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東京ブランドロゴは五輪エンブレムの二の舞にならないのか?

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

「"&TOKYO"に決定 東京ブランドロゴ 五輪に向け世界に発信」というニュースがありました。

2020年東京五輪・パラリンピックに向け、東京都は9日、東京を世界に発信するためのブランドロゴを「&TOKYO」に決めたと発表した。海外向けにCMを流すなどして、イメージアップを図り、観光誘致などにつなげる考え。(中略)「○○&TOKYO」のように、企業や商品名などと自由に組み合わせ、だれもが無償で使えるような展開を見込んでいる。

だそうです。東京都による公式サイトもだいぶ前にできています。

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ここで、また、ネット民により類似ロゴが発見され、パクリ疑惑が持ち上がっています(参考記事(痛いニュース))。

パクリ元と騒がれている中で代表的なのは以下のロゴです。フランスの眼鏡店のPlug and See社のものです。アンド・マーク(アンパサンド)をちょっと変えただけ(一部が欠けている)のデザインなので、似たような感じのロゴがあるのはしょうがないと言えます。

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また、そもそもアンパサンドのフォントにはいろいろなバリエーションがあるので、一部が欠けたフォントも既にあります(参考サイトElegant Fonts For Great Ampersand Designs

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しかし、著作権的にはPlug and See社のケースも、上記のフォントのケースも問題ないと思います。特にシンプルなロゴマーク的なデザインの場合には、デッドコピー(そのまんまコピー)でもない限り、著作権法的には類似とはされません。さらにはフォントそのものはよほど特殊なものではない限り、著作物とはされないのが判例として確定しています。ちょっと似ていたくらいで著作権侵害を疑われる状態では誰であってもロゴデザインはできなくなってしまうのでこれは当然です。

では、商標法的にはどうでしょうか?&TOKYOは、既に全類を指定して商標登録出願されています(商願2015-71615)。これが登録されるかどうか考えてみます。

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このように地名を含む商標の場合、地名部分には識別力がないということで、地名部分以外で識別力や先登録との類似を判断されることがあります(「松阪牛」など地域団体商標として出願された場合を除きます)。こういう考え方で、&TOKYOロゴを見ると、上記の&のロゴ部分だけで比較することになります。同様に一部が欠けたアンパサンド・マークの先登録商標がいくつかあります。たぶん類似とはされないと思いますがちょっと微妙です。

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しかし、上記のように地名部分以外で類似を判断する手続きは確定したものではく地名部分を含めて全体で類似が判断されることもありますし、そもそも商標の審査では市場の取引の実情を加味してもよいことになっているので、先登録が周知商標でもない限り特許庁がわざわざ&TOKYOの商標登録出願を拒絶することはないのではと思います。

ということで、&TOKYOロゴについては著作権と商標権的には問題ないと思います(少なくとも今ある情報から判断する限り)。その点から言えば、佐野五輪エンブレムについても、それ単独では著作権と商標権的には問題がないと言えました(ベルギーの裁判も最終的にはIOC側が勝てる可能性が高いです)。しかし、同氏の他の作品に明らかに著作権上問題があるもの(典型的にはBEACHのトートバッグ)が次々と発見されたため、エンブレムについても採用はふさわしくないとされてしまったわけです(これはしょうがないと思います)。今回はそういう事情があるとは思えません(少なくとも今のところは)。

知財的な問題以外にも上記記事に書かれている制作費1億3,000万円が妥当なのか(CI的なコンサル仕事やWebサイト制作も含めてであれば別ですがロゴ単独の制作費だとすればどうなんでしょうか?)、一般公募すべきだったのではないか、そもそもロゴとしてありなのか等々の議論はあるかもしれませんが別論です。

【追記(2015/10/12 20:09)】

ニュージーランドの法律事務所のロゴ(中のアンパサンドのデザイン)に似ている説が持ち上がりました(参考サイト(痛いニュース))。これも偶然の一致(類似)のレベルなので著作権法上は問題にならないでしょう(商標権と異なり著作権は偶然の一致には及びません)。偶然の一致が生じないくらいのもっとひねったデザインにするべきではなかったかという議論もあるかもしれませんが、これまた別論です。

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【追記(2015/10/13 22:10)】

新たな記事によれば、1億3,000万円の内訳は「(1)ロゴマーク自体に500万円、(2)商標調査に2540万円、ポスターや映像などPRツールのデザイン経費に7000万円」だそうです。まあ妥当と言えば妥当かもしれません。また、上記のフランスの眼鏡ショップは「日仏友好のため、ロゴを変更するつもりです。新しいロゴを支援するための資金をお願いします!」とWebサイト上で言っているそうです(これはうまいやり方)。

【追記(2015/10/13 22:15)】

関連蘊蓄なんですが、&TOKYOがモデルにしたI Love New Yorkロゴ(Love部分はハートマーク)はデザイナーの好意によりデザイン料無料だったそうです(参考Wikipediaエントリー

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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