進撃の巨人オーケストラ演奏キャンセルの件を著作権的に検討する
日本劇伴交響楽団によるアニメ楽曲のコンサート「Anime Symphonia」の演奏曲目が公演3日前に変更になり「進撃の巨人」関連楽曲がカットされるという事件がありました。日本劇伴側のサイトでは以下のような説明がされています。
「進撃の巨人」楽曲を目当てにチケットを買ってしまった人が返金を請求できるかどうかの議論はありますが、これについては私は専門外なので特に触れません。この点に関する業界関係者の意見としてはこの辺が参考になります。ここでは著作権関連の議論のみします。
JASRACの楽曲データベースJ-WIDで調べると、進撃の巨人関係の楽曲は、作曲家である澤野弘之氏らが音楽出版社であるポニーキャニオン音楽出版に権利を譲渡し、それがJASRACに信託される形になっています(映像コンテンツ関係の音楽では典型的パターンです)。
いずれにせよ演奏権についてはJASRACに所定の料金さえ払えばクリアーされます。問題は、オーケストラアレンジをすることによる編曲権(翻案権)です。JASRACは編曲権の管理はしませんので、編曲を行なう場合には、編曲権を所有する人に直接許諾をもらう必要があります。編曲権の帰属は作曲家と音楽出版社間の契約次第ですが、常識的には音楽出版社に帰属するはずです。上の説明で「権利保有会社」とあるのはポニーキャニオン音楽出版、「権利保有会社が留保している権利」とは翻案権(編曲権)のことでしょう。
実務上、演奏権に加えて編曲権の処理が必要なのはどのようなケースかは明確には判断しがたいですが、少なくともオーケストラや合唱用に編曲して(つまり、元曲のメロディにバリエーションを加えて膨らませるような編曲を行なって)有料のコンサートで演奏する場合には、編曲権の処理を行なうことが通常と思います。私の友人のミュージシャン(JASRACと直接契約)は、自分のオリジナル曲をエレクトーンのコンサートでアレンジ版を演させてくれという許諾のお願いが来たことがあると言っていました。
また、上記の説明における「作曲家からの編曲許諾を得、演奏を計画しておりました」の意味ですが、作曲家からは著作者人格権である同一性保持権の不行使の合意をもらっていたが編曲権の処理はしていなかったのか、そもそも編曲権を持っていない作曲家の合意をもらっていたのか、あるいは、作曲家と口約束レベルでOKをもらってそれで完了と思っていたのか、よくわかりません。いずれにせよ興業会社として音楽出版社に話を通していなかったのだとしたらずいぶん稚拙なお話しです。
なお、実務上、音楽出版社が編曲権許諾の申し出を断ることはほとんどないそうです。しかし、今回は、音楽出版社側は差止請求をちらつかせるほど強硬な態度であったようです(日本劇伴側が正確な情報を出していればという前提でですが)。
金銭面での折り合いが付かなかったか(「進撃の巨人」はアニメ版映画後編が公開中、実写版映画の公開が迫ってますのでそれなりの条件が必要でしょう)、そもそも映画と関係ない団体による現時点でのコンサートはフリーライド行為として許さないのか、あるいは、単に話が突然すぎて交渉時間がなかったのか(映画がらみなのでステークホルダーは多いです)わかりませんが、理由のいかんにかかわらず著作権者がノーと言えば利用できないのが著作権法の仕組みです。
まあ、いずれにせよ、(旬の映画に関連した)権利関係もクリアーすることなく、チケットを売り始めて、ぎりぎりになって楽曲変更という日本劇伴側は非難されて当然でしょう。