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作家のダニエル・ピンク氏によると、人は仕事時間の4割以上を「誰かに動いてもらうための活動」に充てているそうです。当然「一生懸命行動しているのに、相手が動いてくれない」という状況だと、ビジネスもスムーズに進みませんし、ストレスがたまります。相手に気持ちよく相手に動いてもらうにはどうしたらいいのでしょうか? 高橋浩一さんが葛藤を乗り越え、工夫と改善を重ねてきた、「人に動いてもらうための秘訣」を聞きました。

<ポイント>

・提案する前に具体的に相手の反論を想定しておく

・相手の発言を引き出し、会議を双方向に進めていく

・ディスカッションは前半・後半に分けてW字型に仕切る

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■「想定する力」

倉重:具体的な話に行きたいのですが、気持ち良く動いてもらうための7つのスキルには、想定する力、段取りする力、理解を深める力、見える化する力、思い込みを外す力、軸を動かす力、巻き込む力があります。では、「想定する力」からご説明をお願いします。

高橋:「想定する力」というのは、相手からどんな疑問や反論が来るかということを想定して準備するということです。誰しも身に覚えがあると思うのですが、完璧に自信があるときは意外と余裕を持って相手のことを聞けると思います。少し余裕がなかったり、準備が足りないなと思ったりしているときほど、急に相手から何か言われると、慌てて抑え込んでしまったりするのではないでしょうか。

倉重:確かに、「うっ」となったりしてしまいます。

高橋:想定する力というのは、例えばお客さまに提案する前に、あらかじめどんな疑問や反論が来そうか予想をしておくということです。それを乗り越えた先に、どういう合意を得られたらいいのかというゴールもデザインします。

T字型の図で表されるのが想定する力です。まずは「場の最後にどういう台詞をもらえたら成功なのか」を考えます。相手からもらいたい台詞を具体的にイメージするわけです。

倉重:この例で言えば、次は決裁権者である部長さんを連れてこさせたら成功だ、ということですね。

高橋:ここのイメージが抽象的だと先に進めません。

倉重:「何となくいいプレゼンをする」ということでは駄目なのですね。

高橋:現場担当者から出てきそうな疑問や反論について、実際に言われそうなセリフや、わきおこってきそうな心情を具体的に考えます。例えば相手から、「まだ御社のことを分かっていないから売りつけられたくない」「本当にそれが当社の解決すべき課題なのかが分からない」「こういう営業はほかにも来たけれども面倒くさい」「本当に費用対効果があるのか」という言葉が出てくるかもしれません。

倉重:4つの壁ですね。

高橋:はい。これを「関係性の壁」と言います。相手との間の関係性がまだ深まっていないから拒絶されるというものです。「情報整理の壁」というのは、相手側で情報がまだクリアになっていないから、動きたくないと思っているというものです。「思い込みの壁」というのは、情報は整理されたけれども、相手の頭の中に固定観念や先入観があるから動いてくれない、というものです。損得勘定は、固定観念や先入観ではなく、冷静に考えて割に合わないと思っているときです。動いてくれないときは、大体この4種類のどれかにあてはまっている可能性があります。

倉重:その「壁」それぞれに対する対応パターンを考えておくということですね。例えば30分の商談があったら、20分自分が説明したら駄目ですね。

高橋:そうですね、相手がどのようなところでつまずいているかが分からないですから。

倉重:「教えてくれ」と言われたら教えればいいし、何かに悩んでいるようなら、何に悩んでいるのかを聞いていく、ということですね。私も今、オフィス移転の選定をしているのですが、取りあえずお金の話から入る人と、「そもそも今回はどういう引っ越しなのか」ということを聞いてくれる人とで、全然違いますよね。

高橋:オフィスの移転というのは、いろいろ考えることがありますよね。そういうものを、きちんと整理してくれたりすると、こちら側としても気持ちが高まりますよね。

倉重:自分でも思っていないような「これが目的だったのか」というようなことが後で出てきたりするので、営業側には提案を通して壁打ちをしてくれるとありがたいです。

高橋:そういうものをすっ飛ばしてしまうと価格勝負になってしまうでしょうね。

倉重:それなら、「もっと安いところがあるからいいよ」で終わってしまいます。

高橋:良い提案をしてくる方というのは、一方的に話してくるわけではなく、ある程度顧客である倉重さんのおっしゃることをきちんと聞いています。おそらく倉重さんがあれこれ要望を言うと、引っ越しを提案する側としても、受けられることと受けられないことが出てきますよね。「そういうことに対してきちんと準備しておきましょう」というのが、段取りする力なのです。

