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サイバーエージェント人事責任者に聞く若手育成のヒント(後編)

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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サイバーエージェントでは、若手を上司が「育てる」のではなく、本人が自発的に「育つ」環境を整えています。働き方の選択肢が増えた今、社員一人ひとりの自由度が高まっています。こういう時代において必要なのは、上司があれこれ細かく指示したり、管理したりするマイクロマネンジメントではありません。若手が自ら考え、成長するために走っていける「自走環境」を整えることなのです。そのために会社がすべきことは何でしょうか?

<ポイント>

・チャレンジに失敗した社員はどうフォローするのか?

・組織風土をチェックするときは、1年目に話を聞く

・新たに抜擢カルチャーと企業風土をつくるには?

・自分の強みや適性が分からない若手のポテンシャルを引き出すには?

・強みは見つけるものではなく、決めるもの

・キャリアップを望まない社員にはどうアプローチする?

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■決断のスピードを早くするには?

倉重:決断にはスピードも大事ですよね。

曽山:早く決断してもらうこともすごく大事ですし、早く決めてもらうためには場数が必要になります。決断経験はやはり量×質です。「自分で決めた」という経験の量がものを言います。

よく「二十歳そこそこの社員に社長なんて任せて、できるのですか」と言われます。最初はできないけれども、早くから挑戦させることでどんどん学んで成長していき、できるようになるのです。サッカー選手でもフィギュアスケート選手でも、みんな若い頃から経験を積み重ねています。中には高校生から競技を始める人もいるけれど、早くからやるというのはすごく大事なことだと意識しています。

倉重:年を取ったら自然とできるようなものでもないですしね。

曽山:営業や企画、購買部にいたというビジネス経験は素晴らしいと思いますが、社長業は総合プロデュース業なので全然違う専門能力だと思います。

倉重:私も独立して初めて気づきましたけれども、誰かに任せていない仕事は全部社長の仕事ですよね。

曽山:「こんなことまでやらなければいけないのか」というのがあるわけですよね。お金を動かすことを全部しなければいけないので。社長は、会社のスケールや、人数、金額に関係なく全部見なければいけないという点ですごく大変だと思います。

倉重:社長だけではなく、社員であっても経営視点は持てるものですか?

曽山:近い経験はできます。例えば社長はキャッシュの流れをしっかり見なければいけません。キャッシュ以外の部分でも大切な要素はあります。例えば戦略や目標をどうするのかということは、経営の一番重要なポイントだと思います。どこが伸びて、どういう目標を置いて、どういう戦い方をするか。これが経営の考え方です。会社の中の部署であっても、PLをきちんと作ってその部門を成長させるだけでもものすごい経営経験だと思います。会社をつくるケースもありますが、会社をつくらないほうが社内の連動性や部門内の連携がいいときもあるのです。そういうときは事業部に任せて、PLを中心にどうしたら事業を大きくできるかを考えます。

倉重:その事業やプロジェクトに経営視点を入れるということですね。

曽山:十分経営の経験が積めると思います。

倉重:入社何年目の人にとってもそういう経験は必要ですよね。多分同じことをしているとそのレベルの決断に慣れてくると思います。

曽山:「飽きた」「慣れた」というのは至って自然なことだと僕は思います。決断慣れですよね。

倉重:僕も独立する前に、「慣れた仕事ばかりになって、このままでいいのかな」と思いました。多くの会社でも、その状態の社員を放っておくと辞めますよね。

■失敗した社員のフォローの仕方

倉重:チャレンジの機会は的確に与えていると思いますが、失敗も当然あるのではないですか?

