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「最強チーム」の作り方(4/4)

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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リモートワークが進んだことにより、今まで以上にコミュニケーションが難しくなっています。上司やチームメンバーに対して「伝わらない」「分かり合えない」と不満を感じている人は少なくないようです。しかし、そこで諦めるのではなく、積極的に他者に働きかけ、チームを動かしていくチームワーキングの技術を身につけることができれば、改善の道筋が見えてきます。

<ポイント>

・スモールステップより小さなベビーステップを積み重ねる

・チームビルディングで大切なこと

・プロジェクトのキックオフを急いではいけない

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■達成したい目標がない社員への対策

倉重:あとはリスナーからの質問にいくつかお答えいただければと思います。まずAさんお願いします。

A:今日はありがとうございます。達成したい目標がない社員がいるのですが、対策としてどんなことがあり得るでしょうか?

中原:まず少し病的な状況ですよね。達成したい目標が返ってきても無言になるというのは。一つ伺いたいのは、この社員の方が入社した時のことです。「達成したい目標が全くない」という人を採ったのでしょうか? 何が言いたいかというと、これは学習された結果ということです。会社に入っていろいろな経験をして、手を抜くことも覚え、学習された結果が今の状況なのです。根本的な解決としては、そういう社員をつくらないことだと私は思います。

A:入社時の達成したい目標は、まともに受け取っていいかどうかというのも分からない部分があるのではないですか。

中原:夢を見ているということですね。

A:夢を見ているというのもそうですし、企業に入っていくための方便みたいな部分もやはりあると思っています。

 一方で大きいのは、中原先生がおっしゃったように、現実を見て「最初に思っていたイメージと違うな」と思っている状態です。

中原:現実を見てリアリティーショックはあると思いますが、やはり達成したい目標が全くないという状況でそのまま会社にいてもらうことは難しいと思います。「辞めてくれ」と言っているわけではないですが、「その状況では厳しい」ということをはっきりフィードバックしたほうがいいのではないでしょうか。それも難しいですか?

タカハシ:いや、そのために何かステップがないかを考えていました。達成したい目標のオルタナティブというのか、一段下がった何かがないかなというところです。

中原:これも思うのですが、達成したい目標といったら、すごく高くなければ駄目だと思い込んでいる人も結構いるのです。そういう意味で言うと、なるべくハードルを下げて「とりあえずこれをやってみて」ということを伝えます。できると少し達成感が出ますよね。それを繰り返すことで、だんだん達成したい目標に近づいていくのではないでしょうか。

 僕は学生にいつも「スモールステップは要らない。君に必要なのはベビーステップだ」と言っています。例えば「ゼミで発表するときに下を向かない」でもいいのです。このベビーステップができたら、次は必ず自分から前を向くようになりますよ。学生は結構真面目なので、目標はすごいことを言わなければと思います。でもそういうことではありません。本当にプチ背伸びでいいのです。

倉重:少し頑張ればできることですね。

中原:そうです。1.1を何乗かしたら、かなりの大きさになるでしょう。

倉重:毎日続けたらすごいことになります。タカハシさん、それで大丈夫でしょうか?

タカハシ:ありがとうございました。

倉重:では、続いてBさん。

B:先生の本はもうほとんど読ませていただいて、実際に現場でも試行錯誤しながら使わせていただいています。書籍に書いてあることを認識して、みんなで考えるきっかけにするのは非常にいいなと思いました。さらに今回伺った、目標を振り返る仕組みを人事部門としてある程度意図的に仕込んでいくことはできるとは思います。企業の人事部門として、チームビルディングを社員にしてもらうために、今言った2つ以外にどういうものを用意できると思っていらっしゃいますか。

中原:職場の状況を折に触れて見える化する職場調査ツールがあればより対話につながりやすいと思います。

 3カ月に1回でも、4カ月に1回でもいいし、10問でも20問でもいいと思います。そういったものを見ていくと、ズレが出ますよね。

コミュニケーションはズレから生まれるのです。そのズレがないことには、人はなかなかコミュニケーションを開始することができません。

 例えば前の月、前の回はこうだったけれども、「今回は少し下がっているね」「上がっているね」「なぜだろう」「どう思う?」と言えば、すぐチームに関する対話になりますよね。そういったものがあるといいなと思います。

B:ズレや違い、変化ですか。

中原:変化を実感できないといけません。それほど頻度は多くなくてもいいですし、問数も絶対に抑えたほうがいいと思います。時にヘルスチェックではないけれども、組織も中が腐っていないか、MRIのように見える化したほうがいいのではないでしょうか。

倉重:定期的なサーベイをずっとしていくという感じですか。

中原:結構ズレることはありますよね。うちの研究室でも日本全国からエンゲージメントサーベイの結果を頂いて分析もしています。コロナ禍というのはすごく揺れが激しいです。これでお答えになっていますか?

