「JASRACのせいで町から音楽が消えた」というのは本当か?

(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

ツイッター等で「JASRACのせいで町から音楽が消えた」という意見が聞かれることがあります(個別ツイートのリンクを書くとコメントスクラムで迷惑がかかりそうなのでやめておきます)。そもそも、本当に「町から音楽が消えている」でしょうか?

東京在住の私の感覚ではとてもそうは思えません。多くの人がイヤホン/ヘッドホンを着けて自分の好きな音楽を楽しんでいます。町には数多くのライブハウスがあります(統計データ上もライブ公演の数は順調に伸びているようです)。居酒屋に行けば(おそらくは有線放送により)センスの良い古いジャズがかかっていることが多いです。

「町から」と言っているのでストリート・ミュージシャンのことを言っているのでしょうか?確かに路上ライブの数は減ったような気もします。ただ、JASRACの支払を理由に路上ライブをやめたという話は寡聞にして知りません(そもそも、非営利、無料、無報酬の演奏なので演奏権の許諾は不要に思えます)。もし、路上ライブの数が減っているのならば、その理由は道交法の運用が厳しくなったこと以外に考えにくいです。

商店街で電柱スピーカーなどからかかっているBGMはどうでしょうか?確かに減った気はします。私の地元の商店街が、最近になり「歌のない歌謡曲」のようなしょうもないBGMを流し出して「今時何やってるんだ」という印象を持ったからです。

個人的には商店街のBGMはどちらかというとやめてほしいのですが、客観的に見た状況はどうなっているのでしょうか。ちょっと古い(2014年)ですが「商店街の音環境」という調査研究が「日本音響学会誌」に載っています。東京23区内の1,202商店街に対する調査です。

調査によれば、BGMの音源の過半数は有線放送です。有線放送の場合はJASRACへの著作権使用料支払は事業者側でやりますので、商店街側がJASRACへの料金支払を理由にしてBGMをやめるということは考えにくいです。

BGMを流す商店街が減っているという直接的調査データはありませんが「BGMを流していない」商店街の回答からその理由がテキストマイニングで分析されています。最大の理由は「近隣住民からの苦情」だそうです。某商店会会長への個別インタビューでは、BGMに対するお客様の意見として「クレームが多い。うるさいとか、気持ち悪いから止めろとか。良い意見は残念ながらあまりない」と身も蓋もない回答が得られています(昭和ならまだしも、これが現在の標準的感覚ではないかと思います)。

ということで「JASRACのせいで町から音楽が消えた」説は根拠がなさそうです。最近、BGM使用料を支払わない飲食店に対してJASRACが損害賠償を勝ち取ったというニュースがありましたが、これに絡めて「町から音楽が消えた説」を唱えてる人がいました。これは、音楽をビジネスに活用しながらクリエイターに対価を払おうとしない店から音楽が消えたというだけの話(そして、もちろん今後所定の使用料(法外なものではありません)を払うなり有線放送を使うなりすれば店内BGMを利用できます)であって、これをもって「町から」音楽が消えたというのは膨らませすぎかと思います。

追記:私も東京の一部の状況しか知りませんし、上記「日本音響学会誌」の調査も23区内のみが対象になっていますので日本の状況をくまなく調査できているわけではありません。もし、「JASRACのせいで町から音楽が消えた」という「具体的」な事例をご存知の方は是非コメント等で教えてください。

日本IBM、ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事、『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 IT系コンサルティングに加えてスタートアップ企業や個人の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています。お仕事のお問い合わせは http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から。【お知らせ】Skype/Chatworkによる特許・商標の無料相談実施中です。詳しくは上記お問い合わせ先から。

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