曽山:基本的に「これで行くぞ」と決めるときは、未経験のことを決断しているわけじゃないですか。ですので、必ず想定外のことが起きます。「A商品を提案すればいいだろう」と思ったら、なぜかお客さんに怒られたとか。「何でこんなものを持ってくるんだ。おまえの前の担当営業はこのAを持ってきて失敗したんだよ」ということを引き継ぎもなくやってしまった場合、契約を切られることがあるかもしれません。これも一つの失敗です。

「お客さんに営業に行くときは、前任の人に話を聞かないといけない」という学びがあって、決断、失敗、学習というサイクルが勝手に回り始めます。自分で決めたことで怒られたりトラブルになったときも、「ああ、自分のせいだ」と思えます。

 もし上司に言われた通りにしていたら、「上司に罠はめられた」と感じるかもしれません。自分で決めたら、想定外の失敗があったときも前向きにとらえられます。

例えば「よし、1,000万円の売上目標を達成してやる」と自分で決めたけれど、簡単に1,000万円行かないときもあるじゃないですか。これもミニ失敗ですよね。「1,000万円達成するためには、こういった計画が必要だ」と失敗から学べます。それは決断した人だけが得られる失敗財産なのです。

そうすると次の学習にどんどんつながります。学習経験がたまればたまるほど次の失敗をしなくなるのです。

倉重:「失敗は成功の母だ」と、よく言葉では言いますけれども、本当に実践できているところは少ないと思います。いつごろからサイバーエージェントはそういうカルチャーになっていったのですか?

曽山:サイバーエージェントできちんと取り組み始めたのは創業5年後ぐらいからです。1998年に設立して2000年に上場して資金調達させていただきました。ここから3年間ぐらいたくさんの新規事業や新会社を立ち上げたのです。ただし、ほとんど全部つぶれてみんな辞めてしまいました。当時は失敗が認められていない会社だったのです。2003年に「これはよくない」と言って大きく変えたことが一つあって、そこから徐々に失敗してもみんな辞めなくなって活躍するようになりました。

 何を変えたかというと、撤退の基準を明文化したことです。チャレンジを始めるのは誰でもできますけれども、止めるという決断でもめていたのです。そこで先に基準を決めることにしました。例えば資本金を使い終わったら終わり。粗利益が4クオーターや6クオーター、1年か1年半ぐらい下がったら撤退というのを明文化して、先に責任者に渡すようにしました。そうすると責任者も、「今日からキャッシュのカウントダウンが始まった」とわかるので、真剣味も違います。

倉重:めちゃめちゃ経営視点というか、経営そのものですよね。

曽山:カウントダウンですごく頑張るというプラスの部分もあります。新規事業なので、「参入した市場が想定より成長しなかった」ということも当然あり得るわけです。撤退基準に抵触しそうな場合、「そろそろやばいな」というのが社長も周りの人にも分かるので、仮に撤退しても誰も社長のせいにはしません。

「全然問題ない。ルールがそうだから一回撤退しよう。君たちが問題ではないから」と言ってねぎらいます。必ず「お疲れさま。チャレンジしてくれてありがとう。次はどんなチャレンジをしたい?」と聞いて、社内ヘッドハンターが次の部署に連れて行くとまた頑張ってやってくれるわけです。つまり一回失敗しても次のチャレンジができるという事例をどれだけ増やせるかが大事です。

倉重:失敗しても学習することにつなげるのですね。ABEMAは撤退基準があるのですか?

曽山:公でも言っていますが、ABEMAやスマホ変革等、サイバーエージェントとしてものすごく重要な事業は経営陣で決めて、撤退基準は作りません。一方で小さい事業については当たり外れがまだ分からないので、ほとんどの事業で撤退基準がきちんと明文化されています。

倉重:なるほど。ゲームも最初は撤退基準があったのですか?

曽山:投資幅を明確に決めました。

倉重:小さいところから始まったものが主力になったりすることもあるのですね。でも、失敗して戻ってくる方もいるわけじゃないですか。そういう方の迎え方はありますか?