B:ありがとうございます。

倉重:では最後になるかと思いますが、Cさん。

C:貴重なお話をありがとうございました。私は立教の卒業生で、本当は先生の授業を受けたかったと思いながら伺っておりました。

中原:経営学部ですか。

C:異文化コミュニケーションでした。

中原:では同じ建物ですね。今は大学院があって、たくさん人事の人がきています。大学院はフルオンラインで、授業は金曜、土曜日だけで修士経営学が取れます。

倉重:社会人大学院ですか。

中原:全員社会人で、大企業の方やコンサルタントの方などが来ています。金・土しか授業がないので、いいと思います。

C:ありがとうございます。本当にリーダーシップについて悩んでいるので検討したいのですが、現在社内に本業にプラスアルファで参加できるプロジェクトが存在しています。そちらのリーダーをしているのですが、メンバーが年上だったこともあって、一緒にやる空気をつくるのが非常に難しかったのです。

 まずはメンバーのことを知ろうと思い、1on1などいろいろ試したのですが、福岡と秋田と東京にメンバーが分かれており、所属部署も異なります。お互いのことを理解したり、円滑なコミュニケーションが取ったりしづらい状況にありますが、この場合の解決策はどのようなものでしょうか。

中原:まず確認ですが、みんながやりたくてやっている仕事ですか。

C:やりたくてやっているはずなのですが、それぞれのモチベーションが異なるのです。

中原:コロナ禍は特にそう思うのですが、プロジェクトのキックオフを急いでは駄目だと思っています。

 なぜかというと、「このプロジェクトになぜ自分がいて、何を成し遂げたいのか」という前提がズレていることがすごく多いからです。なぜ僕がそう思うかというと、コロナ禍に入ってから一切会うことがなく、飲み会もなく始めるプロジェクト10本ぐらいありました。その時にはなぜここにいるのかという前提や、ここに至った経緯をしっかり話し合うのです。そうすると意外にズレていることがあります。

 やる気がない人は僕の周りにはあまりいませんが、「なぜこういうところで突っかかってくるのかな」と思うことがあります。その原因として前提がズレているということは意外にあります。そういう可能性はありませんか?

C:ズレています。最近1on1をしたのですが、深堀りしてもここにいる理由がよく分からない人が2名いました。1名は「任意のプロジェクトだけど、仕事だからやって」と言われたそうです。もう1名が「4年ぐらいやっているチームで、1回乗りかかった船だからこのまま残る」とおっしゃっている方です。でも手を動かす気はなくアドバイザーでいようとしているのです。「なぜ残るのですか」と伺ったら、「みんなでやりたいから」と言われたので、どうやって動かせばいいのかなと思っています。

中原:今やっているプロジェクトチームは、1回リセットボタンを押してもいいのですか。リセットボタンは解散という意味ではなくて、「これをどうしていくかみんなで考える」ということです。

C:それはできます。

中原:例えば1on1をしてヒアリングした結果を匿名の状態にして、「こういう意見が出ています」「どうしますか。stayするのか、それともexitするのですか」「このプロジェクト自体をどうしていきますか」というコミュニケーションをきちんとしたほうがいいのではないかと思います。僕だったら多分そうします。プロジェクトそのものと、そこに自分がどう貢献していくのかに関するコミュニケーションを、腹をくくってやるしかありません。

倉重:オンラインだとそこは本当に大事になりますね。

中原:非常に大事です。例えばA社とB社と僕が、異業種コラボで仕事をしたとします。全く会ったことがない人たちと仕事をするわけです。A社がこのプロジェクトに懸けている想いと、B社の想いは意外に違います。もちろん僕がここに懸けた思いも違います。「何かぎくしゃくするな」「何かうまくいかないな」というときは、大概ズレが起こっているのです。だから簡単にキックオフしては駄目なのです。もっとキックオフに時間をかけたほうがいいですね。

倉重:第0回から始めないといけないですね。

中原:0.1、0.2、0.3回ぐらいから始めてもいいかもしれません。少し助けにはなりましたか。

C:ありがとうございます。

倉重:最後にDさん。

D:本日はお忙しい時間、貴重なお話をありがとうございました。私は立教の社会学部社会学科卒業をしておりまして。そのつながりで今日は参加させていただきました。ありがとうございます。

