招致エンブレムを大会エンブレムとして使うことは本当にできないのか?(その2)

(写真:中西祐介/アフロスポーツ)

佐野エンブレムの商標調査コストは4,700万円くらいだったようです(加えてエンブレム選考のコストが900万円)(参考ニュース)。一般公募するかしないかにかかわらず、新たにエンブレムを選定するとこのコストがまたかかってしまうことになります(さらに発表会の経費6,900万円もかかります)。招致エンブレムを再利用すれば少なくとも日本国内の商標調査は不要なので大幅なコスト節約になりますね。

以前書いた記事では、組織委による「IOC憲章で、『五輪エンブレムは組織委が作製する必要があると定められている』とし、招致委が作製したものは使えない」という説明に対して、本当にそうなのか検証してみました。少なくともオリンピック憲章からは招致エンブレムのデザインの流用を禁止するような規定は見つかりませんでした。

別の報道記事では、加えて、「発表まで機密事項として管理する」ことが定められていると言います。しかし、オリンピック憲章を見てもそのようなことは書いてありません(別途内部的な文書に規定があるのかもしれませんが)。

ただし、以下のように商標登録による保護を行なうことは定められているので、そこから間接的に生じた要請なのかもしれません。すなわち、正式発表前にロゴを公開すると第三者に勝手出願され、商標登録が妨げられるリスクが生じるので機密にせよということです。ということなら、招致エンブレムはもう商標登録済みなので関係ないですね。

4.7 NOCのオリンピック・エンブレムは、可能な限り、自国内において、当該NOCによって、登録可能なもの、すなわち、法的保護を受けられるものでなければならない。NOCは、IOCによるエンブレムの承認後6ヵ月以内にこのような登録を行い、かつIOCに登録の証明を提出しなければならない。(後略)

メディアの記者さんも「規定により招致エンブレムはオリンピックエンブレムとしては使えません」と組織委に言われた時には「はいそうですか」ではなく「具体的にどの規定のどこに書いてあるのですか?」と追加質問していただきたいものです。

何とか理由をつけて招致エンブレムをオリンピックエンブレムとして使わせたくない「見えない力」(笑)が働いているように思えます。

おそらくは、

(1)デザイン界の「大先生」を差し置いて一美大生の作品が採用されるのは困る

(2)もう一回発表イベントをやるという仕事がなくなるのは困る

(3)IOCと交渉して前例がない手続を認めてもらうのが大変なので困る

(4)既に招致時点でグッズがある程度流通していて希少価値が減っているので困る

あたりが理由なのではと思います。

ただし、(4)については、主にスポンサー企業の問題であり、スポンサー企業が、また問題が起こるかもしれない新エンブレム選定を待つか、希少性はないが安心して使え国民の人気もある招致エンブレムのデザインを使うかのどちらを好むか次第だと思います。

ところで、なぜスポンサーがそれほど大事なのかというと、スポンサー収入が減るとその分税金が使われてしまうからです。近年の五輪は商業五輪と批判されることが多いですが、税金を節約するためには商業化もやむを得ないところもあるのです。

日本IBM、ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事、『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 IT系コンサルティングに加えてスタートアップ企業や個人の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています。お仕事のお問い合わせは http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から。【お知らせ】Skype/Chatworkによる特許・商標の無料相談実施中です。詳しくは上記お問い合わせ先から。

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