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チキン温め機能付ゲーミングPC(KFC製)の特許について

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
出典:いらすとや

「チキンを温めるゲーミングPC、KFCが正式発表 ”ネタじゃなかったの?”ネットざわつく」という記事を読みました。「ゲーム中にPCの熱と気流システムを利用してチキンを温め、プレイの合間に熱くてクリスピーな鶏肉を楽しめる」ということだそうです。PC自作派にはおなじみの台湾のケースメーカーCooler Master社との共同開発です。

KFC(ケンタッキー・フライド・チキン)社にゲーム部門(KFC Gaming)があること、コンソール機ではなくゲーミングPCなのにKFConsole(KFC Consoleではありません)という名称であること、精密機械であるPCと油まみれのチキンを近づけてよいのか問題(ファンが汚れそうです)、「特許取得済みのチキンチェンバー」等々、ざわつきポイントの多い記事ですが、最後の特許の件について調べてみました。

KFC Corpを権利者とする特許はあまり多くなく、調理後のチキンの保存に関する特許は、US5077065号くらいです。発明の名称は”Method for extending the holding time for cooked food”(調理済食品の保存期間を延長する方法)、登録日は1991年12月31日です。保存装置に関する特許ではなく、保存方法に関する(数値限定)特許です。権利範囲の内容は、調理済のチキンを湿度70%から95%の環境(この湿度を維持できる限り温度はできるだけ低くする)で調理時間の12倍から18倍の時間、保持するというものです。

この特許の出願日は、1990年11月14日なので通常は2010年11月14日に保護期間満了となるはずですが、それ以前の2000年3月14日に更新料未納により権利消滅しています。クレームには「乾球と湿球で湿度をコントロールする」等の記載があり、技術的に完全に陳腐化してしまったので意図的に放棄したのではと思います。

ひょっとするとこの特許以外に、別の権利者からライセンスして使用している特許、あるいは、公開前の特許があるのかもしれませんが、そうでないとすると、権利切れの特許で「特許取得済の」と言っている点(英文記事でも"patented Chicken Chamber"となっています)は、もうひとつのざわつきポイントになってしまうかと思います。まあ「かつて特許も取得したアイデアに基づいた」くらいの軽い意味で使っているのだとは思いますが。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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