ASKA氏の「ミヤネ屋」裁判における著作者人格権の値段

(ペイレスイメージズ/アフロ)

芸能レポーターの井上公造氏が「ミヤネ屋」でASKA氏の未発表作品を本人の許可なく放送してしまったことで訴えられていた件、ASKA氏の勝訴で終わったことはすでにニュースになっていますが、その判決文が公開されています。

ASKA氏に覚せい剤取締法違反で再度の逮捕かというニュースの放送中に井上公造氏が「独占入手」としてASKA氏から個人的に提供された未発表曲を流してしまったという事件です。これに対して、ASKA氏は著作権侵害および著作者人格権侵害による約3,300万円の損害賠償を求め井上氏と読賣テレビとを提訴しました。判決では、賠償額は約117万円と大幅減額になりましたが、ほぼ全面的にASKA氏の主張が認められています。

ここで、問題になっている著作者人格権は公表権です。著作物を公表するかしないか、また公表するならいつするかを決められるのは著作者自身であるという規定です。未発表作品を勝手に公開されるのは、著作者にとっては相当に精神的な打撃になりますので、これを人格権として保護するのは当然と言えます。

18条 著作者は、その著作物でまだ公表されていないもの(その同意を得ないで公表された著作物を含む。以下この条において同じ。)を公衆に提供し、又は提示する権利を有する。(以下略)

本裁判の主な論点は以下のとおりです。

1. 本件楽曲は未公表の著作物であったか

2. 公衆送信及び公表につき黙示の許諾があったか

3. 被告らによる公衆送信行為は法41条所定の時事の事件の報道のための利用に当たるか

4. 被告らによる公衆送信行為は法32条1項所定の引用に当たるか

5. 正当業務行為等により公表権侵害の違法性が阻却されるか

6. 被告B(注:井上氏のこと)は公衆送信権及び公表権の侵害主体となるか

ここで、特に注目すべきは3の論点です。関連条文は以下のとおりです。

第41条 写真、映画、放送その他の方法によつて時事の事件を報道する場合には、当該事件を構成し、又は当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物は、報道の目的上正当な範囲内において、複製し、及び当該事件の報道に伴つて利用することができる。

たとえば、絵画が盗難されたというニュースを報道するために、その絵画を著作者の許可がなければ映せないというのは問題なので当然の規定ですが、報道番組なら著作権(および著作者人格権)をすべて無視してよいというわけではありません。

判決文では、番組構成上、覚せい剤のよる再逮捕の可能性があるという時事報道と未発表作品の公開とが関係あるようには見えないので41条は適用されないとしています(判決文別紙の番組構成を見るかぎり、CMまたぎで「独占入手」と煽って視聴率稼ぎのために公表したと言われてもしょうがないと思います)。

この41条の規定があることで、報道という名目なら著作権は気にしなくてよいという甘えがテレビ局にあったのかもしれません。

また、賠償金額についていうと、公衆送信権の侵害による賠償額は、わずか6万4,000円とされました。これは、放送局がJASRACとの包括契約による1曲当たりで計算した場合の料金です。得べかりし利益としてはこれが上限であることはいたしかたありません。一方、公表権の侵害による慰謝料としては「100万円と認めるのが相当である」とざっくりと決められています。元々の請求額にははるかに及びませんが、ネタバレ行為による精神的苦痛というものを裁判官も認めていることがわかります。

余談ですが、軽微な著作権法は刑事罰の対象としない米国著作権法においても商用未発表作品のネット上での無断公開は特別扱いとして刑事罰対象としています。未発表作品のネタバレ行為は社会的に絶対許されないという認識が米国にもあることがわかります(ASKA氏の裁判は刑事裁判ではないですが「ネタバレ、ダメ、ゼッタイ」は日米共通の社会通念であることを示すために触れてみました)。