曽山:ポイントはまず先ほどお話しした通りねぎらいをしてあげて、その次に何をチャレンジしたいか本人意思を聞くことです。異動の根本なので、次にどういうことをしたいかは必ず聞きます。撤退した本人は落ち込んだり恥を感じたりしているので、社内ヘッドハンターや人事が面談して、コンディションが低下していないかをチェックします。次の成功まではサポートしていくことが多いです。

倉重:必ず未来の話をするのですね。

曽山:明るい未来を持っているとみんな頑張れるので。過去を見て反省ばかりしていると、どうしてもショックしかないのです。未来の明るいところを一緒に議論します。ポジティブにするために大事なことは、失敗したことによる学びを言葉にしてもらうことです。

倉重:言語化するということですね。

曽山:これによって何が失敗の原因で、次に同じケースになったらどうするのかを聞くのです。大体みんな学んでいるので、「最初のスタートのところでユーザーをもうちょっと分析すればよかった」「自分一人でがんばらないで周りの人にもっと聞けばよかった」という言葉が出てきます。

■面談で話を聞き出すコツ

倉重:曽山さんは話を聞くことがかなり多いと思いますけれども、話を引き出すコツとして、意識していることはありますか?

曽山:一番僕が意識しているのは、自分が聞きたいアジェンダを先に投げるということです。例えば昨日も、沖縄のグループ会社で活躍している幹部に面談をお願いしたくて先にアジェンダを投げました。もしアジェンダを投げないで私から面談を入れられてしまうと、「人事部長から何か面談の話が来た。何を話せばいいんだろう」と思うかもしれません。

倉重:急に人事部長が来ると怖いですよね。

曽山:普段しょっちゅう面談しているわけではないと、心配を感じてしまうのは自然なことです。ですから必ず先にアジェンダを伝えます。

例えば個人的なところでは、「自分がチャレンジしたいこと」「上司や担当役員からリクエストされていること」「何か相談したいこと」という3つです。

 組織のところで言うと、僕はオフェンスとディフェンスという言葉を使います。組織で攻めるために何かやっていることはあるか。それは採用でもいいし、営業戦略でもいいので、オフェンスについて教えてもらいます。

ディフェンス面は例えば採用や労務など、何でもいいですけれども固めなければいけないことです。こういうアジェンダを伝えておくと、本人も言いたいことが言えますし、途中で話が逸れてしまっても文字があるので戻れます。そういったことを意識しています。

また1年目の社員にも面談を申し込むことがありますが、その時もアジェンダを先に伝えるようにしています。

倉重:人事部長に面談を申し込まれたらだいぶビビりますよね。1年目の人も直接面談するのですか。

曽山:マンツーマンでもありますし、社員4人対曽山で話すこともあります。私は基本的に組織風土をチェックするために、1年目に聞くという考え方を持っています。例えば会社の組織風土を知りたいと思ったら1年目に話を聞くのです。3~4人に、「サイバーエージェントの雰囲気はどのような感じ?」と聞くと、いろんな単語が出てきますが、ここに本音と真実が入っていると思います。一番の社歴が浅い人に聞くことで、風土が分かります。若い社員が感じているということは、絶対その上にも広がっています。

倉重:確かに。社内をよく分かっていない人ですら感じているということですからね。

曽山:例えば経営トップや役員、社長に「御社の雰囲気はどのような感じですか」と聞いたことと、社員に聞いた答えが100%一致することはないかもしれません。けれども逆は正しくなることがほとんど。1年目に聞いて、「うちは本当に熱量の高い先輩が多くて、夢が語れて」などと言ってくれたら、ああ、大丈夫だなと感じます。僕はそれが知りたいのです。

倉重:やはり人事として定期的にいろいろな組織の現場を見に行っているということですか。

曽山:現場の雰囲気は1年目に聞くのが一番分かりやすいです。中途で入った1年目に、「前の会社と比べてサイバーエージェントはどのような感じですか」と聞くと、すごく分かりやすいです。

倉重:できる方はかなり現場に行きますよね。

曽山:間違いないです。僕は話を聞かないと怖くてしょうがないです。

倉重:データだけでは分からないですよね。

曽山:分からないです。本当はできる限り多くの人と話せるようにしたいと思っています。

■なぜ学習が必要なのか?

