日本で「スティーブ・ジョブズ」を商標登録出願するとどうなるか?

「スティーブ・ジョブズ」がイタリアのファッションブランドに!Appleが敗訴というニュースがありました(日本語参照記事(iPhone Mania)、元記事(The Verge))。ちなみに、The Vergeの元記事には訂正が出ていて、イタリアの裁判所ではなくEUIPO(欧州連合知的財産庁)によってアップルの異議申立が棄却されたという話だったようです。iPhone Maniaの方はまだこの訂正は反映されていません(「敗訴」というタイトルも厳密に言えば間違いです)。

イタリアのアパレル会社経営者が“STEVE JOBS”の商標がアップルによって登録されていないことを知って勝手出願したというパターンです。問題となった商標(タイトル画像参照)を見るとフリーライド感満載でこれを登録してしまってよいのかという気はします。

さて、これと同様に仮にアップルと関係ない人が「スティーブ・ジョブズ」または「STEVE JOBS」を日本で商標登録出願したらどうなるかを考えてみましょう。日本の商標法には以下の商標は登録しない旨の規定があります。

4条1項8号 他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)

ただし、審査基準上はこの場合の「他人」とは生存中の人物とされています。アップル元CEOのジョブズ以外にもスティーブ・ジョブズという名前の人が生きている可能性は十分にありますが、外国人名の場合はミドルネームを含めて本名であり、ミドルネーム抜きの場合は略称であるという審査基準がありますので、アップルのジョブズ以外に著名なスティーブ・ジョブズがいないと思われる以上、この条文が適用される余地はないと思われます(他人の略称については著名性が求められるため)。

なお、外国人の氏名はミドルネームを含めて本名とし、ミドルネームがない場合は略称とするという変てこな基準は、アパレルの「セシルマクビー」の商標登録に対してジャズベーシストのセシルマクビー氏が請求した無効審判の審決が元になっていると思われます(この話は長くなるのでこちらをご参照ください)。

ここで、注目すべきが「伝家の宝刀」4条1項7号(公序良俗違反)です。

4条1項7号 公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標

公序良俗違反は別に猥褻な言葉や差別用語だけではなく「周知・著名な歴史上の人物名であって、当該人物に関連する公益的な施策に便乗し、その遂行を阻害する等公共の利益を損なうおそれがあると判断される場合」(審査基準)も含まれます。これは(サルバドール)「ダリ」の商標登録を認めなかった判例に由来する基準と思われます。この基準の適用では、スティーブ・ジョブズが「歴史上の人物名」であるかどうかが問題になりそうです。

と、長々と書いてきましたが、実はこの問題はもうほぼ決着が付いています(先に結論を書くと記事として成立しないのでもったいぶりました、どうもすみません)。

今回問題になったイタリアのアパレル会社経営者は、過去に上記ロゴ商標とは別に“STEVE JOBS”の文字商標をマドリッド・プロトコル経由で日本に出願していました(なお、上記ロゴ商標はEUにしか出願されていません)。

日本への出願は予想通り「公序良俗違反」で拒絶が確定しています。仮に、図形を付加してロゴ商標として出願しても結論は同じでしょう(なお、日本に加えて米国、インド、中国、韓国、ロシア、メキシコにも出願されていますが、各国の同様の規定によりすべて拒絶または暫定拒絶となっています)。

ということで、日本で「STEVE JOBS」商標を登録して商売を始める(または、アップルに商標権を買い取らせる)という邪悪なことを考えてもそれは無理筋ということになります。