「そだねー」商標登録出願の行方について

(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

平昌冬季五輪の女子カーリングチームLS北見で有名になった北海道方言「そだねー」をマルセイバターサンドでおなじみの六花亭製菓が「菓子及びパン」を指定商品として商標登録出願(商願2018-024549)していたというニュースがありました。

「同社には"LS北見と無関係なのに”などといったクレームが寄せられている。」ということで、同社は、「道内企業で『そだねー』を多用して150年事業を盛り上げたいと思った。弊社に申請してもらえれば、自由に使えるような仕組みにしたい」と回答しているそうです。

この問題を考える上で、最初に押さえておきたい点は、商標は「選択物」であって「創作物」ではないということです(もちろん、今までにない造語を商標にしてもよいですが、その場合でも造語を作ったことに対する保護が行なわれるわけではありません)。たとえば「桃太郎」という商標の寿司屋があったとして、その寿司屋は「桃太郎」という言葉を創作したわけではありません。世の中に既にある「桃太郎」という言葉を自分の商売の標識として使用することを選択したということに過ぎません。

今回の件も、六花亭は「そだねー」という既にある言葉を自社の商品に使うことを選んだというだけの話です。商標法上は「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」は登録しないという規定(4条1項15号)等がありますが、おそらくこの規定に触れることはないと思います(LS北見が「そだねー」という言葉を使って商品を売ったり、サービスを提供したりしているわけではないからです)。

結局のところ、地元北海道の老舗である六花亭がわざわざ自社のブランドイメージを落とすようなことはしないであろうということで「申請してもらえれば、自由に使えるような仕組みにしたい」という企業としての公約を守ることに期待するしかないと思います。出願したことについて法律的な問題はなくても道義的な問題があるのではという意見もあるかと思いますが、手をこまねいていると北海道に全然関係ない人や企業(さらに悪いパターンとしては商標ゴロ的な人)に先に出願されてしまうリスクがあるので悩ましいところです。

さて、実はこの問題において、より注目すべき点は六花亭よりわずか2日先に個人の方が菓子、パン、文具類、被服等を指定商品にして出願(商願2018-023345)してしまっていることです。このままですと六花亭の商標登録出願は後願なので拒絶になります。この個人の出願人の方が登録商標についてどういう考え方をお持ちなのかは何とも言えません。(追記:名前からサーチすると北見工業大学の産学連携担当者の方である可能性が高そうです。もしそうであるならば最善のパターンであり何の問題もなかったということになります。)

と言いつつ、この手の「時の言葉」の賞味期限は結構短い(むしろ、時の経過によりかえって使用が恥ずかしくなる)ことが多いので、今後「そだねー」の商標権を維持することにどれくらいの価値があるかという点も気になるところです。たとえば、現時点における「じぇじぇじぇ」の商標的価値を考えてみれば想像がつくかと思います。

(追記:別のニュースによれば、九州の酒造会社である薩摩酒造も酒類(33類)を指定して2月28日に出願していたそうですがイメージ低下をおそれて出願を取り下げたそうです(なお、余談ですが商標出願後ただちに出願を取り下げても、特許庁のプロセスの都合により出願公開を止めることはできません(参考ブログ記事)。ところで、なぜこの出願が見つけられなかったかというと、現時点では2月15日以降の出願は特許庁のデータベースへのインデックス付けが終わっていないため商標をキーにした検索がまだできず、インターネット公報で食品関係と被服関係を指定したものを頭から目視サーチしたからです。なので、ひょっとすると2月28日以前の出願がまだある可能性もあります。)

日本IBM、ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事、『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 IT系コンサルティングに加えてスタートアップ企業や個人の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています。お仕事のお問い合わせは http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から。【お知らせ】Skype/Chatworkによる特許・商標の無料相談実施中です。詳しくは上記お問い合わせ先から。

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