倉重:「自走サイクル」で大事なものは、抜擢、決断、失敗という話がありました。4つ目のポイントである「学習」についても教えてください。

曽山:学習はまさに先ほどの話とつながりがあります。失敗すると「もう二度と失敗したくない」という意欲が出てきて、失敗しない方法を学んでいきます。僕はデイビッド・コルブという教授の経験学習モデルの理論がすごく好きで、自走サイクルのフレームにも反映されています。

学習はどういうふうに行われるかというと、いくつかのステップがあります。一つはその事象自体を認識して、良かったところと悪かったところをまずファクトとして認めるということです。

 例えば僕だと、営業時代にお客さんと「言った」「言わない」で1億円の損失を出しました。この時の良かったことは残念ながらありませんが、悪かったことは「言った、言わないで1億円の損失を出した」という事実です。この事実を認めることで、僕の中で「難しい約束、できない約束をしない」という学びになります。

 経験学習サイクルの「実践する」というステップでは、「次に厳しい交渉が起きたときには、できない約束はしない」というふうに決めておきます。経験学習サイクルはもう少し細かいのですが、ざっくり言うと、そういうサイクルを作っている人といない人でこの世は真っ二つに分かれています。

普段決断をしていない人がまず多くて、決断している人の中でも決断から学習している人かどうかで大きな差が出てきます。スタートアップの会社でも大企業でも、成長する人や活躍している人たちは、決断からの振り返りを繰り返し行っています。

倉重:定期的に内省の機会があるということですね。

曽山:「自分の決断はどうだったかな」「次はどうしようかな」というサイクルを回すことが学習です。この学習サイクルをたくさん回せば回すほど成長します。例えば1日に1個やれば、年間で200営業日あるので学習サイクルが200個増えます。その一方、やっていない人はゼロなので、成長角度が変わるわけです。

 実際に僕が複数のMVP社員にヒアリングをしたところ、びっくりするぐらい彼らは毎日振り返りをしていました。通勤中の電車でやっている人もいれば、家に帰ってお風呂に入るときや、寝る前など、場所は違いますけれども振り返りをしています。「私はしていなかった」と思ってすごくショックを受けたことがあります。

倉重:「寝る前に15分振り返る」という人は結構多いですね。

曽山:それをしている人は素晴らしいと思います。学習をしているかどうかは成長角度を変えるので、非常に大事です。上司が週に1回1on1で「先週の学びは何?」と聞いてくれればいいですが、そんな上司ばかりではないので基本的には自分でやるしかありません。

倉重:最終的には抜擢カルチャーの話になってくると思います。これから本を読んで「抜擢カルチャーをやってみたいな」と思ったら、経営の人をどう説得していったらいいですか?

曽山:カルチャーと企業風土をつくるには、事例を増やすしかありません。とにかく「あの人が抜擢された」「抜擢されたら人生ハッピーになった」「失敗したけど復活した」といった事例がその会社で増えない限りはみんなうそだと思います。風土をつくりたければ事例を増やしてください。事例を増やすのはどうしても時間がかかりますが、これが企業風土づくりの柱になります。

 経営陣に「抜擢カルチャーをつくりましょう」と提言をするのは、正直に言うとすごく難しいです。社員の中に、ポテンシャルが100%発揮できている人がどれぐらいいるかというところがポイントです。例えば、役員が知っている社員の顔写真一覧を持っていって、「この人たちの能力発揮はどれぐらいだと思います?」ということを問い掛けてもいいと思います。「ほとんど5~6割ぐらいの感じです」ということだと、もったいなくないですかと問いかけます。「もったいないよね」という合意がされたら、「では抜擢しましょう」という感じで課題感をすり合わせるのが先だと思います。

 抜擢というのは手段でしかありません。社長や役員も業績の達成は絶対したいはずなので、「業績達成をするに当たって、この人たちを生かせていないと思いますがどうですか」と言うと、業績から逆算してくれます。業績に結びつけて会話するのが一番いいです。

■若い働き手に対するメッセージ

倉重:サイバーエージェントには高年齢者、シニアの方はいますか?

曽山:定年退職間近の方や50代もいます。

倉重:そういう方を抜擢することもありますか?

