いきなり!ステーキの「ステーキ提供システム特許」はどれくらい強力なのか?

出典:いらすとや

いきなり!ステーキの「ステーキ提供システム」に関する特許出願が二転三転の後に登録されたことは既に書きました。これについて、日経が記事を書いています(私のコメントもちょっとだけ載ってます)。この記事に反応して株価も上昇したようです。

この出願の登録可能性についての細かい議論(特許制度の根幹に関わるディープな話になるでしょう)はまた後日書こうと思いますが、本稿では、この特許が現実的にどの程度強力なのかを検討してみようと思います。

特許の権利範囲は「特許請求の範囲」の記載で決まります。詳細な説明や図面に書いてあることは、権利範囲の解釈において参酌されることはありますが、直接的には関係ありません。

そして、特許権を侵害するかしないかを判断する上での大原則は、特許請求の範囲の各請求項に書かれた構成要素をすべて実施した場合に限り、特許権を侵害するということです。これを、「権利一体の法則」、英語では"all elements rule"と言います(間接侵害などの例外ケースもありますが、説明省略)。ということなので、構成要素がたくさん書かれたいかにも複雑そうな請求項は実は権利範囲が狭く回避容易であり、シンプルな請求項の方が権利範囲が広く回避困難であることが多いです。

これを踏まえて、「ステーキ提供システム」の特許の請求項1を見てみましょう(異議申立における訂正請求を反映しています)(改行とインデントは栗原が付加、一般に請求項の分析ではあたかもプログラムコードのように改行とインデントを付けて構造を見やすくすることが有効です)。

【請求項1】

 お客様を立食形式のテーブルに案内するステップと、

 お客様からステーキの量を伺うステップと、

 伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップと、

 カットした肉を焼くステップと、

 焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップとを

含むステーキの提供方法を実施するステーキの提供システムであって、

 上記お客様を案内したテーブル番号が記載された札と、

 上記お客様の要望に応じてカットした肉を計量する計量機と、

 上記お客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のものと区別する印しとを

備え、

 上記計量機が計量した肉の量と上記札に記載されたテーブル番号を記載したシールを出力することと、

 上記印しが上記計量機が出力した肉の量とテーブル番号が記載されたシールであることを

特徴とする、ステーキの提供システム。

上記の考え方に従えば、「立食形式」でなければこの特許権を侵害しない可能性が高いと言えます。たとえば、ステーキ量り売りの競合店「やっぱりあさくま」は立食形式ではないようなので、この特許権を侵害しない可能性が高いです。断定できないのは、実際に侵害訴訟になると均等論(doctrine of equivalence)という考え方により、非本質的部分での相違点があっても権利侵害と解釈される可能性があるからです。また、同様に、「ステーキ」でなくローストビーフであれば、この特許権を侵害しない可能性が高いと言えます。

おそらくこの特許権の比較的確実な回避方法のひとつは、「計量機が肉の量とテーブル番号を記載したシールを出力する」というステップを行なわず、計量機の画面に表示された肉の量とテーブル番号を従業員が手で書き写すステップにすることです。これは、この出願が登録されるキモとなった要素なので非本質的とは言いがたく、均等の主張が認められないと思われるからです。もちろん、手作業にすることで効率性は多少落ちるかもしれません。

一般に、「XXXの特許を取得した」というと「XXXを独占実施できる」という印象を持たれがちですが、実際に意味するところは、「XXXの(請求項に記載された)特定範囲の実装を独占実施できる」ということです。

たとえば、以前書いたドワンゴ対FC2の特許侵害訴訟でも、ドワンゴの特許は動画とコメントのスーパーインポーズ表示方法そのものを独占するわけではなく、その特定範囲の実装を独占するものに過ぎません。そして、訴訟ではFC2の動画コメントサービスのシステムはその範囲内に入っていないと判断されたので、特許権の行使は認められなかったわけです。

一般論として、医薬品のように効果がある物質そのものを特許請求の範囲にできる特許は回避が実質上不可能(別の物質を発明するしかない)で強力なことが多いですが、ビジネスモデル特許やソフトウェア関連特許は何らかの代替案があって回避可能なことが多いです。と言いつつ、びっくりするほど強力なソフトウェア関連特許がないわけではないのですが(そのひとつの例が、以前書いた任天堂が対コロプラの訴訟で使用した特許かと思います)。