Yahoo!ニュース

ユニクロセルフレジの特許訴訟が和解で決着

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
(写真:長田洋平/アフロ)

年の瀬になって大きなニュースが流れてきました。機器メーカーのアスタリスクとファーストリテイリング(ユニクロ)の間で長きにわたり行われていた、セルフレジに関する特許訴訟(関連過去記事1関連過去記事2関連過去記事3)が和解で決着したとのことです(アスタリスク社によるリリース)。

「特許権侵害訴訟等に係るその他の和解条件については一切公表しない」とのことなので、詳細は知りえませんが、

FR(ファーストリテイリング) は、現在 NIP(アスタリスクより特許権を譲渡された会社) の保有する特許が有効に存在していることを尊重し、ASX (アスタリスク)および NIP は、本セルフレジは ASX の特許出願が公開される以前から、FR が独自に開発し使用していたものであると確認するという円満な和解合意です。この和解成立の結果として、ASX および NIP は特許権侵害訴訟等を取り下げ、FR は無効審判請求を取り下げます。

とのことです。

一瞬、アスタリスク(NIP)側がファーストリテイリング側の先使用権を認めたというように思いましたが、そうではなさそうです。先使用権とは、大雑把に言えば、特許出願前から偶然同じ発明を実施していた場合には特許権を行使されないという特許法上の規定です。しかし、リリース上は、「出願前」ではなく「公開前」となっているので、特許法上の先使用の規定が適用されたのではないのでしょう(リリースの書き間違いという可能性がゼロではないですが)。あくまでも当事者間の合意として、訴訟および無効審判を取り下げるという意思決定をしたものと思います。

これに関して金銭の支払いがあったかどうかは(業績に影響のあるレベルの金額が動いてIR情報として開示されない限り)知りようがありません。このリリースの書き方だとライセンス料の支払いは発生しない可能性もあります。確実に言えるのは、ファーストリテイリング(ユニクロ、GU)はセルフレジを継続使用できること、そして、ファーストリテイリング以外の企業が、アスタリスク(NIP)が特許権を持つセルフレジを使用する場合にはライセンス料の支払いが必要になる(NIP社のサイトでは1日1台1,000円というライセンス料金が提示されています)ということです。ユニクロセルフレジの便利さは使った人ならわかると思いますので、今後、アスタリスク(NIP)がこの特許をマネタイズできる可能性が広がりました。

この訴訟は、ファーストリテイリングが無効審判を繰り返すなどの「兵糧攻め」戦略を取ることで、資金面で劣るアスタリスク(NIP)側が不利であったことは否めません。個人的にはアスタリスク(NIP)側にもっと攻め込んでほしい気もしましたが、現実的にはこのような和解が良い落としどころだったのかもしれません。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

栗原潔のIT特許分析レポート

税込880円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

日米の情報通信技術関連の要注目特許を原則毎週1件ピックアップし、エンジニア、IT業界アナリストの経験を持つ弁理士が解説します。知財専門家だけでなく一般技術者の方にとってもわかりやすい解説を心がけます。特に、訴訟に関連した特許やGAFA等の米国ビッグプレイヤーによる特許を中心に取り上げていく予定です。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

栗原潔の最近の記事