Big Macの商標登録が欧州で取り消された理由

(写真:ロイター/アフロ)

「EU知的財産庁、マクドナルドの"ビッグマック"商標取り消し」というニュースがありました。

アイルランドを拠点とするファストフードチェーンであるスーパーマックスが求めていた米マクドナルドの「ビッグマック」の商標取り消しを認める判断を下した。

ということです。勝手出願とかそういう話ではなく、本家マクドナルドによる正規の登録の話です。ちょっと意外な判断に思えますが、理由を解説しましょう。

上記の「商標取り消し」とは、日本で言う不使用取消審判に相当します(キリンラーメンの時に出てきたのと同じです)。日本では連続して3年間使用をしていないと商標権が取り消され得ますが、EUIPOでは連続5年間使用をしていないと取り消され得ます。

今回、不使用取消の請求を行なったSupermac社はアイルランドローカルのハンバーガーチェーンであり、欧州諸国への拡大を目指してEUIPOにSupermacを商標登録出願したところ、先登録である"Big Mac"との類似性により登録できなかったことから、"Big Mac"の登録を取り消す方策に出たわけです。キリンラーメンの時にも書きましたが、商標の世界ではよくあるパターンです。

しかし、マクドナルドが"Big Mac"の商標を欧州で5年間使っていなかったというのは常識に反します(少なくとも英国ではどう考えても使っているでしょう)。EUIPOのウェブサイト(要登録)から入手できた当該決定文により、このような常識と異なる判断が行なわれた理由が明らかになりました。

一般に、不使用取消においては、商標権者側が商標の使用を立証しなければなりません(請求人側が使用していなかったことを立証するのは困難だからです)。今回の件では、マクドナルド側が経営者の宣誓書、商品のパンフレットやポスター、ウェブサイトのスクリーンショット、Wikipediaのエントリー等の証拠を提出しています。

これに対して、EUIPOは次のように結論づけています。

  • 権利者の従業員の宣誓書は一般に証拠能力が低い。
  • 提供されたパンフレット等の証拠だけでは欧州地域内で当該商標を使った商取引が実際にあった証拠にならない。
  • Wikipediaの証拠能力は低い。
  • オンラインであれ、実店舗であれ、実際の取引があった証拠を示さなければならない(要は帳簿や伝票等を提出しなければならないということでしょう)。
  • 提出された証拠では「真正な使用」を立証するには不充分である。

常識で考えれば欧州地域でも"Big Mac"が使用されていることは審判官も知っていると思うのですが、当事者主義および書面主義に従って証拠不十分とせざるを得なかったということかと思います(日本の不使用取消審判の運用に比べると厳しい感じがします)。

要は、マクドナルド側の代理人が事態を甘く見て十分な証拠を提出しなかったのが原因と言えそうです。マクドナルド側は不服申立をする意向のようなので、今度はちゃんと証拠を用意して"Big Mac"商標の取消を撤回できる可能性が高いと思います。

日本IBM、ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事、『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 IT系コンサルティングに加えてスタートアップ企業や個人の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています。お仕事のお問い合わせは http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から。【お知らせ】Skype/Chatworkによる特許・商標の無料相談実施中です。詳しくは上記お問い合わせ先から。

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