楽器に網をかけて演奏できなくするJASRACについて

JASRACの申し立てにより、著作権利用料を払わない静岡のライブハウスの楽器やスピーカーに静岡地裁の執行官が網をかけて演奏できなくするという事件がありました(参照記事)。

まず、ライブハウスとJASRACの関係について説明しておきます。

日本でライブハウスを開業するとJASRACの営業担当者が訪問してきます(本当にすぐとんでくるらしいです)。そして、通常は席数、月間の演奏時間、客単価に応じた所定の著作権利用料を請求されます。いちいち口に出しては言いませんが、基本的にどのライブハウスも支払っています。律儀なライブハウスであれば、どこかにJASRAC契約店であることを表すシールが貼ってあると思います。こういう仕組みになっているのでライブハウスで演奏を行なうアーティスト側は著作権について気にする必要はありません(外国曲についてもJASRACと海外の権利団体の提携により自動的に処理されます)。

ところで、爆風スランプのファンキー末吉氏が著作権利用料に関してJASRACと争っているのは有名だと思いますが、同氏の主張は著作権利用料を払いたくないということではなく、払った著作権利用料を権利者(作詞家・作曲家)に公正に分配せよということです(一理ある主張です)。これについては改めて書くことにします。

さて、ライブハウスがJASRACに著作権利用料を払わないで営業を続けることは、単に払うべきお金を払わないという状態ではなく、著作権の侵害という状態です。著作権法の規定(112条)では、著作権侵害に対する「差止請求権」が認められており、著作権者は著作権を「侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる」となっています。今回の仮処分はこの差止請求権の行使です。

さらに言うと、今回は関係ないですが、故意の著作権侵害は刑事罰対象なので、JASRACに金を払わないことで警察に逮捕されてしまうということも起こり得ます(参考記事)。

ということで、今回の事件は法律上のつじつまとしては合っているのですが、市民感情的には音楽文化の振興を目的のひとつとする団体が楽器に網をかけて使えなくするというのは何だかなーという気がします(売上金の差し押さえくらいならまだわかるのですが)。もちろん、こういう差止めや警察による逮捕に至るのは数少ないケースで通常はそこに行くまでに和解するのですが。

この静岡のライブハウスの規模がわかりませんが、仮に客席40名、毎晩演奏(月間演奏時間60時間以上)、客単価2000円という条件で月額利用料金をJASRACの料金表で調べてみると包括契約の場合月額44,000円です。経営が順調なライブハウスであれば払えない金額ではないですが、収支トントンの経営状況だとちょっと厳しいかもしれません。また、1曲ごとに支払う方式を選択すると1曲あたり120円ですみます。新人バンドがオリジナル曲を中心に演奏するようなライブハウスであれば、JASRAC管理曲を演奏することは少ないと思われるので金銭的負担は小さいです(休憩時間中にCDをかけたりするとその権利処理が別途必要になってしまいますが)。