実際の裁判では著作物の類似性判断はどのように行なわれるか

トートバッグの話からはいったん離れて、一見して似てはいるものの著作物としての類似性が否定された裁判例と肯定された裁判例を見てみましょう。類似性がどう判断されるかの理解が深まると思います。

まず、類似性が否定された例です。個人がNTTを訴えた「タウンページ・キャラクター事件」です。

原告の漫画画像は以下です(裁判資料より一部抜粋)。

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被告のイラストは以下です(同上)。

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本を擬人化したキャラクターは一見して似ていると言えば似ているかもしれません。しかし、地方裁判所、高等裁判所共に著作物としての類似性を否定しました。

地裁判決の重要部分を引用します(強調は栗原による)。

原告漫画も、被告イラストも、キャラクターの目、口、腕等で表情を表現しているということができるが、そのこと自体はアイデアであって、著作権法で保護されるものではなく、原告漫画と被告イラストとでは、キャラクターが異なることは、前示のとおりである。

訴えた側は自分の作品をパクリおってけしからんという先入観を持っているので、共通部分があるから著作権侵害なのだと思いがちかもしれませんが、実際の裁判では侵害とされるとは限りません。共通部分がアイデア(このケースでは本に顔を描いて手足を生やすことによる擬人化)にすぎなければ著作物としての類似性は否定されます(つまり、著作権侵害にはなりません)。

判決文は裁判所のサイトに載っています(地裁判決高裁判決)。それほど長くないので全文読んでみても興味深いでしょう。なお余談ですが、本件の原告は刑事告訴もしていますが、不起訴処分となっています。

次に、類似性が認められた事例、「LEC出る順シリーズ事件」です(地裁判決文)。

原告イラスト例は以下です(裁判資料より一部抜粋)。

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被告イラスト例は以下です(同上)。

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判決文のポイントは以下です(強調は栗原による)。

原告イラスト1と被告イラスト1の共通点のうち,立体の人形を左斜め上にライティングを施して撮影する表現方法,人形を,頭や手足を球状ないしひしゃげた球状にしてデフォルメする表現方法,人形に物を持たせる表現方法等は,美術の著作物としてありふれた表現方法であって,かかる点が共通していることのみをもって被告イラスト1が原告イラスト1に類似しているということはできない。しかしながら,人形を肌色一色で表現した上,人形の体型をA型にして手足を大きくすることで全体的なバランスを保ち,手のひらの上に載せた物が見る人の目をひくように強調するため,左手の手のひらを肩の高さまで持ち上げた上,手のひらの上に載せられた物を人形の半身程度の大きさに表現するという表現方法は,原告の思想又は感情の創作的表現というべきであり,原告イラスト1の特徴的な部分であるということができる。そして,被告イラスト1は,このような原告イラスト1の創作的な特徴部分を感得することができるものであるから,原告イラスト1に類似するものというべきである。したがって,被告イラストにおいて,人形の材質,上半身の傾き方,右腕の格好,脚の開き方,左手の上の家の数等の具体的表現において,独自の表現を加えている点を考慮してもなお,被告イラスト1は原告イラスト1の翻案物に該当すると認めるのが相当である。

ありふれた表現と創作的表現を分けた上で後者が共通するからこそ類似するのだという論理付けをしていることがわかります。なお、判決文を全文読むとわかりますが、ありふれた表現かどうかは被告が証拠として提出した過去の類似作品も加味して検討しており、裁判官の感覚だけで決めた話ではありません。

理屈はわかるがやはりグレーゾーンがあるなと思われた方もいると思います。ただし、少なくとも元著作物の創作性のある部分のデッドコピーが行なわれていれば、類似性は否定しがたいでしょう(ここで挙げた二事例はデッドコピーではないので、どうしてもグレーゾーンがあるなという印象が生じてしまいますが)。

なお、上記の例をピックアップするにあたって「著作権法入門」(有斐閣)の第8章「権利侵害」(上野達弘先生担当)を参考にしました。この本は著作権法のポイントがコンパクトにまとまっていてお勧めです。ついでに書いておくと、著作権法を勉強したい人が最初に読む本としての個人的お勧めは福井健策先生の「18歳の著作権法入門」です。その次に読む本としてはこの「著作権法入門」をお勧めいたします。