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育休でキャリアにもう迷わない!「育休マネジメント」 第1回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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今回のゲストは、株式会社NOKIOOの取締役、小田木朝子さんです。彼女は、育児休業を取得中のビジネスパーソン向けオンラインスクール「育休スクラ」を運営しています。

育休を取得するタイミングは、自分の価値観やライフスタイル、そして働き方が大きく変化する転換点です。復職後に以前と同じ働き方ができずにモチベーションが下がったり、キャリアが迷子になってしまったりする方も少なくありません。

子育てと仕事の両立期に、働き方や仕事の仕方をバージョンアップするにはどうしたらいいのでしょうか。当事者視点と、組織側の視点の双方から小田木さんにインタビューしました。

<ポイント>

・小田木さんが育休復帰後に躓いた理由

・育休でキャリア迷子になる人が増えている

・育休人材を戦略的にマネンジメントするには?

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■育休スクラとは?

倉重:今日は、育休スクラという、育休取得者のためのオンラインスクールを運営されています小田木さんにお越しいただいています。よろしくお願いします。簡単に自己紹介をお願いします。

小田木:株式会社NOKIOOという会社で役員をしている小田木朝子です。よろしくお願いします。企業さまの女性活躍推進や、女性人材育成のお手伝いが主なテーマになっています。先ほど倉重さんにご紹介いただきました通り、「育休スクラ」という育休中の方向けのオンラインスクールの運営をしています。企業で働く方が派遣されてきて一緒に学ぶという育成プログラムを作っています。キーワードは「組織の中でパフォーマンスを上げられる女性人材を増やす」ということです。「これを知っていたら、私はもっと楽しく会社の中で仕事ができたのに」というスキルやテーマは必ずあると思うので、それを欲しい人たちに適切に届けていくことを仕事にしています。

倉重:ありがとうございます。育児介護休業法の改正が2022年にあるので、企業対応もそうですし、「育休期間をどう過ごしたらいいのか」というお話もできればと思っています。よろしくお願いします。

 まず、育休の人に対して、オンラインスクールなどを活用してプログラムを提供することが必要だと思われたのは、ご自身の体験などがきっかけになったのですよね? どうしてここに至ったのか、お話いただけますか。

小田木:そうなのです。今私は「育休マネジメント」というキーワードを作って発信をさせてもらっています。出産というライフイベントを迎えて、企業の中でますます楽しくパフォーマンスを発揮して「働いていて良かった」と言いながら仕事を続ける人材を増やすという観点が一つ。もう一つは、企業が「ライフイベントを迎えた人材から最高のパフォーマンスを引き出せる組織になる」という観点から発信をしています。

小田木:私自身がその移行をうまくできたかというと派手にずっこけました。私はもともと仕事がとても好きだったのです。

倉重:ばりばり働くタイプだったのですね。

小田木:法人営業だったので「がつがつ営業するのが楽しい」と思いながら、ずっと仕事をしてきました。結婚して出産した後も当然のように復職。「前より仕事ができなくなった」と思われたくないので、ものすごく頑張っていました。

倉重:気合いと根性でパワーアップという感じですね。

小田木:「育児休業を取って手ぶらでは帰れない」と思って、資格も取りました。

倉重:何の資格でしたか。

小田木:中小企業診断士という資格です。法人営業だったので、これを持っていれば武器になるかなと思いました。資格も携えて、やる気満々で「土産も武器もある」というような状況です。でも、人生で初めて「こんなに仕事が楽しくなくなるなんて……」という感じになりました。

倉重:どこがきつかったのですか?

小田木:物理的に働く時間が減るというのを相当なめていました。以前はフルタイムで働いた上で、残業をして仕事をやり切るというスタイルだったのです。

倉重:昭和的なストロングスタイルだったわけですね。

小田木:気合い、根性、長時間労働というようなストロングスタイルでした。ところが復職後は、子どもを保育園に迎えに行かないといけない時間が必ず来ます。そこで仕事を切り上げて帰るのです。今までと同じような成果を挙げようと思うと、時間が絶対的に足りません。今ある時間で何とかしようと思うと、今度は成果が足りないという状態に陥りました。

倉重:なるほど。

小田木:冷静に考えたら成果の出し方がまずかったのです。当時はそういう発想がなかったので「私だけが強烈なハンディキャップを背負ってしまった」と思いました。

倉重:ああ、時間を自由に使える「皆はずるい」と感じてしまったのですね。

小田木:真面目にそう思っていました。「なぜ私だけ、こんなに頑張っているのに、時間が十分に与えられず、成果も挙げられないんだろう」と感じていたのです。

倉重:子どもがいる男性は育休を取らないのに。

小田木:「周りは皆これまでと同じように残業しながら仕事ができる。ずるい」ということで周りに嫉妬するようになりました。危ないパターンですよね。それまで「短期的な成果を挙げる」というのがやりがいの源泉だったので、キャリアについて考えたことがなかったのです。

倉重:育休を取ったとき、ご自身は管理職でしたか?

小田木:プレイヤーとして、短期的な成果を追っていました。今振り返ると、バットを振ってボールを打ちまくるのが私のやりがいだったのです。仕事が終われば、それなりに達成感もあるし、頑張っていれば成長も一応感じますよね。その勝ちパターンが通用しなくなったときに、やりがいも見えなくなってしまいました。

倉重:何のために働いているのか分からなくなってしまったのですね。

小田木:それまでは、売上げが上がって、他人より評価されることがやりがいだと感じていたのです。今振り返ると自分の物差しでもなかったのですよね。

倉重:難しいのが、育休を取って時短でもばりばり働く人もいますよね。成果を出し続ける人です。これは本当に一部のスーパーな人だと思うのですが、そういう人を見て「自分は駄目だ」と思ってしまったり、「努力が足りないのではないか」と思ったりして空回りすることもありますよね。

小田木:まさに空回りしていました。自信をなくし、傷つきたくないので「そんなに仕事は好きではなかった」というようになりました。

倉重:仕事への態度も変わっていってしまうのですね。

小田木:好きだと思っていたものに、嫌われるのはつらいですよね。だから私から嫌いになったということです。振られるぐらいなら、こちらから振るという感じです。

倉重:ありがちなメンタルの持っていき方というか、そうせざるを得ない状況だったということですよね。今から振り返ってみると、そのやり方は何がおかしかったと思いますか?

