「アマビエ」の商標登録出願に拒絶理由通知

出典:商願2020-040835公報

電通が「アマビエ」を商標登録出願し、物議を醸した件については、既に書きました(関連過去記事1関連過去記事2)。電通が出願を取り下げたことで、この件は一件落着したのですが、電通以外の出願人によっても「アマビエ」(または、「アマビエ」を含む言葉)の商標登録出願が行なわれており、審査待ち状態となっていました。9月14日に、その中の最初の出願である、お菓子メーカーによる出願(商願2020-040835)に、特許庁より拒絶理由通知(一種の暫定的拒絶)が行なわれていました(この出願は早期審査が請求されていたので通常より早く審査結果が出ます)。

拒絶の根拠条文は、商標法3条1項6号です。

3条1項6号 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標

他の拒絶根拠の条文には直接当てはまらないが、この商標を特定企業に独占させてはまずいだろうと審査官が判断した場合に、いわば例外処理的に適用される条文です。拒絶理由通知書には以下のように書かれています(一部省略)。

江戸時代に肥後国(現在の熊本県)の海に現れて疫病を予言し、病気が流行した際には自身の姿を描き写して人々に見せるよう告げて姿を消したと伝えられている妖怪の名前であり、2020年の新型コロナウイルス感染拡大の終息祈願のために、SNS上にこれを描いた図などを投稿する人が続出するなどとして、話題となったものです。

また、厚生労働省が、新型コロナウイルスの感染拡大防止を目的とする施策の一つとして、疫病を払うとされる妖怪『アマビエ』を描いた啓発用アイコンをホームページ上で公開するなど、「アマビエ」の文字やこれを描いた図は広く一般に知られるようになるとともに、新型コロナウイルス感染拡大の終息祈願の象徴として広く使用されているものといえます。

そして、本願の指定商品を取り扱う分野においても、多数の業者によって「アマビエ」の文字やこれを描いた図が、商品に使用されている実情があります。(別記2参照)

 そうすると、本願商標は、これをその指定商品に使用しても、これに接する取引者、需要者は、「新型コロナウイルス感染拡大の終息祈願の象徴」を表したものと認識するにとどまるというのが相当ですから、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができないものと認めます。

 したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第6号に該当します。

ロジックとしては、過去記事にも書いた「そだねー」や「大迫半端ないって」等が拒絶された時と同じです。暫定的拒絶なので意見書等により挽回できる可能性はありますが、一般的に3条1項6号を覆すのはハードルが高いです。その他の「アマビエ」商標も同様の審査結果になる可能性が高いでしょう。

ミーム化、流行語化しており、既に多くの商品やサービスで使用されており、いわば「みんなのもの」的状態になっている商標は登録しない(特定企業に独占させない)という、特許庁の審査運用がほぼ固まっているようです。これ自体は好ましいことと思います。なお、仮に商標登録できなくても、使用が独占できなくなるというだけであって、使用が禁止されるわけではありませんので、念のため。

追記:ツイッター等でこのお菓子メーカーの出願自体を批判する声が聞かれます。しかしながら、現時点では「アマビエ」は(おそらく)誰もが登録できないことが明らかになったわけですが、今年の4月時点では自分で出願しておかないと誰か別の会社に登録されて「アマビエ」という名称の菓子が販売できなくなるリスクがあったので、防衛的に先に出願しておくのはやむを得なかったと思います。

追記^2:上には書かなかったですが、この出願には、第三者からの情報提供が行なわれています(内容はネットからは見られません、また情報提供は匿名でできますので提供者が誰かもおそらく不明です)。「アマビエ」が多数の業者によって使用されている証拠を提出し、拒絶すべきと主張したものと思われます。審査官は情報提供に従う義務はないですし、仮に情報提供がなくても同じ結論に至っていた可能性もありますが、一般に「これが登録されるとまずかろう」という商標登録出願がなされた場合には情報提供を行なう意義はあります。

日本IBM、ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事、『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 IT系コンサルティングに加えてスタートアップ企業や個人の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています。お仕事のお問い合わせは http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から。【お知らせ】Skype/Chatworkによる特許・商標の無料相談実施中です。詳しくは上記お問い合わせ先から。

有料ニュースの定期購読

栗原潔のIT特許分析レポートサンプル記事
月額880円(初月無料)
週1回程度
日米の情報通信技術関連の要注目特許を原則毎週1件ピックアップし、エンジニア、IT業界アナリストの経験を持つ弁理士が解説します。知財専門家だけでなく一般技術者の方にとってもわかりやすい解説を心がけます。特に、訴訟に関連した特許やGAFA等の米国ビッグプレイヤーによる特許を中心に取り上げていく予定です。

Facebookコメント

表示

※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対してヤフー株式会社は一切の責任を負いません。

Yahoo!ニュース個人編集部ピックアップ