そのプロジェクトにブロックチェーンは必要か?

(写真:アフロ)

ブロックチェーンがビットコインなどの暗号通貨の基盤として(少なくとも今のところは)有効に機能しているのは確かですが、暗号通貨以外の領域ではこれといった応用が今のところ見られません。

"If all you have is a hammer, everything looks like a nail”(「金槌しか持っていない人にはすべてのものが釘に見えてくる」)という英語の言い回しがあります。今、ブロックチェーンという金槌を持っている人には(向いているかいないかにかかわらず)とりあえずすべてのものを引っぱたいてみたいという欲求が働いているように思えます。

どのようなシステムにブロックチェーンが向くかについては、たとえば、チューリッヒ工科大の研究者による「Do You Need a Blockchain?」という論文が参考になります。かいつまんで書くと以下の条件に合致する場合はブロックチェーンが向いており、それ以外の場合にはブロックチェーンは使わない方が良い(集中型データベースの方が向いている)とされています。

1)データストアに対する複数のライターがいる

2)常時オンラインの信頼できるサードパーティが存在しない

3)すべてのライターが信頼できるとは限らない

そもそも、誰かが不正をするかもしれないP2P環境においても信頼できる管理者がいる集中型環境と同様の耐改竄性を提供できるところがブロックチェーンのイノベーションなので、集中型環境で容易に実現できる領域にブロックチェーンを適用するのはたとえ「実験」であるにせよちょっと方向性がずれているのではないでしょうか?

こう考えてみると、たとえば最近聞かれるブロックチェーンを使って地域通貨を実現するといった事例は本当に意味があるのかという気がします。「仮想通貨だからブロックチェーンが最適である」ともやっと考えているのではないでしょうか?地方自治体や地元有力企業などの信頼できる発行元がいる場合にはSuicaやTポイントのように集中型で管理した方が全然楽で信頼性も高いでしょう。

別の例として著作権管理への応用を考えてみましょう。集中管理されている権利データベースをブロックチェーン上に置きましたというだけでは本質的には何も変わりません。たとえば、今のJASRACの作品データベース(J-WIDS)をブロックチェーン上に置いても、コストや耐障害性には多少の影響があるでしょうが、JASRACが作品の著作権の集中管理をしている点は変わりません。仮にJ-WIDSをAmazonのクラウドに置いたとしてもAmazonが著作権管理をしていることになるわけではないのと同じです。ブロックチェーンが意味を持つためには、著作権を集中管理する(そしてもめ事があった時には法的措置を取る)組織があるという前提そのものが覆されなければなりません。

未来の仮説として、JASRACのような管理団体が存在せず、作者自身が独自に作品データベースを管理するという世界を考えてみましょう。作品の著作権は通貨のように自由に取引されて頻繁に移転する、ライブハウスに備えられたマイクによってAIが演奏曲を自動的に判定し、ライブハウスからその演奏曲の(その時点の)権利者にライセンス料金が(暗号通貨で)自動的に支払われる、契約条件を遵守しないライブハウスの情報は自動的に法律事務所に送付されAIが弁護士に代わって法的措置を取る。これくらいの「ぶっ飛んだ」シナリオになるとブロックチェーンを使う必然性が出てくるのではないかと思います(なお、その場合でも集中型あるいは従来型の分散データベースの方が向いているのではないかという検証は必要でしょう)。