-PlatPat)からは、情報提供が行われているという事実しかわからず、その内容はわからないので、手数料を払って審査書類を取り寄せてみました。やはり、ソフト・オン・デマンド社によるものでした。情報提供は匿名でもできるのですが、今回の場合、匿名で行っても誰が出したかはバレバレなのであまり意味がないでしょう。弁護士と弁理士の両方を代理人とした気合の入った情報提供です。

情報提供は対応条文ごとに3通出ています。文春オンラインの記事やSOD社員による陳述書なども提出されており、商標の識別性や不正目的等、他にもいろいろ主張されていますが、「マジックミラー号」の周知性に関する部分のみ、以下に引用します(一部、改行の付加と全角文字の半角化を行いました)

2 その他人の標章(栗原注:「マジックミラー号」のこと)の周知度

ア 提出者は、平成8年9月18日から、マジックミラー号と命名したマジックミラーを備えた自動車を使用して撮影したアダルト・ビデオ作品(「爆走マジックミラー号がイク(1)」、「爆走マジックミラー号がイク(2)」)を、マジックミラー号との商標を付して発売した(資料14)。

イ 同年 9月16日発売の週刊宝石では、撮影時の写真が掲載された(資料6)。

ウ その後、提出者は平成15年6月13日、商標「マジックミラー号」を登録申請し、平成16年2月6日、「マジックミラー号」は第9類、第 12類及び第31類で商標登録された(商標登録第4746722号)。

エ その後も、提出者は、この引用商標を用いて、マジックミラーを備えた自動車を使用して撮影したアダルト・ビデオ作品をDVD等で販売し、近年ではインターネット配信してきたものであり、マジックミラー号の商標を付したアダルト・ビデオ作品は発売から25周年を迎えた(資料7)。

オ 実施に撮影に使われたマジックミラー号に乗車した人数は延べ8000人を超え、総走行距離は地球25週分(約100万キロ)に及んでいる(資料7)。

カ 初代のマジックミラー号は、ベニヤの箱を2tトラックに載せた簡易的な構造だったが、平成13年に制作された2代目の製作にはおよそ5000万円という費用がつぎ込まれ、運転席側のハッチを開けば、荷台部分に格納されていたカプセルがスライドし、6畳ほどのスペースが生まれる構造となっているので(資料8)、マジックミラー号の存在は今や広く知れわたり、とくに展開した状態では明らかに「それとわかる」形状になる。

キ 「とくにSNSが流行ってからは『ミラー号が止まってる』みたいな投稿で見に来ちゃうんですよね。一度200人くらいに囲まれることがあって、それはもう撤収するしかなかったですね。知名度上がっちゃった分、やりづらいこともあります」との報道もされている(資料9)。

ク このおよそ26年間に、マジックミラー号のタイトルが付せられたアダルト・ビデオ作品は多数制作販売されており、令和4年7月31日発売分までの総発売本数は1473本に及んでいる(資料10)。単純計算では、毎月4本から5本のマジックミラー号が発売されてきたことになる。

ケ 提出者の広告媒体である「日刊SOD on line」(https://news.sod.co.jp/)には、マジックミラー号に関連する記事が多数掲載されてきた(資料11)。

コ また、提出者は、自社が販売するアダルト・ビデオ作品の広告月刊誌「月刊ソフト・オン・デマンド」(以下「本誌」という)を2011年5月10日よりコンビニ、書店等で販売開始し、毎月常時5万部近い発行部数を維持してきた。

サ リニューアルした2014年7月号からの本誌の売上げは月間10万部を超えている時もあり、人気の高さが窺われる。近年は、販売数が落ちてきているが、2019年1月段階でも月間5万部を超える発行部数となっている(資料14)。

シ 提出者は本誌において、マジックミラー号の商標の付せられたアダルト・ビデオ作品を販売の都度、宣伝するとともに、本誌の増刊号として「マジックミラー号」を2010年8月から2021年まで毎年発行してきた(資料14)。

ス また、マジックミラー号は様々なメディアに取り上げられており、2020年10月から2022年7月末までの掲載案件を抽出したところ、媒体別に分類すると、ウェブ掲載案件が20件,TV放映案件が2件,新聞雑誌掲載案件が7件の合計29件、マジックミラー号を使用した映画撮影案件が1件、ゲーム案件が1件、YouTube掲載案件が13件、全合計で44件のメディア掲載が確認できる(資料12)。特にその多くは一般人を対象としたメディアに取り上げられている点が重要である。

セ その結果、「マジックミラー号」は提出者のアダルト・ビデオ作品(商品分類第9類)に用いられている商標であるとともに、アダルト・ビデオの撮影に使用されたマジックミラーを備えた自動車であるマジックミラー号(商品分類第12類)の商標として、アダルト・ビデオ作品を購入、配信又は視聴する需要者、週刊誌等の需要者に加えて、マジックミラー号の撮影現場に居合わせた者たちや一般の者にも、周知されているものである。これらの人たちの中には、自動車を購入又はレンタル しようとしている需要者も多く含まれている(資料14)。

私見ですが、今回のケースでは、審査官が職権調査だけで「マジックミラー号」を周知商標と判断してくれるかどうかは微妙なところがあったので情報提供した意味は大きかったのではと思います。

ところで、関連業界の件について、ついでに書いておきますが、過去記事でも書いた「例のプール」の図形商標は無事登録されています。元より、このプールを管理する撮影スタジオとのコラボプロジェクトなので、特に問題が生じるケースではありませんでしたが。

出典:商標登録第6280795号公報
出典:商標登録第6280795号公報

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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