JASRACの使用料分配方法を批判する前に知っておきたいこと

JASRACが徴収した著作権使用料を公正に分配していないというのはよく聞かれる批判です。もちろんその中には真っ当なものがありますが、事実誤認に起因するものも多いように思えます。

まずは実情を理解してから批判すべき所は批判するようにすべきです。まずは、JASRACのWebサイトの「JASACの分配の仕組み」、特に、「分配に関するよくあるご質問」くらいは読んでおくべきでしょう。

特に重要なのはQ3. 「利用の形態によって使用料の分配方法に違いはありますか」だと思います。まとめると以下のようになります(Yahoo!個人のシステム上表組みが作れないのでイメージにしました)。

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パターン1は曲の使用ごとに料金が徴収されて、権利者に分配されるケースです。一番公平ですが、CDのように使用回数(販売数)が明確にわかり、かつ、事務作業のリソースがあるケースではないと適用できません。たとえば、飲食店がBGMとしてCDをかけるたびにどの曲を使ったかを逐一報告するのは非現実的です。

パターン2は徴収は包括(売上げの一定割合等)ですが、分配は曲の実際の使用に基づいて比例配分されるケースです。これも(全曲報告を行なっている)放送局や通信カラオケのようにほとんどシステムで自動処理できるケースでないと適用困難です。

パターン3は徴収は包括(料金や店舗面積に基づく等)で、分配はサンプリング調査に基づいて比例配分されるケースです。ライブハウス等の生演奏はこのパターンがほとんどです。

ここで、問題になるのがパターン3(特にライブハウス)です。サンプリングに基づく以上完全に公平かつ透明に分配というわけにはいきません。特に、サンプリング調査の詳細が不明確である、メジャー曲の著作者のみに分配金が支払われロングテールに相当する著作者に分配金が回っていないという点を問題にする人もいます。ライブハウスオーナーでもあるファンキー末吉氏がJASRACと争っているのはまさにこの点です(詳しくはまた後日)。

過去においては、ライブハウスオーナー(あるいはバンド)が演奏曲目を逐一報告するのは事務作業的に困難なものがありました。つまり、パターン3を採用せざるを得ませんでした。こうなると統計上マイナーな権利者が無視されるのはいたしかたなかったと言えます。しかし、今日では適切なアプリケーションがあれば、スマホ等で全曲報告を行なうのはそれほど困難ではありません。JASRACも(なぜかあまり大々的にではないですが)J-OPUSという楽曲報告システムを公開しています。このような仕組みが一般化すれば、ライブハウスも上記のパターン3からパターン2の形態になりもう少し公平感が高い分配が実現するはずです。

何回も書いているように、JASRACに問題なしとは言いませんが、JASRACのような仕組みがないのは困ります。批判するのであれば、もう少しITを活用して権利者への公平な分配を実現しつつ、手数料率を下げよ(現在、生演奏については26%です)という方向に向けるべきだと思います。

ところでまったくの余談なんですが、私も昔いろいろあって(JASRACではない)著作権管理団体に信託している楽曲があり、たまに明細書が送られてきます。分配金は四半期でだいたい2円から4円くらいです(打ち間違いではありません)。さすがに、2円が振り込まれることはないですが、明細書を82円切手を使って送ってくれるのは申し訳なかったです(最近はウェブで確認できるようになったようですが)。

日本IBM、ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事、『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 IT系コンサルティングに加えてスタートアップ企業や個人の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています。お仕事のお問い合わせは http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から。【お知らせ】Skype/Chatworkによる特許・商標の無料相談実施中です。詳しくは上記お問い合わせ先から。

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