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今回のゲストは、TORiX株式会社の代表取締役 高橋浩一さんです。新卒で戦略コンサルティングの会社に入った高橋さんは、「コンサルタントの一番の武器はロジックなのだ」と思っていました。しかし、コンサルティングの現場で直面したのは「ロジックだけでは人は動かない」という事実だったのです。高橋さんがキャリアを歩む中でたどり着いた「人を動かす」方法論について伺いました。

<ポイント>

・なぜ正論だけでは人は動かないのか

・疑問や反論を乗り越えて二人三脚で進んでいく

・「競争」ではなく「共創」を目指す

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■「相手に気持ちよく動いてもらう」のはどんな状態か?

倉重:本日は2回目の登場となります、高橋浩一さんにお越しいただきました。どうぞ、よろしくお願いします。高橋さんは、私がTwitterでナンパして、まだリアルではお会いしたことがないのですが、オンラインで何回もお会いしています。

2021年8月には『気持ちよく人を動かす』という本を出されました。これはどんなビジネスパーソンにも影響し得るスキルだと思い、対談をセッティングしました。最初に自己紹介をお願いできますか。

高橋:ありがとうございます。私は今、TORiX株式会社という営業の研修やコンサルティング会社の代表をしています。元々は新卒で入った会社が外資系のコンサルティング会社で、そこで2年半ほど働いて、25歳のときに人材教育のベンチャー、最近東証マザーズに上場したアルー株式会社で、創業時の役員3人の1人として参画していました。

営業周りや事業全体、組織全体を見ていた中で、ウエイトを置いていたのは営業の組織作りでした。そのときの経験を元に、今のTORiX株式会社でいろいろな企業の営業のご支援をしています。

倉重:ありがとうございます。営業のオンラインサロンなどもされていますよね。会員は何人ぐらいいるのですか。

高橋:今は250人ぐらいです。

倉重:すごいですね。実際のトークの練習とかもするのですよね。

高橋:研修のような感じで真面目にやり切るのは難しいのですが、私が会員の皆さんとロールプレイをする等のデモンストレーションはします。

倉重:高橋さんは本当に営業パーソンに対する悩みを言語化してくれます。結局、営業は、誰かにアプローチをして、決裁をとったり、承認を得たりして動いてもらうことが必要です。営業に限らず、社内調整などビジネスで誰かと関わる以上は、他人に気持ち良く動いてもらうスキルというのは非常に大事だと思うのです。今回は営業に限らずという感じでお話しできればと思っています。

高橋:タイミング的な話で言うと、コロナの影響でリモートワークが増加しましたよね。そうすると、やはり心の問題というような話が増えてくるのです。例えば、マネージャーがメンバーに対してものを言うときにも、一つひとつの言葉に気を使って話します。リアルに顔を合わせていませんから、「強く言い過ぎてはいけないのではないか」と不安になるのです。

倉重:「パワハラだと思われたらまずい」といったことですね。

高橋:あとはメンタルの問題もあります。気持ち良く相手に動いてもらうというのは、マネージャーにとっても非常に大事なことだと思います。営業の方々もコロナの影響で苦戦しています。コロナは、顧客側としても断る強力な手札になったのです。「コロナの影響で予算が減らされます」とか、「コロナの影響で忙しくなって」と簡単に営業をシャットアウトできるので、営業の方からすると、いいソリューションや提案があってもスムーズに合意をもらうことが困難になっています。

倉重:商談がZoomやビデオ面談などになることでも、状況は変わっているでしょうか。

高橋:やっぱり会食がなくなった影響もあります。今はまた時期的に戻ってきていますが、以前に比べると、あうんの呼吸で動いてもらうのが、だいぶ難しくなっています。

倉重:お互いを理解する時間がなかなか取れません。Zoom面談でも一方的に説得しようと思って話し掛けてはいけないということでしたね。

高橋:オンライン商談でよくあるのが、一通り資料を説明して最後に「ご質問ありませんか?」と聞くと、相手が黙り込んでしまうということです。ここでやりづらさを感じる人がとても増えています。

倉重:一生懸命説明をしているのに。

高橋:相手もリモートワークやオンラインなどに慣れてくると、そんなに集中して聞いていなかったりしますよね。

倉重:だるいなと思って、別のネットなどを見ていたりしますね。

高橋:会話を双方向に進めることが苦手な方にとっては、動いてもらうコミュニケーションが各段に難しくなっているという背景もあります。

倉重:では、いかに双方向のコミュニケーションをするか。しかもオンラインでという課題もありますね。それはまた後で、各論でお伺いしていきたいと思います。そもそも、気持ち良く相手に動いてもらうというのは、どういう状態のことを指していますか?