中原:先輩ですね。

D:いえいえ、恐れ多いです。組織内でのフィードバックがすごく大事だというお話をされていらっしゃいました。やはりマネジメント層の考え方が古いと、一方的にトップダウンで意見を下ろすだけでフィードバックの場を設けないという形になってしまいます。結局人材も育たないという状況になり、組織が崩壊するのを目の当たりにしてきました。

 やはり下から上に「その仕組みはいけてないよね」と言うと、亀裂が生じてパワハラを受けて休職するという状態に陥ります。それは健全ではないと思ったのです。おっしゃるとおり、人材開発においても、事業推進においてもフィードバックをし続けていく仕組みが大事です。ただ、団塊世代ではないですが少し古い世代の人たちと関わって意識を変えていくには、どうしたらいいのかというのが私の中でも直近の悩みでした。

中原:ありがとうございます。団塊の岩盤層には、やはり下から言っていくのは結構厳しいので、上から言うようにするしかないのだと思います。経営などの観点からフィードバックが大事なのだと言ってくれれば、外部支援者を入れて変えていくことはできるとは思います。

 組織を変えるのだから、結局のところ上から変えていかなければならないのです。社長や経営層の方が話を聞いてくださって、それがパワハラを受けることにつながらないのであれば、社長を動かすというのも一つの手かもしれません。

 今は忙しいのでしていませんが、そういうフィードバック文化を根付かせるというプロジェクトもかつてはありました。そのとき絶対条件が1個だけあります。それは社長がフィードバックの大事さを自分の言葉で社内に語ることです。

 別にたどたどしくても構いません。「俺はこれをきちんと認めている」「私はこれを認めている」「これが有用だと思う」「なぜこれをうちの会社でやらなければいけないのか」ということを自分の言葉でしっかり語ってくれたら、外部支援者はどれほど楽でしょうか。私はそこが重要だと思います。

中原:カスケード型ですね。上から変えていく。

D:それをお伝えしても、結局自分の事として捉えられなかったり、自分はできているつもりになったりしているマネジメントラインもいます。現場に下ろして実運用で回していくのは結構難しいという課題を感じます。

中原:なかなか大変な会社にいるのですね。頑張ってね。

D:ありがとうございます。

倉重:ではお時間になりましたのでこの辺で。長時間ありがとうございました。

中原:ありがとうございます。

(おわり)

対談協力:中原 淳(なかはら じゅん)

立教大学 経営学部 教授。立教大学大学院 経営学研究科 リーダーシップ開発コース主査、立教大学経営学部リーダーシップ研究所 副所長などを兼任。博士(人間科学)。専門は人材開発論・組織開発論。北海道旭川市生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院 人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学講師・准教授等をへて、2017年-2019年まで立教大学経営学部ビジネスリーダーシッププログラム主査、2018年より立教大学教授(現職就任)。

「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発・組織開発について研究している。

単著(専門書)に「職場学習論」(東京大学出版会)、「経営学習論」(東京大学出版会)。一般書に「研修開発入門」「駆け出しマネジャーの成長戦略」「アルバイトパート採用育成入門」など、他共編著多数。著作のいくつかが、中国語・韓国語に翻訳・出版。研究の詳細は、Blog:NAKAHARA-LAB.NET(http://www.nakahara-lab.net/)。Twitter ID : nakaharajun

民間企業の人材育成を研究活動の中心におきつつも、近年は、横浜市教育委員会との共同研究など、公共領域の人材育成についても、活動を広げている。2021年より、文部科学省・中央教育審議会・臨時委員。一般社団法人 経営学習研究所 代表理事、特定非営利活動法人 Educe Technologies 副代表理事、認定特定非営利活動法人カタリバ理事、一般社団法人ピアトラスト 理事。専門性:人材開発・組織開発、趣味:人材開発・組織開発、特技:人材開発・組織開発、大好物:人材開発・組織開発。「画狂老人」と号した葛飾北斎をリスペクトし、自らは「学狂老人」として一生涯、「学び」にまつわる研究を行おうとしている。現在は「学狂中年」。

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒業後司法試験合格、オリック東京法律事務所、安西法律事務所を経てKKM法律事務所 第一東京弁護士会労働法制委員会外国法部会副部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)理事 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 労働審判等労働紛争案件対応、団体交渉、労災対応を得意分野とし、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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