ちょっと前になりますが、ゲームアプリ「白猫プロジェクト」による特許権侵害で任天堂がコロプラを訴えていた訴訟が和解で決着しました(参照ニュース)。コロプラのプレスリリースには、「法令規則上の義務による開示を除き、本件訴訟に係るその他の和解条件については、秘密保持義務により公表できません」と書いてありますが、IR情報の方には「当社が任天堂に対して今後のライセンスを含めた本件訴訟の和解金として総額 33 億円を支払い、任天堂が 本件訴訟の訴えを取り下げることを内容としております」と書いてありますので、33億円の一括支払いで決着したのは確かでしょう。和解条件にコロプラの特許の任天堂へのクロスライセンスが入っているかどうかが気になりますが、特許のライセンス(通常実施権)は通常登録(登記)されることはないので外部からは知りようがありません。

この訴訟で争点になった特許については、以下の過去記事で解説しています。

上記のコロプラのプレスリリースによるとこれ以外に特許6271692号も含まれていたようです。これは、既に解説済みの5595991号(通信ゲームで相互に登録済のユーザーとしかゲームをしないという制限をかけるというめちゃくちゃ範囲が広い特許)の分割出願の特許化です(また、後日内容をご紹介します)。ところで、この特許ファミリー、2005年5月6日の原出願日を維持したまま、分割出願(特願2017-247134、特願2019-201449)が現在も審査係属中で残っているのが恐ろしいです。

これらの特許は、すべて「今にしてみれば当たり前だが出願当時は誰も気が付いていなかった」系のきわめて広範囲の特許であり、訴えられる方としては何ともやっかいな特許です。米IBM対楽天の訴訟における記事でも書きましたが、IBMや任天堂のように技術開発の長い歴史があり、かつ、知財に力を入れてきた企業の特許資産には信じられないほど強力なものがあります。

本訴訟では、任天堂は損害賠償金として当初約44億円を請求し、その後、約100億円へと引き上げていました。33億円という和解金額をどう見るべきでしょうか?一般に、特許権侵害訴訟において侵害が認定されると、損害論に入ります。ここでは、侵害製品の売上げのうちの特許権による寄与率の算定等が行われます。低めの寄与率が裁判所で認定されてしまうと損害賠償金額も低くなってしまいます。一般に、原告が請求した損害賠償金が全額認められることはほとんどありませんので、任天堂も納得の上での和解ではないかと思います。

ところで、米国での特許訴訟の事例を見ると、サムスンがアップルに約590億円の損害賠償金支払い等々、数百億円単位の金額がよく出てくるので、33億円という金額がたいしたものでないように思われるかもしれませんが、そんなことはありません。

特許訴訟の損害賠償金額が高額になりがちなのは米国だけの動向であり、仮に、この訴訟が最後まで行って33億円が賠償金額として確定していたならば、特許権侵訴訟における損害賠償金額としては、英ビーチャム社によるH2ブロッカー特許訴訟の30億円を超えて、おそらく、日本での最高金額の事例になっていたでしょう(参考文献「特許権侵害における 損害賠償額の適正な評価に向けて」)。特に、化学・製薬の分野と比較して情報通信技術系の特許では侵害や高額の損害賠償金が認められにくいことも考えると、これはすごいことです。

ネットでは「任天堂法務部最強伝説」という半分ネタ的なミームがありますが、少なくともこれらの特許についてはリアルで「最強」と言うしかないと思います。