私的録音補償金制度が動かすお金について

(写真:アフロ)

日本の著作権法では私的使用目的の複製は自由に行なえますが、デジタル方式の録音については所定の補償金を支払うことが必要になっています。デジタル方式は劣化なしに録音できるので権利者が本来受けるべき利益が害されている(かと言って私的使用目的複製を禁止するわけにはいかない)ことが根拠になっています。集められた補償金は、権利者(作詞家・作曲家、原盤権者、実演家)に分配されます。

現在は、デジタル録音機器と記録媒体を対象とした補償金が収集されています。これを、iPodやWalkmanなどのデジタル音楽プレイヤー、さらには、スマートフォン、さらには、PCやHDDなどにも広げたいという要望が権利者団体から出ています(参考記事)。これに大義はあるのでしょうか?この問題について考える前にまずは補償金制度の現状について見ていきたいと思います。

補償金の収集と分配は私的録音補償金管理協会(SARAH)という一般社団法人が、著作権法に基づき独占的に行なっています。SARAHが収集した補償金がさらにJASRAC、芸団協、レコ協を経由して権利者に分配されます。

SARAHのウェブサイトを見ると、事業の概要や私的録音補償金制度の説明が書いてあります。また、メニューで情報公開を選ぶと決算報告書等が参照できます。

平成30年度の収支(予算ベース)を見ると、補償金の収益は通年で2,700万円となかなか衝撃的な数字です。補償金の対象になるデジタル録音機器とはDAT、MD、DCC、CDレコーダー専用機ですが現在は民生用は事実上販売されてないですし、音楽用CD-Rメディアの売上げも昨今はさほど大きくないので当然と言えば当然です。補償金収益に上記の権利者団体から得た会費900万円を足した3,600万円のうちの約1,800万円を費用3,000万円かけて分配するというとんでもない状況になっており、制度としてもはや機能していないことがわかります(都合1,200万円の赤字、分配金から会費分を差し引いた正味900万円の分配のために経費3,000万円をかけている)。

取るべき道は、補償金制度自体をやめるか、補償金徴収の対象を増やすしかありません。

しかし、現状の多くのダウンロード販売の多くでは、DRMまたは契約により複製の回数が制限されているため、補償金の考え方にそぐいません。補金はCDからのCD-Rへのコピーのように複製回数がコントロールできない場合に、メディアへの賦課という形で間接的に対価を徴収するという考え方です。複製回数がコントロールできる環境であれば最初からそれに準じた料金設定にすればよいだけの話です。実際、「録画」については、(ダビング10によってコントロール可能である)地デジ専用HDDレコーダーが補償金の対象でないことが知財高裁判決により確定しています。

結局、デジタル音楽プレイヤーを対象機器にしたとしても、補償金の対象になるのはCDからのコピーくらいしか想定できません(テレビやラジオからの録音や生演奏の録音もないとは言えませんが)。これから先、CDをデジタル音楽プレイヤーにリップして使う使い方がますます減っていく中で、今デジタル音楽プレイヤーを対象機器にすることに妥当性はあるかという疑問が湧きます。

さらに、スマートフォン、PC、HDDの場合には、音楽だけに使うわけではないので、さらに妥当性への疑問は大きくなります。基本的に、補償金の仕組みは税金のように払い損になる人が多少出るのはやむを得ないどんぶり勘定的な仕組みですが、あまりにも利用実態と乖離しているのは問題です。

さらに日本の著作権法ではテクニカルな問題もあります。補償金を支払う義務があるのは著作物の利用者です。しかし、利用者から直接徴収することは事実上不可能なので、補償金相当額を製品の価格に含めておき、メーカーがSARAHに支払うという形になっています。ここで、メーカーには「協力義務」がありますが、それに法的強制力があるかは定かではありません。『著作権法』(中山信弘)には「この制度は、事実上全業者が拒否をしないという前提の元に成立しており、極めてもろい『ガラス細工』のような制度である。」と書かれています。AV機器や携帯電話業界が国内メーカー中心であった時代ならまだしも、Appleや海外Android機メーカーが日本政府に忖度して協力してくれる保証はありません。

ということで、今、この制度をいじってもあまり意味がないのでは(やめた方がましでは)というのが個人的な感触です。