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北京五輪招致ソング「アナ雪」パクリ疑惑に対する疑惑

栗原潔弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

「『アナ雪』のパクリ?北京冬季五輪招致ソングに盗作疑惑」という記事を読みました。招致ソング9曲中の「氷雪舞動」という歌がLet It Goに似ているという疑惑があるそうです。「中国の経済誌"財経"が先週末、音楽ファンの話を基に両曲の比較表を掲載し、前奏部分の旋律や長さ、テンポ、楽器のアレンジなどがほぼ同じだと指摘した」そうです。

YouTubeで当該楽曲を比較した映像を見ましたが似てないと思います。確かに両曲の「感じ」に"共通する部分"はありますが、これはこの手のバラード曲なら普通にある定番的構成要素(2コードのピアノイントロ、小さく始まって一瞬ブレーク→小サビ→大サビで盛り上げ)だと思います。もっとLet It Goならではの特徴ある部分(たとえば、"The cold never bothered me, anyway"の部分)が似ているのかと思っていました。これがパクリだというのならば、Let It Goも過去のバラード曲(たとえば、Without You)のパクリになってしまうでしょう。

"共通する部分"が多いからパクリとは言えません。中国はパクるという先入観があるのでこういう印象になってしまうのかもしれません。

これで思い出したのが、ロビン・シックとファレル・ウィリアムスに対するマービン・ゲイ遺族による著作権侵害訴訟です。メロディラインは似てないのに曲全体の「感じ」に"共通する部分"があったために著作権侵害とされてしまいました(これについては長くなるのでまた後日(たぶん、明日)詳しく書きます)。

余談ついでに書いておくと、楽曲のパクリ度を判定するためには、共通する要素があっても、その音楽のスタイル一般に属する定番的要素は重み付けを小さくして、本当にその曲としての独自性がある要素は重み付けを高くして比較する必要があるでしょう。このような処理はニューラル・ネットによる機械学習が得意とするところなので、将来的には人工知能による音楽のパクリ調査や判定も実用化されるかもしれません。

弁理士 知財コンサルタント 金沢工業大学客員教授

日本IBM ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事 『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 スタートアップ企業や個人発明家の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています お仕事のお問い合わせ・ご依頼は http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から 【お知らせ】YouTube「弁理士栗原潔の知財情報チャンネル」で知財の入門情報発信中です

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