「特許権プール」とは何なのか?

(写真:ロイター/アフロ)

治療薬などの"特許権プール"創設、首相がG7で提案へ」というニュースがありました。

安倍晋三首相は25日の記者会見で、6月に予定される主要7カ国首脳会議(G7サミット)で、治療薬やワクチンを「透明性の高い国際的な枠組みの元で、途上国も使えるようにしていく」ため、「特許権プール」の創設を提案したいと述べた。

ということです。

この「特許権プール」(patent pool)とは何なのでしょうか?Wikipediaでは、「特定のテクノロジーに関連した特許のクロスライセンス契約に合意した2つ以上の企業によるコンソーシアム」と定義されています。LTE等の通信技術はMPEG等の動画圧縮技術では、数1000件にも及ぶ多数の特許権が関連しています。これらのテクノロジーを使用したい企業が特許権者と個別にライセンス交渉をしていては事務作業的にやってられませんので、特定の中立的団体に特許権を一括管理させ、サブライセンスしてもらうという考え方です。

ここで、通信プロトコルや動画圧縮のような情報通信の基盤分野でのパテントプールが不可欠であることは理解できるとして、医薬品の分野でも有効なのかという疑問があります。特定技術の実施にきわめて多くの特許権が関連する情報通信技術分野とは異なり、医薬品の分野では実施に必要なライセンス数はそれほど多くないからです(基本的な物質特許に加えて用途特許や製法特許などが関連してくることはありますが)。

調べてみると、国連が2010年に設立したMedicines Patent Pool というHIV等の治療薬の特許権プールがあることがわかりました(参考Wikipediaエントリー(英文))。開発途上国に対してHIV治療薬を安価に提供することを主な目的としています。つまり、情報通信技術の領域におけるパテントプールとは異なり、ビジネスの効率性よりも人道的支援を重視しているようです。Medicines Patent Poolが開発途上国での薬価低減に効果があったとの調査結果もありますので、新型コロナの開発途上国での感染拡大が懸念される中、治療薬(および、今後開発されるであろうワクチン)のパテントプール設立に向けた議論を始めることは当然と思います。

日本IBM、ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事、『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 IT系コンサルティングに加えてスタートアップ企業や個人の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています。お仕事のお問い合わせは http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から。【お知らせ】Skype/Chatworkによる特許・商標の無料相談実施中です。詳しくは上記お問い合わせ先から。

有料ニュースの定期購読

栗原潔のIT特許分析レポートサンプル記事
月額880円(初月無料)
週1回程度
日米の情報通信技術関連の要注目特許を原則毎週1件ピックアップし、エンジニア、IT業界アナリストの経験を持つ弁理士が解説します。知財専門家だけでなく一般技術者の方にとってもわかりやすい解説を心がけます。特に、訴訟に関連した特許やGAFA等の米国ビッグプレイヤーによる特許を中心に取り上げていく予定です。

あわせて読みたい

Facebookコメント

表示

※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対してヤフー株式会社は一切の責任を負いません。