2chの商標権に基づいて2ch.netドメインの使用を差止められるのか

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前回書いたとおり、文字商標"2ch"の商標権が2ちゃんねる創設者である西村博之氏のものになることがほぼ確実になりました(今後、無効審判・異議申立が起こされる可能性はありますが)。西村氏が、この商標権に基づいて、2ch.netドメインの使用を差止められるかを検討してみます。今回の件に限らず、一般的にドメイン名と登録商標が類似していた時に当てはまる話です。

まず、インターネットのアドレスとして使用されるドメイン名は商標法における商標(商品やサービスの標識として使用される文字やマーク)とは異なる概念です(ただし、salesforce.comなどのようにドメイン名を模した商標を使用している場合はまた別です)。ゆえに、商標権に基づいてドメイン名の使用を直接的に差止めることはできません。

自分の商標と類似のドメインを、転売等を目的に他人が勝手にドメイン登録してしまった場合(いわゆる、サイバースクワッティング)に対しては、不正競争防止法2条1項13号により差止めや損害賠償請求を行なうことができます。

十三 不正の利益を得る目的で、又は他人に損害を加える目的で、他人の特定商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章その他の商品又は役務を表示するものをいう。)と同一若しくは類似のドメイン名を使用する権利を取得し、若しくは保有し、又はそのドメイン名を使用する行為

実際には、ドメイン名に関する紛争は裁判に訴えるまでもなく、調停機関によって解決されることが通常です。.netドメインの場合にはWIPO仲裁調停センターが窓口になります。

では、商標権を持っていれば必ず類似ドメインの使用を差し押えられるかというとそんなことはなく、上記の条文で言う「不正の利益を得る目的で、又は他人に損害を加える目的で」を立証しなければなりません(WIPOで調停する場合も”bad faith”の要件がありますので実質的に同じです)。有名ブランドとして誰でも知っているような名称を、個人がドメイン登録してしまったようなケースはこの条件を満足すると言ってよいでしょう。商標が登録されていれば不正目的を立証する上で有利な材料にはなりますが、今回の場合には、ちょっと外部からは判断しがたい要素があります。

結局のところ、2014年に起きた2ch.netの実質的な"事業譲渡"が実際に当事者におけるどのような合意の下で行なわれたかがポイントです。いったん事業が有効に譲渡されているのであれば、その後のドメイン名の使用は「不正の利益を得る目的で、又は他人に損害を加える目的で」とは言いがたいでしょう。この点について当事者の見解は異なっているようなので、調停において即解決というわけにはいかず、裁判の場において事業譲渡契約の有効性を争うしかないのではないかと思います。

私は詳しい内部事情を知らないのでもし裁判をしたらどういう結果が出るかは予想しにくいですが、ただ、2ch.netの事業は乗っ取られたのであって2ちゃんねる掲示板の実質的管理者は西村氏であるという主張は他の裁判との兼ね合いもあって行ないにくいのではないかと思います。