曽山:僕らの場合だと50代の社員もバリバリ最前線でやってくれているので、普段から大きな仕事を任せているという感じです。

倉重:前にもお伺いしたかもしれませんが、若い読者の方に向けて、これから働くということに関して曽山さんなりのアドバイスを頂ければと思います。

曽山:ありがとうございます。これからの時代は信頼関係が非常に重要になってくると思います。なぜかというと、今は転職しやすいし、フリーランスにもなりやすいですよね。個人で言うと会社に所属していなくても良いというポジティブな環境が生まれています。逆に見ると会社に守られていない環境になるので、信頼関係がない人に仕事を頼むことはありません。それは外部のプロであろうと業務委託だろうと同じです。

 基本的には会社を離れたとしても、元の会社の人たちとの信頼があったほうが助けてもらいやすいです。趣味のグループで他の会社の人とつながっている場合も信頼関係が重要です。僕からのお勧めは、目の前にいる一人ひとりを大切にしていくことです。そうしたほうが人生は良くなります。

倉重:半径5メートル以内の人の信頼をまず勝ち取れという話ですね。

曽山:本当に良くない会社にいるときでも、けんかして信頼関係を崩したりせずに、揉めるのは最小限にしてさっと辞めたほうがいいです。

倉重:さっさと逃げて、また次がんばるということですね。

曽山:2つ目に伝えたいのは無理をし過ぎないことです。自然体というのは大事なポイントだと思います。

倉重:「入社したら3年は我慢しなければいけない」ということもないですしね。

曽山:僕は1998年から99年にかけて1年で会社を辞めました。それでも伊勢丹の先輩の皆さんは良い方々が多いので、今でも会うたびに応援してくださいます。

倉重:どこかでまたご縁がありますからね。私からは最後になりますけれども、夢をお伺いしたいと思います。

曽山:僕自身は世界最高の人材育成企業をつくりたいと思っています。「あの会社に行くと人が育つ、だから僕も行きたい」と言われる会社を世界レベルでつくりたいと思っています。そのためにはサイバーエージェントが世界に行くことをまず事業としてやらなければいけません。世界に行った暁にはサイバーエージェントのフレームワークやモデルをきちんと形にして世に出していきたいと思います。

倉重:さすがです。前回と全くぶれていないですね。夢のまい進、頑張ってください。

■リスナーからの質問コーナー

倉重:あとは現地から質問コーナーに行きたいと思いますけれども、皆さん、いかがですか。

A:きょうはお話をありがとうございました。「100%今いる人の才能を生かす」というお話があったと思いますけれども、特に若い人は才能を生かしたいけれども、自分の才能や適性が分からない人が多いと思います。そういう人にどうやってヒントを与えたり、才能を引き出したりしているのかを伺いたいと思います。

曽山:ありがとうございます。若手は自分の強みや適性が分からない人がほとんどです。それが普通で僕自身も分からなかったです。僕が対話の中でどうしているのかというと、「9ブロック」というフレームワークを使っています。紙だったら正方形で9つのブロックを書いてください。オンラインだったらDocsでもエクセルでも何でも構いません。9つのブロックにあなたが大事にしている価値観を書いてもらいます。

 例えば、愛、笑顔、情熱など、いろいろなキーワードがその人なりに出てきます。そうしたら、僕の場合は一つひとつエピソードを聞いていきます。例えば「先輩に取りあえずスピードが大事だと言われて、そこを意識したら結構スピードで人生が変わりました」という話が出てきたりします。「どのようなことが変わったの?」と深堀していくと、9つのエピソードが聞けるわけです。

 これだけでもかなりその人なりの個性やルーツが見えるので、「俺が見た感じだと、ヤマダ君はこれが強みなのではないか」ということが言えます。9つのうちの1つを言ってもいいですし、9つから見えた共通項でも構いません。そういうことを伝えてあげるといいです。基本的に強みは見つけられないと僕は思っています。強みは見つけるものではなく、決めるものです。

A:自分の才能や夢をどこか探しに遠くに行くわけではなくて、決めるのですね。

曽山:決めたほうがいいです。そちらのほうが楽です。最終的には見つかる人もいますけれども、そんなに多くはないと思っています。「スピードって、他の人よりも速いの?」と言われたら、だいたい自信がないので折れてしまいます。だとしたら「スピードでいきます」と決めて、そこで成功体験を積み重ねて自信をつけていったほうがいいのです。人生は限られているので、さっさと決めて強みにしたほうがいいのではないでしょうか。