■「段取りする力」

高橋:段取りする力というのは、突っ込みを歓迎して双方向のやり取りをするための事前準備のことです。具体的には資料や時間配分の準備の仕方になります。

倉重:資料は2段階で用意せよ、と書いてありましたね。

高橋:この2段階というのが、大きく言うと「場を前半と後半に分けましょう」ということを推奨しています。例えば、倉重さんがお客さまで、引っ越し業者さんが提案される側だとすると、まず倉重さんが考えられていることをいろいろ聞きます。でも、一方的に聞くだけだと、実現が難しい場合や価格が跳ね上がる場合がありますよね。

倉重:そうですね。

高橋:後半できちんと合意ポイントを探っていくのですが、多くの方は全部最後にまとめようとされるのです。私が推奨するアプローチのポイントは、真ん中のタイミングで話をまとめることです。

倉重:一旦、中間確認をするということですね。

高橋:そうです。真ん中でまとめると決めているので、最初は余裕を持って取りあえず倉重さんの話を聞きます。その中で実現できるものと、難しいものが出てきます。ただ、倉重さんも、「こちらが言っていることを全部実現してくれる」とは思っていませんよね。

倉重:そうですね。これは無理だろうということもあります。

高橋:そこを一旦見えるようにして、議論ができる状態にしてから、後半でポイントを絞って議論していきます。

倉重:ここだけは実現していきましょう、ということですね。

高橋:おそらくそこで、倉重さんに対して優先順位の確認などをされると思います。優先順位の確認をしてくれるのなら、100%全部満たしてくれなくても、頼りになるところに頼もうか、というふうになると思います。

倉重:納得感がありますよね。

高橋:そのためには準備がポイントです。資料も最初に全部見せてしまうのではなくて、最初に見せる資料と、後のほうで見せる資料というのを、想定の中で分けておきます。仮にこのミーティングで20ページの資料を使おうとしても、20ページ全部を説明してから「ご質問はありませんか」ではないのです。取りあえず20ページのうち数枚は最初に見せて、残りの10数ページは状況に応じて見せていきます。

倉重:見なかったら見なくてもいいし、必要なら見るということですね。

高橋:1ページ目から順番にプレゼンしていくよりも、使わない資料もあるけれども、特定のページについては、ものすごく理解が深まるというときが、「良いプレゼンだな」と感じます。時間配分も、なるべく真ん中に時間を割きましょう。

倉重:本当に具体的ですね。

高橋:オンラインの時代なので、15分も一応用意したのですが。15分、30分、60分、90分という時間があったら、大まかに言うと、3分の2以上は、なるべく真ん中のところに時間を使います。

ただ、一応これは4つに分けています。大まかに言うと、導入部分がイントロダクションで、相手の考えていることをしっかり聞くのが、この深掘りの時間です。異論、反論のようなものが出てきたら、「中間まとめプラス個別議論」のところで、しっかり議論します。そして最後にネクストステップのところも確認する、という感じです。

倉重:裁判でも1回、当事者同士、原告と被告が言いたいことを言い合います。その後、裁判所が一旦話を整理して、お互いに足りない点をもっと主張させて、最後に判決に向かっていくという流れです。今の高橋さんのお話は裁判の進め方と似ていて、それは物事の合理的な終わらせ方、まとめ方なのだろうなと思いました。

高橋:なるほど。私も今聞いていて、新しい発見でした。

倉重:早めに双方向に行っているというところですね。

高橋:そうです。自分の主張を長々とすると、相手は「説得しにきたな」というオーラを感じると思うのです。

倉重:もう、その時点で聞かなくなりますよね。

高橋:かといって、こちらの意見を持たないで行くと、ただの御用聞きになってしまうので、後半はきちんと自分がリードするわけです。

倉重:確かに。いきなり「お困り事はありませんか」から始まるのも駄目なわけですね。

高橋:やはり具体的なポイントの提示はあったほうがいいと思います。

ここまで考えると、あとはどんな疑問や反論、すなわち壁があるかということです。Wの字の形に議論を仕切っていこうとすると、相手の話を受け入れる必要があります。そこにいろいろな疑問や反論のかたちがあります。どう乗り越えていくかは、壁の種類に応じて4パターンに分けています。

高橋:最初の「関係性の壁」というのは、よく分からないから聞きたくない、動きたくない、というものです。

倉重:「なんだ、こいつは」ということですね。

高橋:「なんだ、こいつ」と思われないように理解を深めていきます。違う会社の方の場合は特に重要です。一方でその関係ができたとしても、情報がこんがらがっている場合は、見える化していきます。情報が整理されていたとしても、固定観念や思い込みを外す力と、冷静な損得勘定を意識して、軸を動かす力が必要です。

