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「人間将棋」の商標登録出願から学ぶべきレッスン

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
出典:山形県観光情報ポータル

「"人間将棋"商標に待った」というニュースがありました。

(山形県天童市が例年行なっている人間を将棋の駒にしたイベント)「人間将棋」の名称の商標登録が「特許庁から認められなかった」ことが17日、市への取材で分かった。

とうことです。正確に言うと拒絶理由が通知された段階ですので、まだ「特許庁から認められなかった」わけではありません。審査経過はこちらから見られます(特許情報プラットフォームの機能強化により、新しい出願については商標でも審査経過がウェブから無料で見られるようになりました)。

2つの拒絶理由が通知されていますが、理由1については指定した役務が広すぎるという問題なので、使用意思を示す書類を提出するか、指定役務を一部削除すれば解決します。

問題は理由2の方で、

「人間将棋」の語は、別掲のとおり、人を駒に見立てた将棋としての使用が認められます。そうすると、本願商標は全体として、「人を駒に見立てた将棋」ほどの意味合いを理解させます。してみれば、本願商標をその指定役務中、例えば、第35類「興行の企画・運営又は開催(映画・演芸・演劇・音楽の演奏の興行及びスポーツ・競馬・競輪・競艇・小型自動車競走の興行に関するものを除く。)」に使用しても、単に人を駒に見立てた将棋に関する興行の企画・運営又は開催であること、すなわち、役務の質(内容)を表示するにすぎず、自他役務識別標識としての機能を果たし得ないものと認めます。

と審査官に指摘されています。要するに人間将棋というイベントは特定のイベントではなく、人間を駒に見立てた将棋イベントを広く意味する商標になっていると判断されるので登録は認められないということです。これの克服はなかなかやっかいで「"人間将棋"と言えば山形県天童市が行なっているイベントである」という認識を「現時点で」世の中の人が持っていることを立証しなければなりません。一般には、消費者調査のデータを提出したりするのですが、今回のケースでは不可能とは言えないまでもちょっと厳しいかもしれません。

Wikipediaの記事によると、天童市によるイベントは1956年から行なわれているようです。そして、近年では、2015年頃から他の場所でも「人間将棋」と銘打ったイベントが行なわれ始めたようです。もう少し前の人間将棋が天童市だけのイベントだった頃に、出願していれば登録された可能性は高かったでしょう(厳しい審査官ですと「人間を駒にした将棋」以上の意味を生じないとして拒絶してくる可能性もありますが)。

特許と異なり商標には新規性という概念がありませんので、先に使用してから出願してもそれを理由に拒絶されることはありません。使用してみて、ビジネスとして価値をもたらしそうだという感触を得てから、商標登録するという選択も可能です。

とは言え、今回のように、長期間出願をしないでほっぽっておくと、他人の使用により商標としての機能が劣化して登録が困難になったり、さらには、他人に先に出願されてしまったりするリスクが増すのでやはり早め早めの出願は重要です。

ちょっと前に書いたギブソンのフライングV立体商標のケースともちょっと似ています。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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