倉重:YouTubeでもその話がありましたね。

曽山:ありがとうございます。全部見てくれていますね。

倉重:だいぶ予習しました。ではBさん。

B:いろいろ質問があるのですが、一番気になるのが毎日MVP社員は振り返りをしていたというところです。毎日する場合は「きょうはこれがうまくいった」「うまくいかなかった」ということを振り返りながら反省しているのですか。

曽山:実際に何を考えているのかを聞いていると、「きょう何があったっけ」からまず入ります。その中から1個ピックアップして、「もっとよくできたかな」「あの一言はよかった」という感覚で、1つのイベントに対して良い悪いという判断をしていきます。そこから、「次はどうしよう」という形に自然となっていきます。これが一学習で15秒から30秒ぐらいで終わります。

B:なるほど、分かりました。ありがとうございます。

倉重:続いてCさん

C:ありがとうございます。キャリアを全く考えていない人というのはそもそも御社には入社しないのでしょうか。もしそういう人を採用した場合、会社としては貢献してほしいので、どうやって気持ちを引き上げていけばいいでしょうか。

曽山:キャリアアップをあまり望まない人はいます。特にサポートしたいのは、キャリアアップしたい気はするけれども自信がないというタイプです。

自信がないタイプは、抜擢してあげるからと言っても自信がないから引いてしまいます。先に自信をつけなければいけません。自信をつけるためにはどうすればいいかというと、「今までやってきたことや普段の仕事で楽しかったこと、やりがいを感じたことを教えてください」とお願いします。

 これは、よほど今の会社が嫌いでなければ何か出てきます。例えば「お客さんからありがとうと言われて、うれしかったです」という人もいるし、「1億円の受注目標を達成できてすごく楽しかったです」という人もいます。

楽しいことや、やりがいというのは結構個性が出ます。「これを突き抜けてサイズを大きくするのはどう?」と僕はいつも聞くのですが、「それはうれしいです」という答えが返ってきます。

 例えば「ありがとう」の声をもっと増やすために、今1社しか担当していないけれども、5社担当してもらうとか。1億円達成した人には5億円のメイクマネーに挑戦してもらうということですね。楽しいことを聞いて広げてあげると、キャリアアップという概念がくっ付いていなくても、組織貢献のサイズが上がっていきます。ですので、「楽しい」を聞いて拡大するというのは僕がよくやっている手法になります。オバラさん、イメージはつきますでしょうか。

C:はい、ありがとうございます。

B:追加で質問してもいいですか。会社の1~2年目の子ですが、「言われたことをやっているだけなので、仕事の楽しさがまだ分からない」と言われてしまうのですけれども、その場合はどういうふうに自信をつけるといいですか。

曽山:僕も若手の時に仕事が楽しくない時期があったので、すごく難しい問題で共感できる話です。僕がいつも意識しているのは、「何でこの会社に入ったのか」というルーツを聞くことです。多分「こういうことがやりたかった」ということと今の業務の結びついていないだけなのです。まずルーツを聞いて、「そういうことがやりたいんだったら、この仕事とつながるよ」という意味付けをしてあげて、ピンと来るか来ないかです。意味付けできない可能性もあるので、そういうときは会社を変えたほうがいいかもしれません。ミスマッチはあり得ます。

B:承知しました。ありがとうございます。

倉重:Cさん、他にも何かありますか。

C:改めて自己紹介をさせていただくと、ファッション系の店舗運営をしています。普段は店長がいるのですが、店長やスタッフと会話をする中で、「あなたのことを信頼していません」と言われたことがすごくショックでした。信頼を取り戻すのは無理なのか、それとも取り戻せるのか、どういう行動をすればよかったのか悩んでいます。そういう経験はありますか。

曽山:僕も結構あります。特に人事になった時に、「まさかそういうふうに動くとは思いませんでした」と言われることはありました。全く自分が気付いていなかったけれども、「そういうふうに受け取るんだ」と驚いた経験もあります。

