「カバのうがい薬」をめぐるいざこざについて

(写真:アフロ)

「明治、うがい薬キャラクターの使用差し止め仮処分申請」というニュースがありました。うがい薬の代名詞とも呼べるイソジンに関する話です。

イソジンの商標権は米ムンディファーマ社が所有しており、それを明治ホールディングス傘下のMeiji Seikaファルマ社がライセンスして使用しているという形態になっていましたが、両社間の契約切れにより、今年の4月から明治はイソジンという商標を使用できなくなります。「明治うがい薬」というそのまんまの商標を使用することになるようです。

しかし、明治には自社のうがい薬を特徴付けるもうひとつの要素としてパッケージのカバのイラストがあります。テレビCMでも使われているので周知性はかなり高いと思います。

明治は2015年3月頃からカバのイラストを含む商標を大量に出願しており、登録しています。また、「カバのうがい薬」等の文字商標も出願されています(こちらはまだ登録されていません)。おそらくは、2015年3月頃にイソジン商標のライセンス契約が解除される可能性が高まってきたので、カバのイラストで自社商品をアピールする方針にしたのでしょう。

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しかし、ムンディファーマの新ライセンス先である塩野義製薬子会社の新イソジンのパッケージにもカバのイラストが使われることが明らかになっています(販売店向けの資料に掲載されていたものなので、まだ、ネットには載っていないようです)。以下は、リンク先のTBSニュースの映像から著作権法にしたがった引用です。

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以下は明治の新パッケージです(製品名は変わりましたがカバのイラストやパッケージ全体のデザインは同じです。)

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という経緯で、明治側は、ムンディファーマと塩野義製薬を不正競争防止法等でパッケージ使用差止めの仮処分を申し立てたわけです(明治のプレスリリース)。プレスリリースでは、不正競争防止法"等"と書いてありますので、商標権も争点になっていると思います。

明治のカバと塩野義(ムンディファーマ)のカバは、カバのイラストとしてみるといくつか相違点はあります。ゆえに、著作権侵害についての争いであったとしたならば非類似とされる可能性が高いと思います。しかし、著作権法と商標法(および不正競争法)では類似の考え方が異なり、前者では美術としての表現の類似性がポイントになるのに対して、後者では取引の実情を考慮して消費者が誤認混同をするおそれがあるかどうかがポイントになりますので、明治の申立が認められる可能性は十分にあると思います。

ムンディファーマと明治との契約解消において何かごたごたがあったのかもしれませんが、敢えてカバを使うというムンディファーマ側のやり方は、違法性以前に、商売の仁義としてどうなのかと個人的には考えます。

追記: 申立のメインの理由は不正競争防止法2条1項2号であることがわかりました(他にもあると思いますが現時点では詳細不明)。

第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。

一 (略)

二 自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為

(以下略)

明治側が立証する必要があるのはパッケージデザインの著名性(周知性のレベルが高い状態)と類似性になります。消費者の混同は直接的には要件ではないですが、類似性の判断には間接的には効いてきます。類似性のハードルは通常の商標侵害訴訟のケースと比較して相当に低くなります。4月の商品販売までに仮処分で差止めたいところなので、類似性のハードルが低い本条文をメインに据えたものと思われます。

日本IBM、ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事、『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 IT系コンサルティングに加えてスタートアップ企業や個人の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています。お仕事のお問い合わせは http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から。【お知らせ】Skype/Chatworkによる特許・商標の無料相談実施中です。詳しくは上記お問い合わせ先から。

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