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中国の新型コロナウイルス治療薬特許に関するニュースはフェイクニュースか?

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
(写真:ロイター/アフロ)

「【新型コロナ】米国製薬会社、緊急事態の為 効果があると実証された薬の科学式(原文ママ)を中国当局に公開 → 中国、特許登録へ」という記事を読みました。ある程度特許制度に知識がある人なら何かおかしいとすぐに気付く記事です。特許の登録には数年を要しますし、出願してもそれが公開されるまでには1年半かかります。

信頼できそうなソースを探してみると、”China Wants to Patent Gilead’s Experimental Coronavirus Drug” (Bloomberg)、”China lab seeks patent on use of Gilead's coronavirus treatment” (Reuter)あたりが出所のようです。

中国科学院武漢ウイルス研究所(Wuhan Institute of Virology of the China Academy of Sciences)が、米国の製薬会社Gileadが開発したRemdesivirという抗ウイルス薬(元々はエボラウイルス用に開発されたが効果がなく承認されなかったようです)を中国の新型コロナウイルス患者に適用する臨床実験を行なう予定であること、そして、そのアイデアを1月21日に国家知識産権局に特許出願したことは確かなようです(武漢ウイルス研究所自身が公式発表しています)。ということで、冒頭記事は全くのフェイクニュースというわけではありませんでした。ただ、「特許登録へ」というのはちょっと誤解を招く表現で「特許出願した」と書くべきでした(なお、冒頭記事中で引用されているツイートでは「特許登録した」と書いてあり、これは明らかな間違いです)。ついでに書いておくと「効果があると実証された」も不正確で「効果がある可能性がある」にしておくべきでしょう(米国内のある患者に実験的に適用したところ症状が改善したそうですが、偶然かもしれませんので現時点ではなんとも言えません)。

なお、これは用途発明と呼ばれ、製薬の分野ではよくあるパターンです(たとえば、元々は狭心症の薬であったバイアグラに別の用途が発見されたケースなどです)。この場合、薬の物質(および製法)としての特許とは別に特定用途への使用について出願し、特許化することが可能です。この場合でも、元々の物質(あるいはその製法)特許がオーバーライドされるわけではありませんので、物質(製法)特許が有効に残っていれば特定用途への使用のためにはその特許のライセンスが必要です。今回の場合は、Gilead社の特許が有効に残っているので、それが蔑ろにされることはありません。

今回の出願に関してGilead社との契約内容がどうなっているかは不明です(特許化できた場合にはGilead社にライセンスバックするような契約になっているとは思いますが)。ただ、このような人命にかかわる発明については、最終手段として国家の裁量で強制ライセンスしてしまう(特許権による差止権をスルーしてしまう)こともあり得るので、あまり気にしてもしょうがないかとは思います。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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