 信頼をつくるのはおっしゃるとおりすごく難しいことです。僕の中ではいくつかのポイントがありますけれども、業務上どうしても向き合わないといけない場合は、なるべくその人に興味を持つようにしています。人は興味を持つ人に興味を返してくれるので、意図的に興味を持つようにしました。

 例えば週末はどういうことをしていて、家族はどういう構成で、普段の生活のどこに興味を持っているかを聞きました。嫌われている場合は自分が直接聞いても教えてくれないので周りから聞くしかないですよね。周りから聞いて材料を集めて、自然な会話の場があったときにそれをふっと出して、あなたのことを知っていますよと示したときに、「そこまで私のことを見てくれているのね」という感想が出る可能性はありますよね。

倉重:どうしても相性が悪い人はいますから。どちらが悪いということではないですよね。

曽山:相手と向き合わなければいけないときには、結果にはこだわるけれども自分が直接やらないというのも一つの意思決定として大事だと思います。

C:なるほど、ありがとうございます。

倉重:では、あとお1人からお伺いしたいと思いますが、いかがですか。

D:ありがとうございます。本当に勉強になるお話ばかりで、メモの手が止まりませんでした。一番聞きたいのは、曽山さんですらコーチングの研修に参加されたというお話を伺ったのですけれども、曽山さん以外の社員の方にもマネジメントや採用、教育の方針を理解してもらうために、発信していく必要があったのではないかと思います。それはどのように根付かせたのでしょうか。

曽山:いくつかあります。まず一つは社内の事例を増やしていくということです。抜擢されることはうれしいじゃないですか。セカンドチャンスで失敗することはショックだけれども、それをフォローしてもらったという事例が増えれば増えるほど、みんな後輩に同じことをしてくれます。うれしいことであればみんなが自然にやってくれるので事例を増やしていきます。そのような状態になるまでは意図的に、ある程度経営チームや人事で決めて実行することも必要かもしれません。

 もう一つは私の工夫ですけれども、ブログやTwitterでどんどんノウハウを発信していきます。この『若手育成の教科書』も、どちらかというとサイバーエージェントで今当たり前にしていることや、社長の藤田や経営陣から学んだことを社員に伝えたいと思って書きました。ブログでも書いていますが、本を出版して反響が大きければ、社員も読もうかなという気になります。YouTubeも全く同じ効果で、どうせノウハウを出すのなら外に出そうと思ったのです。SNSシェアで目にした社員が見てくれるかもしれないと思って、意識的にやっています。

Dワ:なるほど。今実際に曽山さんが一緒にお仕事をされている採用関連の方も、意識的にアウトプットをされているのですか?

曽山:採用に関わる社員は積極的に発信してくれています。例えば同じ人事担当をしている専務執行役員の石田裕子もSNS発信をしています。また、サイバーエージェントの新卒採用チームではYouTubeの公式アカウントを運用する挑戦もしてくれています。

D:なるほど、ありがとうございます。

曽山:それこそSlackでもいいですし、どういう形でもまずは社内から発信するといいと思います。

D:ありがとうございます。勉強になります。

倉重:大変参考になりました。名残惜しいですがお時間になりましたので、ここまでにしたいと思います。お忙しいところありがとうございました。

(おわり)

対談協力:曽山哲人(そやまてつひと)

株式会社サイバーエージェント 常務執行役員CHO

上智大学文学部英文学科卒。高校時代はダンス甲子園で全国3位。

1998年に株式会社伊勢丹に入社し、紳士服の販売とECサイト立ち上げに従事。

1999年に当時社員数20名程度だった株式会社サイバーエージェントに入社。

インターネット広告事業部門の営業統括を経て、2005年人事本部長に就任。

現在は常務執行役員CHOとして人事全般を統括。

「クリエイティブ人事」「強みを活かす」「若手育成の教科書」などの著作のほか、ビジネス系YouTuber「ソヤマン」などSNSでも情報発信中。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒業後司法試験合格、オリック東京法律事務所、安西法律事務所を経てKKM法律事務所 第一東京弁護士会労働法制委員会外国法部会副部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)理事 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 労働審判等労働紛争案件対応、団体交渉、労災対応を得意分野とし、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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