■理解を深める力

高橋:まず「お互いに理解を深める」ということから説明します。ヒアリングや質問は、普通、聞く側が発見する感じですよね。私がお勧めする「理解の深めかた」は、聞かれた側にも発見が起きます。

倉重:どういう感じでするのでしょうか。

高橋:せっかくなので先ほどの倉重さんの引っ越しを例にします。倉重さんが引っ越しを検討していて、引っ越しをコーディネートする会社が提案を行います。倉重さんに、移転はいつなのか、規模はどのくらいの坪数で考えているのか、最寄りの駅はどこがいいのかといったことを聞きます。倉重さんとしては、大体これらについては聞かれるだろうなという感じなので、普通に回答しますよね。

倉重:そうですね。

高橋:時々いい質問があると、「え、そういうこと聞いてくるんだ」と驚きます。例えば、「今回の移転にあたっては、倉重さんの事務所のビジョンが大事だと思うので、ビジョンの話をもう少し詳しく聞かせてもらえませんか」と言われると、倉重さんも「えっ」と思いませんか。

倉重:そんなことを言われたら、そこに決めてしまいますね。

高橋:倉重さんも経営者ですから、ビジョンについて日常的に答えていると思うのですが、まさか引っ越しの場面で聞かれるとは思いませんよね。

倉重:確かに、それは意外です。

高橋:「ちょっと待って、引っ越しに関係するかどうかは分からないけれども」と言いつつも、話していてうれしい感じになりませんか。

倉重:自分がこだわっているところなので、関心を持ってもらえるとうれしいですよね。

高橋:そうすると、倉重さんの中で引っ越しというものの考え方が少し変わってくると思うのです。「これはうちのビジョンに関係してくるのだ」と。さらに意識していなかったことを聞かれると、はっとするような発見が起こります。例えば引っ越し業者の方から、「新しいオフィスに移転したときに、従業員の方々の第一声として、どんな声が聞きたいですか」と質問されたとします。「初日にどんな声が挙がったら、この移転は成功なのか」ということを考えると、今回の移転の位置付けがより明確になります。こういった質問を聞かれると、聞かれた側が発見すると思うのです。

倉重:話している間に気付く、ということは本当にありますよね。

高橋:自己理解も深まりますし、やはり、聞かれることによってお互いの理解の深まりも増してきます。

倉重:確かに引っ越しの例ばかりで恐縮なのですが、「テレワークになってあまり会社に行かなくなるから、今の家賃はもったいない」というところからスタートしたのですけれども。単にダウンサイジングさせるとうまくいっていないように見えます。「今の時代にあった働き方が実現できるオフィスにする」という目的であれば、むしろやりたいことだね、ということを営業の方とのやりとりの中で実際に気付きました。

高橋:それは、すごくいい営業の方とお会いされているということですね。一方で、そこで話が盛り上がってきても、全部の要求を実現するのは結構難しかったりします。また、そこそこいい会社が複数出てくると迷いますよね。そのように情報が増えてきたときに、どう前に進めるのかが、「見える化する力」です。

倉重:ちょっと混乱しかけたときに、ということですか。

高橋:その混乱しかけたときに情報を整理するということになります。物事を整理するときというのはピラミッドで考えたり、マトリックスで考えたりすると思います。「大体こんなふうに情報を整理する」ということがあると、ある程度何について考えなければならないのかが見えてくると思うのです。

(つづく)

対談協力:高橋 浩一(たかはし こういち)

東京大学経済学部卒業。外資系戦略コンサルティング会社を経て25歳で起業、企業研修のアルー株式会社に創業参画(取締役副社長)。事業と組織を統括する立場として、創業から6年で70名までの成長を牽引。同社の上場に向けた事業基盤と組織体制を作る。2011年にTORiX株式会社を設立し、代表取締役に就任。これまで4万人以上の営業強化支援に携わる。

コンペ8年間無敗の経験を基に、2019年『無敗営業「3つの質問」と「4つの力」』、2020年に続編となる『無敗営業 チーム戦略』(ともに日経BP)を出版 、シリーズ累計7万部突破。2021年『なぜか声がかかる人の習慣』(日本経済新聞出版)、『気持ちよく人を動かす 〜共感とロジックで合意を生み出すコミュニケーションの技術〜』(クロスメディア・パブリッシング)を出版。年間200回以上の講演や研修に登壇する傍ら、「無敗営業オンラインサロン」を主宰し、運営している。