「断捨離」登録商標と「ナカイの窓」問題の論点

出典:いらすとや

ちょっと前に、ツイッターにおいて、「断捨離」の商標登録問題について名指しで召喚されていたのですが、すみません、スルーしてました(笑)。商標制度の根幹にかかわる問題で結構タフなトピックだからです。

問題の記事はこちらです。日本テレビの番組「ナカイの窓」の一コーナー「断捨離の窓」に対して「断捨離」の登録商標の権利者から警告があったことが「ナカイの窓」の終了に関係していたのではないかという話です。番組終了の理由については、この記事でも推測しているだけであり、本当のところはわかりません(商標権だけが問題なのであればコーナー名を変えれば済む話です)。

とは言え、「断捨離」がこの言葉を著名にし、多数の著書を出版している山下英子氏を権利者として多数商標登録されていることは事実です(4787094号、5412928号、5582468号、5909022号、5948115号)。

本稿では、「断捨離」という言葉をテレビ番組のコーナー名として使うことに対して商標権が行使できるかを検討してみようと思います。ここでは、重要な(かつややこしい)論点が2つあります。

論点1:テレビ番組のコーナー名での「断捨離」という言葉の使用が商標的使用に当たるか

一般に、CDのタイトルや書籍の題号での使用は商標的使用ではないとされます。タイトル/題号は内容を示すものであり、出所を表示するものではないからです(出所を表示するのは、出版社名、レコード会社名、レーベル名等であり、こちらは商標として機能し得ます)。一方、定期刊行物の題号(たとえば、「朝日新聞」)は、出所を表示し、他社の商品と見分ける機能を提供しますので、商標的使用にあたるとされています。

テレビ番組のコーナー名がどう扱われるかは微妙なところですが、「必殺仕事人」という商標(指定役務は「テレビジョンシリーズ番組の制作又は配給」等)についての審判における事例があります。審査段階では「単に役務の内容を表すにすぎないもの」として拒絶されましたが、不服審判において、

「必殺仕事人」をメインタイトルとする放送番組においては、そのメインタイトルのほかに、いずれの作品にもサブタイトル(例えば、「主水の浮気は成功するか?(第1話)」、「主水おびえる!闇に光る眼は誰か?(第2話)」)が付され、作品毎にその内容が異なっていることから、「必殺仕事人」の文字からは、時代劇番組の具体的な内容が特定された不変なものということができず、また、登場人物、配役、基本的なストーリー展開等において共通するところがあることをもって、テレビ放送番組の内容が特定されるものということもできない。

そうとすると、「必殺仕事人」の文字からは、テレビ時代劇番組の具体的な内容を看取させるとはいい難いことから、本願商標は、特定の役務の質を直ちに認識し、理解させるものということはできない。

ということで登録が認められました。これは登録可否の問題ですが、連続ドラマのタイトルとしての特定の言葉の使用が、商標的使用にあたるという判断を特許庁審判官が間接的に示したことになります。

同じロジックを使えば「断捨離の窓」なるコーナー名は「断捨離」という登録商標の商標的使用と言えそうな気はします(なお、山下氏の登録商標では「テレビジョン放送用娯楽番組の制作・配給」に類似する役務も押さえられています)。

論点2:「断捨離」は普通名称化しているか?

指定商品・役務に対して普通名称、あるいは、単に内容(品質)を表わすに過ぎない状態(記述的)になった商標は登録されません。普通名称の商標的使用を特定の人や企業が独占できるのは不合理だからです。しかし、登録後に普通名称化した商標を後発的に無効にすることはできません(実は査定時に普通名称だったので登録したのは過誤であったということで無効にすることはできますが、少なくとも今回問題になった「断捨離」の登録は2004年なので、そのパターンは考えにくいです)。とは言え、後発的に普通名称・記述商標になった商標は侵害訴訟での権利行使ができなくなります(商標法26号)。

「断捨離」については思い切ってものを捨てることという意味の一般的言葉として認識されており、登録商標と認識している人は少ないのではないでしょうか?「断捨離」の普通名称・記述商標化に関する裁判例は見当たらないですが、不正使用取消審判における特許庁審判官の間接的な見解があります(審判自体は普通名称化に関するものではないですが傍論として審決で触れられています)。

しかしながら、「断捨離」の語が、最初は、山下英子氏が提唱するものであったとしても、2010年にユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされた後には、「断捨離」の語は、「執着を捨てることを旨とする片づけ術の標語。断つ、捨てる、離れる。」ほどの意味合い(実用日本語表現辞典)を表すものとして、新語・流行語として社会に定着し、一般的に通用する語として使用されているといえるものである。

「断捨離の窓」のケースへの当てはめは微妙なところですが「司会の中居と4人のゲストが、世の中の無駄なもの、いらないものについて語り、不要なものを減らす『断捨離』を提案するという内容だった」ということなので、普通名称としての使用と言えなくもない(つまり、商標権の行使は認められない)ような気がします。

一般に、商標の普通名称化問題は、権利者の立場に立つとなかなか悩ましいところで、言葉は広まって欲しいが、普通名称にまでなってしまうと独占権としての効力がなくなってしまうので適切なコントロールが必要です。最近になり、山下氏側が「断捨離」商標に関する姿勢を強めているという情報がツイッター等で見られますが、これは普通名称化を防ぐための正当な努力とも言えます。とは言え、私見では流行語大賞受賞前から動いていないと遅かったのではという気もします。

なお、個人がブログ等で「断捨離」という言葉を使うのは自由です(これは、普通名称化してようがしていまいが同じです)。商標はビジネスとして提供する商品やサービスの出所を表わすものであるためです。「ビッグマック」はマクドナルド社を権利者とする登録商標ですが「今日はビッグマックを食べました」とブログに書くのに同社の許可がいらないのと同じです。追記:とは言え、「断捨離」という言葉をブログタイトル等で使用して定常的に片付け方指南を行なってアフィリエート収入を得ていたりすると「知識の教授」という役務における商標の使用とされる可能性はあるでしょう。この場合には上記の「断捨離」が普通名称化していないかという論点が関係してくることになります。