新五千円札に著作権侵害訴訟リスク説を検証する

出典:Wikipedia

※ 初稿では旧著作権法適用について触れていましたが完全に勘違いなので削除しました。どうもすみません。

「新5千円札に著作権侵害訴訟のリスク?」という記事を読みました。新五千円札の津田梅子の肖像の元になった写真を(おそらくは構図の都合で)裏焼(左右反転)で使用することが著作権侵害になり得るのではないかという説です。大変興味深いので検証してみます。

ここで問題になるのは津田梅子の写真を撮った写真家の権利であり、津田梅子本人とその遺族は関係ありません(裏焼を使われて精神的苦痛を受けたという話はあるかもしれませんが著作権とは別論です)。

一般に人物写真には著作権が生じます。当該写真の著作財産権はとっくに消滅していますが、著作者人格権は、著作者の死後であっても侵害してはならないとされています(著作権法60条)。そして、著作者人格権には同一性保持権(20条)が含まれますので、裏焼写真を使用することがこの条文に触れる可能性があるのではないかというのが上記記事の骨子です。

第六十条 著作物を公衆に提供し、又は提示する者は、その著作物の著作者が存しなくなつた後においても、著作者が存しているとしたならばその著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならない。ただし、その行為の性質及び程度、社会的事情の変動その他によりその行為が当該著作者の意を害しないと認められる場合は、この限りでない。

第二十条 著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。(以下略)

しかし、上記記事にも書いてあるように、この権利を行使できるのは著作者のせいぜい孫までです。

第百十六条1項 著作者又は実演家の死後においては、その遺族(死亡した著作者又は実演家の配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹をいう。以下この条において同じ。)は、当該著作者又は実演家について第六十条又は第百一条の三の規定に違反する行為をする者又はするおそれがある者に対し第百十二条(差止)の請求を(略)することができる。

津田梅子は1929年没なので、写真家も同年代と仮定すると、その孫が存命でである可能性はかなり低いと思います。そもそも「改変」なのか、「意に反する」改変なのか、「意を害しないと認められるのか」、職務著作の可能性はないか等々、論点は多々ありますが、原告になれる人がいなければ同一性保持権侵害にあたるかどうかも知りようがないということになります。

もちろん、これは、裏焼写真を使うことが社会通念に反するという一部意見を否定することにはならないでしょう。むしろ、著作権法に著作物の意に反した改変を未来永劫禁じる規定があるということは、そのような意見を肯定する根拠のひとつになり得るでしょう。