アップル、特許侵害訴訟で630億円の賠償金支払評決:サムスンの時とはどう違う?

Smartflash LLC v Apple Inc評決

NPE(特許不実施主体)、つまり、自社では実業を行なわず特許権の行使だけを行なう企業であるスマートフラッシュ社が特許権侵害でアップルを訴えていた件で、テキサス州連邦地裁の陪審はアップルに約5億3300万ドル(約630億円)の賠償金を支払うことを命じました(参照記事)。

これで思い出すのはカリフォルニア州北部連邦地裁における、アップル対サムスンの侵害訴訟です。そこでは1,000億円以上の賠償金支払がサムスンに命じられたので、それに比べると低いと思われるかもしれませんが、今回の事件とは特性が違います。

アップル対サムスンの訴訟では、賠償金のほとんどは(日本で言う)意匠権の侵害に由来するものでした。つまり、サムスンがアップルの工業デザインを模倣したことによるものです。

米国の制度では、意匠権(工業デザイン)と特許権(発明)が一緒の法律で扱われており、前者が"design patent"、後者が"utility patent"と呼ばれます。メディアによっては単純に「特許」と報じてしまうことがあるので注意が必要です。

そして、米国の特許意匠法では、"design patent"の侵害では、侵害者の利益をそのまま権利者の損害と推定できるという"design patent"特有の規定があるので、損害額が膨らみがちです。これに対して、今回の事件は、"utility patent"の侵害だけで、多額の賠償金に結びついたという点で注目に値します。

では、スマートフラッシュ社の特許とはどのようなものでしょうか?例によってほとんどのメディア記事ではDRM関連の特許とするだけで、特許番号を挙げていません。

自腹で(とはいっても100円くらいですが)米国の裁判情報システムPACERを検索してみると、問題となっている特許は7,334,720のクレーム13、8,118,221のクレーム32、8,336,772のクレーム26と32であることがわかりました。いずれも発明の名称は”Data storage and access systems ”で、1999年の個人発明家による出願がベースになっています。詳細な解説は時間ができたら別途やろうかと思いますが、今では当たり前になっているコンテンツのアクセス制御技術という印象です。たとえば、8,118,221のクレーム32は、支払によってデータへのアクセス・ルールを決定すると言っているだけのように見えます。

Smartflash LLC v Apple Inc評決
Smartflash LLC v Apple Inc評決

一般に、この手の特許がNPEの手に落ちるとやっかいです。反訴やクロスライセンスによる防御ができないからです。スマートフラッシュ社はこの特許を2013年に個人発明家から買っています。まさに、訴訟だけを目的とした行為でありパテントロール(≒悪質NPE)と呼んでしまってよいでしょう。

スマートフラッシュ社は、グーグル、アマゾン、サムスン等に対しても権利行使しているようです。DRM付のコンテンツ販売を行なっていれば誰でも侵害してしまう(しているように見えてしまう)ということでしょう。とは言え、Bloombergの記事等では、この評決は覆される可能性が高そうだとされています。米国全体としてパテントトロールへの産業の悪影響が問題視されるようになっているのでこのような見方は納得できます。

日本IBM、ガートナージャパンを経て2005年より現職、弁理士業務と知財/先進ITのコンサルティング業務に従事、『ライフサイクル・イノベーション』等ビジネス系書籍の翻訳経験多数 IT系コンサルティングに加えてスタートアップ企業や個人の方を中心にIT関連特許・商標登録出願のご相談に対応しています。お仕事のお問い合わせは http://www.techvisor.jp/blog/contact または info[at]techvisor.jp から。【お知らせ】Skype/Chatworkによる特許・商標の無料相談実施中です。詳しくは上記お問い合わせ先から。

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