小田木:まず成果の出し方がよくなかったのは、確実に言えることですよね。長時間労働を前提に、1人で抱え込んで成果を上げようとしていたのです。チームと連携して成果を出すという視点がなかったので。話していて、今もつらくなってきました。

倉重:ラーメン屋の大将スタイルですよね。「自分の労働時間×成果」というような。

小田木:時間当たりのパフォーマンスを上げるための工夫という発想もありませんでした。今でこそ「チームの成果に対してコミットするという仕事のやり方がの仕方もあるのではないか」と考えられますが、当時の私は、「自分の仕事か、それ以外の仕事か」という感じだったのです。

倉重:自分の仕事以外は関係ないという感じだったのですね。

小田木:そうです。いかに自分の仕事を抱え込んで、かつ、終わらせるかというような発想しかありませんでした。

倉重:それは確かに、時間が減るとつらいですよね。

小田木:成果の出し方が良くなかったのが1つです。2つ目は先ほど言ったように、キャリアについて考えたことがなかったので、短期的な成果が挙がることをやりがいにしていました。要は、つまずいたときに何のために働くのか、仕事をすることによってどんな自分でいたいのかという答えがなかったのです。働ける時間が短くなったときに、やりがいも一気に霧になって消えました。

倉重:自分を守るために「言うほど好きでもないし」というマインドになったわけですね。今育休を取ったとしたら、どういうマインドで働きますか?

小田木:今育休を取るとしたら、チームと関わりながら「どうすれば働く時間が短くても、きちんとパフォーマンスを上げることができるのか」という問いを掲げます。それに必要なビジネススキルを磨いたり、もしくは、今しかできないアップデートをしたりするだろうと思います。

倉重:そこにたどり着くまでには、いろいろあったと思います。今小田木さんご自身のご経験を話していただきましたが、育休のタイミングでキャリアが迷子になってしまう方が多いと思います。そういった現状はいかがですか?

小田木:出産を機に働く時間が短くなり、仕事以外にも大事にしたいものが増えます。環境が劇的に変わったけれども、切れるカードが少なくて立ち尽くすという方が多いなと思っています。

 これからも仕事を楽しみながら、やりがいを持って働きたいのか。それともアップデートはやめて、今できる範囲の仕事をするのかという分かれ道があるわけです。本当はフラットなY字の分かれ道のはずなのに、アップデートできる道を知らなかったり、そちらにつないでくれる接点がなかったりします。そうすると「やる気満々で仕事を頑張りたい」と思っている人材が仕事を嫌いになってしまうので、冷静に考えるともったいない話ですよね。

倉重:パフォーマンスを出したいのに出せないということですからね。

小田木:キャリア迷子のまま暗いトンネルの中を歩くことになってしまう人がいるのは、非常にもったいないことだと思います。

倉重:キャリアは、言われないと考える機会がそもそもないですよね。

小田木:順風満帆なときは、キャリアを考える必要がないのだなというのは、私も改めて思いました。

倉重:大学で教わるわけでもないですし、会社に入ってからも、自分のキャリアが今後どうなるかという見通しも立ちません。途中でさまざまなライフイベントも迎えます。先ほどのY字の道でも、どちらがいい悪いではなくて、「今はどちらに行きたいのか」という話ですよね。

小田木:「あちらが駄目で、こちらが良い道」ということではなく、自分で決めて選べることがとても大事だと思います。

倉重:現状ではその選択肢が見えないということなのでしょうか。

小田木:そのとおりです。あと「適切な頑張り方」を誰も教えてくれません。

倉重:ロールモデルやいい事例がたくさんある企業ならいいけれども、そうではない企業のほうが多いのではないかと思います。どうしたらいいのかを誰も教えてくれません。

小田木:「気合い」「根性」「長時間労働」も、続けようと思えば続けられるのです。それを続けられるということが見えてしまうと、今度はしんどい方法で働くしかなくなってきます。

倉重:本当に無理して、子育ても外注すれば残業ができなくはありません。それを自分で選んでいるのならいいのですが、「それしかない」と思ってしまうと危ないということですね。

小田木:そうです。もっと省エネルギーで、もっと楽に成果を挙げられる適切な頑張り方があるということです。

対談協力;小田木 朝子(おだぎ ともこ)

ウェブマーケティングの法人営業などを経て、NOKIOO創業メンバーとして参画。教育研修事業担当役員。育休を活かし、31歳で中小企業診断士の資格取得。2020年、両立期人材がビジネススキルを磨くオンライン・スクール事業『育休スクラ』を立ち上げ、経験学習による人材育成、オンラインを活用したキャリア開発をサービス化。アクティブラーニングを法人・個人向けに提供。グロービス経営大学院修了。

*音声メディアVOICYで番組「今日のワタシに効く両立サプリ」配信中。

*2021年7月 書籍「人生の武器を手に入れよう 働く私たちの育休戦略」出版

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒業後司法試験合格、オリック東京法律事務所、安西法律事務所を経てKKM法律事務所 第一東京弁護士会労働法制委員会外国法部会副部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)理事 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 労働審判等労働紛争案件対応、団体交渉、労災対応を得意分野とし、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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