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クラウドフレアは邪悪なのか?

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
出典:Cloudflare, Inc,

「出版4社、米IT企業を提訴へ 漫画の海賊版データを配信」というニュースがありました。出版社のプレスリリースを見るとより詳しい内容がわかります。集英社、講談社、小学館、KADOKAWAが米Cloudflare社を著作権侵害による約4億円の損害賠償(一部請求)および差し止めを求めて東京地裁に提訴したという話です。

クラウドフレア社は、CDN(コンテンツ・デリバリ・ネットワーク)サービスを主力事業とする企業です。CDNは、ウェブ・コンテンツを利用者の近くでキャッシングすることで性能を向上するサービスであり、大規模なコンテンツ配信サイトではほぼ不可欠となっています。同種のサービスとしては、AkamaiやAmazonのCloud Front等が有名です。クラウドフレアは、無料プランを提供していることもあり、トラフィック量ベースの市場シェアはCDN市場で最大とのことです。

冒頭で挙げた出版社のプレスリリースによれば、

大手CDN事業者は多くの場合、契約締結時にサイト運営者の身元確認を行い、かつ当該サイトが違法・不当なコンテンツ配信を行うことのないよう、さまざまな手段を講じています。一方、クラウドフレア社のCDN事業は、メールアドレスの登録のみで契約が可能であり、かつ、一定の範囲であれば無料でサービスを利用することができます。また、サイト運営者は同社サービスに登録することによって、氏名や連絡先等の運営者情報を同社に代替させることが可能です。こうした特性から、身元の特定を嫌う海賊版サイトの多くが、クラウドフレア社のCDNサービスをこぞって利用するようになっています。(中略)

原告となった出版4社はこれまで同社に対し、著作権侵害が明らかな海賊版サイトを具体的に示したうえで、対象サイトが違法に蔵置している侵害コンテンツについて、一時的複製(前述のキャッシュ)や公衆送信の停止及び海賊版サイト運営者との契約解除などを再三、求めてまいりました。しかしながら満足の得られる対策や説明はなされておりません。

という事情があるようです。

クラウドフレア社はニューヨーク証券取引所に上場している真っ当な企業です。ただし、同社のWikipedia記事(英文)のControversiesという項目(現時点での日本語版記事には同等の項目はありません)にも書かれているように、著作権侵害は元より、ヘイトスピーチ、テロリズム、乱射事件等の凶悪犯罪行為等の問題コンテンツを含むサイトに対しても平気でサービスを提供していることから、相当に物議を醸している会社であることは確かです。

違法行為はしない(裁判所の命令があれば従う)が、「言論の自由」を最優先し、権力に忖度はしないというのが同社の考え方なのだと思います(CEOは"free speech absolutist"を自認しているとのことです)。たとえばですが、「大手CDN業者のように契約締結時にサイト運営者の身元確認をちゃんと行え」と言われると、「法律でそう決まっているならそうするが、任意なのであれば、検閲につながるからそういうことはしない」と答えるタイプの企業なのだろうなと思います(と私が思うだけで、実際にそう答えた事例があるわけではありません)。

さて、冒頭の記事の続報として、「著作権侵害、深刻に受け止める 米クラウド社、提訴にコメント」というニュースもあります(余談ですが、見出しでクラウドフレアを「クラウド社」と略すのはどうしたものかと思います)。ここで、「サービスが著作権侵害に寄与するものではないと米国の連邦裁判所から判断されている」と同社がコメントを出しています。これは、昨年の10月の北カリフォルニア地裁での判決のことを言っているのだと思います(参考記事)。

この裁判は、ウェディングドレスの販売会社が、偽物のドレス販売会社にウェブサイトの写真を無断使用され、著作権侵害で差し止めしてもすぐに別のサイトを立ち上げるなどされて埒が明かなくなったために、一貫して違法サイトの運営企業にCDNサービスを提供しているクラウドフレアを著作権侵害に寄与しているとして訴えたものです(気持ちはわかります)。

判決文では、クラウドフレア社は単に(あらゆるクライアントに共通に)ウェブ閲覧の効率化サービスを提供しているだけである、仮にクラウドフレア社が侵害サイトのキャッシュを削除しても侵害サイトの内容は(効率が悪くなるだけであって)依然として表示される(その点、ホスティング・プロバイダーに対する削除要求とは話が違います)、クラウドフレア社は侵害サイトのIPの開示要求に適切に応じているとの理由により、寄与侵害は成立しないとしました。この前提条件で考えれば妥当な判決と思います。

寄与侵害の判断は、基本的に線引きの問題です。犯罪者を助けるサービスは全部違法なんてことになったら、通信事業者は全部違法になってしまいます。結局、侵害行為を特段に援助しているのか、侵害行為を止めることができるのに適切な対策を取らなかったのかがポイントです。今回の裁判は日本ですし、前提条件も違うので米国と同じ結論が出るとは限りません。特に、漫画村に広告を提供していた広告代理店の幇助が認められて賠償金支払が命じられる(参照記事)など、違法漫画配信については裁判所も厳しい見方をするようになっていますので、裁判の行方を見守りたいと思います。

追記:リーチサイト対策の令和2年著作権法改正において、リーチサイトの提供をみなし侵害とする一方で、侵害コンテンツのリンクを含むだけのプラットフォーム(SNS等)は対象外とする(ただし、プラットフォームが侵害コンテンツへのリンク削除要請に従わない場合は対象外としない)という改正(要するに、リンク削除要請に従わないプラットフォームはみなし侵害)が行われています。解釈によりCDNに適用できればよいのですが、条文の書き方はURLの提供を前提にしているようなので難しそうです(立法段階でCDNも包含できるようにする余地はあったのではと思えます)。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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