Pythonといえば著名なプログラミング言語であり、米国のPython Software Foundationがその管理をしています。Pythonの商標登録は、9類(ソフトウェア関連)と42類(コンピューター関連)については、既にPython Software Foundationが取得しています(登録6399950号)。しかし、9類(電気通信機器等)、16類(紙類)、41類(経営セミナー開催等)、42類(デザインの考案)については、日本の株式会社アークという日本の研修サービス企業がPython Software Foundationに先がけて商標登録(登録6042638号)しており、一部で懸念されていました。同社のサイトに「日本国内において商標Python(類似商標を含む)、研修・セミナーの開催、資格試験の実施、また他社から授与されたPython資格を名乗る行為などは、弊社の商標権の侵害もしくは抵触の恐れがありますので、ご注意ください」との記載があることも懸念に拍車をかけていたと思います。

結論から先に書くと、この問題は解消し、Python Software Foundationが9類(電気通信機器等)、16類、41類、42類についてもPythonの商標権を獲得できる可能性が高そうです。

なお、Pythonは造語ではなく蛇の種類の名前なので、それを、商標として採択し、出願すること自体は特に問題はありません(実際、Python言語が登場する前からPythonという商標登録(たとえば自動車の盗難防止アラーム)はありました)。

Python Software Foundationはしかるべき対応を取ることを表明していましたが、昨年の5月に不使用取消審判を請求しました(栗原がコメントしたPublickeyの記事)。不使用取消審判とは、3年以上使用されていない商標登録を第三者の請求により取り消せる権利です。無効審判ですと、不正目的の出願であること等を立証しなければならず、今回のケースではハードルが高いですが、不使用取消審判であれば、商標権者が適切な使用の証拠を提出しなければ取り消しできます。

そして、つい先日の4月20日に、株式会社アークの商標登録をすべての指定商品・役務について取り消す旨の審決が行われました。審決取消訴訟の提起は可能ですがその可能性は低いと思います。Python Software Foundationは、セオリーどおり、不使用取消審判請求の前日に自ら商標登録出願を行っていますので、これにより、ほぼ確実に商標権を取り戻せることになるでしょう。

なお、株式会社アーク(代理人を任命しなかったようです)も使用証拠の提出を行ってはいるのですが、商標の正当な使用とは認められませんでした。たとえば、自社ウェブにPythonという言葉を掲載しているだけでは商標の使用にはなりません。そして、仮に、Pythonという商標を使用した経営セミナーを開催していたとしても、Pythonというプログラミング言語に関するセミナーであると消費者が認識する場合にはそれは品質(内容)の表示に過ぎず、商標的使用(出所表示、自他商品識別)ではないので不使用取消を免れることはできません。セミナーの開催についての商標的使用であるとみなされるためには、たとえば「日経フォーラム」や「ワタミ塾」といったように、セミナーのブランドとして消費者に認識される形で使用される必要があります。

追記:単なる品質(内容)の表示では商標的使用と認められないことの裏返してとして、単なる品質(内容)の表示に対して商標権の効力は及びません(商標法26条)。したがって、この商標登録が取り消しされる前であっても、Pythonという言葉を含む名称のセミナーでPython言語を教えることに対して権利行使されたとしても商標権侵害にはならなかったと思われます。