JASRACはライブハウスを支援すべきか

(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

新型コロナにより飲食店、特にライブハウスの経営が苦しい状態になっているのは周知かと思います。これに対して、普段ライブハウスから著作権使用料を徴収しているJASRACは支援を行なうべきであるという意見がツイッター等で聞かれます。

もっともな意見に思えますが、JASRACは公的機関ではなく、作詞家・作曲家というクリエイターの権利行使を代行している組織でしかないという点には注意が必要です。仮に「今後1年間ライブハウスの著作権使用料を免除します」ということなれば、ライブハウス経営者の方は大喜びでしょうが、作詞家・作曲家の方は「ちょ待てよ」になってしまいます。JASRACに権利を預けている作詞家・作曲家の人は印税生活で左団扇なのでちょっとくらい著作権収入が減っても気にしないというイメージがあるかもしれませんが、著作権収入を生活の糧にしている作詞家・作曲家の方がはるかに多いです。

もちろん、JASRACはライブハウスの支援を行なうべきではない、あるいは、「JASRACはライブハウスに支援を行なうべきだ」と提言してはいけないと言っているわけではありません。すべては権利者(作詞家・作曲家)の意思で決めることです。たとえば、JASRACは、東日本大震災の後には、被災地域の飲食店等の著作権使用料を6カ月にわたり免除し、義援金も送っています。これは、JASRAC理事会の決定に基づきます。つまり、作詞家・作曲家(の代表が)自分の意思で決めたことです。今回も同様の措置があってもよいと思いますが、東日本大震災とは異なり、対象が全国的(特に大都市圏)であることから、難しい点もあるかと思います。カツカツでやっているライブハウス経営者がいらっしゃるのと同様に、カツカツでやっている作詞家・作曲家の方もいらっしゃると思います。

結局、「JASRACは著作権使用料を免除することでライブハウスを支援すべきだ」は、「大家は家賃を免除することでライブハウスを支援すべきだ」と同様の主張と言えます(金額的には家賃の方が圧倒的に大きいので、ライブハウスとしては家賃免除の方が全然うれしいはずです)。もちろん、「提言」するのは自由ですが、最終的に決めるのは権利者(作詞家・作曲家または大家)です。大家でも、建物のローンでカツカツの人もいれば、親からの相続等で左団扇の人もいるでしょう。余裕がある大家さんが家賃を免除・軽減・猶与等することで、ライブハウスを支援するのであればどんどんやっていただきたいと思います。同様に、生活に余裕がある作詞家・作曲家の方は(JASRACに頼るまでもなく)自発的な意思でライブハウスを何らかの形で支援するようにすればよいと思います。もちろん、「そうしろ」という主張ではなく、「そうしてはいかがですか」という提言です。なお、国や地方公共団体等による援助はこれとはまた別にどんどんやっていく必要があることは言うまでもありません。

追記:他に書く場所がないのでここに追記しておきます(専門家としての意見ではなく一音楽ファンとしての意見です)。マンハッタンにSmokeというジャズクラブがあるのですが当然ながら営業停止で厳しい状態です。メーリングリストで店の常連客がギフトカードを買って応援しようと提案しています。ギフトカードを買えば店には現金が入りますので家賃や従業員の給与などの当座をしのぐことができます。再開店後にギフトカードを使えば買った人も損にはなりません(もちろん、店が倒産すれば無駄になってしまいますがそのリスクは受け入れるべきでしょう)。ということで、日本のライブハウスもギフトカードを売り出して常連客の支援を求めるというのも良いアイデアではないかと思います。

日本IBM、ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事、『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 IT系コンサルティングに加えてスタートアップ企業や個人の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています。お仕事のお問い合わせは http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から。【お知らせ】Skype/Chatworkによる特許・商標の無料相談実施中です。詳しくは上記お問い合わせ先から。

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