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「ティラミスヒーロー」のような「合法フェイク」は中国だけの動向か?

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授
出典:WIPO Global Brand Database

沈静化しない「ティラミスヒーロー」の騒ぎですが、パクリ側がこっそりと活動するのではなく、堂々と商標登録を行なって、(倫理上の問題はあるものの)「合法的」にビジネスを行ない、さらには、本家よりも積極的にブランド展開してしまう事例は他にもあります。

過去記事「サムスンが中国で"偽Supreme"とのコラボレーションを発表した件の背景情報」で触れたSupreme Italiaもそのひとつです。Supremeというとニューヨークのストリート系ブランドで日本でもファンが多いと思いますが、それとはまったく関係ない英国に本社を構える会社(International Brand Firm社)が同じロゴを商標登録すると共に、イタリアの会社に製造をライセンスして、一部地域で商品を堂々と販売しています。本家Supremeが敢えて店舗拡大せずカリスマ性を維持するマーケティング戦略を取っているのを悪用したとも言えます。

このように、海外のものすごく著名とまでは言えないが知る人ぞ知るレベルのブランドを勝手に商標登録した商品のことを「合法フェイク」(legal fake)と呼ぶことがあるようです。Wikipediaのエントリーでは、上記のSupreme Italiaに加えて、Boy London、Pyrex Vision、Kith Official などの例が載っていますが、舞台は全部イタリアです。これは、Wikipediaの記事の元ネタがイタリアのファッション系ウェブサイトの記事のためでしょうが、世界のファッションの中心であり、当然ブランド管理にもうるさいと思われるイタリアでこのような現象が多いのは興味深いものがあります。

なお、イタリアの商標制度では、商標の先後願等の相対的登録要件がチェックされず、識別性等の絶対的登録要件のチェックだけで登録されてしまう(他社からの異議申立で取り消されることはあります)ので、勝手出願が後願であっても登録され得るという理由もあるかもしれません。

ところで、この手の商標関連の倫理上問題があるビジネスの話が出ると「こういうのは中国だけかと思っていた」という意見が聞かれることがありますが、そんなことはありません。一昨年に特許庁が公開した「悪意の商標出願事例集(英語)」を見ると、この手の「ビジネス」は(日本も含めて)万国共通であることがわかります。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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