高橋:気持ち良くというのは、一直線にすかっと動いてもらうというよりも、お互いの合意度が高まっている状態です。具体的にどういうことかというと、例えば上司がメンバーの1人に言うことを聞いてもらいたいときに、上司が何か指示を出して、「分かりました」と即答する場合もあります。しかし、メンバー側にも何か思うことや意見があるかもしれません。疑問や反論ゼロで相手が動いてくれるというよりも、疑問や反論を通して、かえって理解が深まっている、という感じですね。

倉重:相手もきちんと納得して動いているということでしょうか。本の中では、部下が納期に遅れてしまったときに、一方的に怒るマネージャーが出てきましたね。

高橋:そうですね。納期に遅れたときに、「常識的に考えて、遅れそうだったら早めに言うよね?」と言うと、「申し訳ありませんでした」と頭を下げるしかありません。マネージャーの言っていることは正しいのですが、それによってメンバーが、仕事ができるようになるかというと少し疑問です。

倉重:高橋さんも昔はロジックで部下を動かそうとしていたのですよね。

高橋:私が新卒で入社したのは戦略コンサルティングの会社でした。入社前から経営学や組織論、ロジカルシンキングなどの本が送られてきたので、「ロジックばかりの世界だろう」と最初に思い込んでいたのです。

倉重:コンサルティング会社ですしね。

高橋:そこで教わったことは、ロジックだけでなく、共感も大事だったということです。私は浅はかな人間なので、マネージメントに慣れていない未熟な状態のときに、何度も正論をぶつけることをしてしまいました。

私自身25歳の時に起業したのですが、最初に入った会社では、メンバーや部下を持ったことがない状態で会社を作ってしまいました。創業役員として、実際に営業部門も見ているので、発言力や影響力が自然と大きくなりやすいのです。気がつかないうちに、「一発で相手に納得させよう」という思考になってしまいました。

倉重:少人数組織ではありがちですよね。

高橋:うまく行っているときはそれで物事が進むのですが、リーダーの力だけでは解決策が見いだせないときがあります。組織を大きくして人が増えてくると、一通りのやり方では売れなくなるのです。

倉重:先が見えない今はきっと、どんな業種でもそうですよね。

高橋:そうですね。私もスキルや経験がばらばらな人たちが組織で成果を出すやり方が本当に分からなくて、「どうしたらいいのだろうか」と悩みました。

今まで自分の目の届く数人で会社を経営しているときは、わりと自分が正解を持っていていたので、多少トラブルがあっても気合いで何とかなりました。しかし営業の人が20~30人となってくると気合いではどうにもならなりません。今まで「自分の言うとおりにしてくれ」と言っていたので、急に「ちょっと自信がない」とは言えませんでした。「自分が正しい」という世界観でマネージメントをしてしまうと、明らかに行き詰まりがきます。

手を変え、品を変えても、自分の打つ手がことごとく外れてしまって、ある年に売上目標に対して、大幅な未達成になってしまいました。年末の締め会のときは部署ごとに発表するのですが、営業チームのときは部署の全員が下を向いているのです。

倉重:お通夜状態ですね。

高橋:自分としては良かれと思って今まで指示を出していたのですが、さっぱりうまくいかなくて、本当にどうしたらいいのか分からなくなりました。あるとき営業メンバーに「今、悩んでるんだよね」と言ったら、「高橋さんでも悩むんですか」と聞かれました。「いや、悩むよ」と打ち明けたら、「じゃあ、私がみんなに聞いてあげますよ」と言うのです。そしてメーリングリストに、「マネージメント に意見を求む」という件名のメールを送りました。そしたらすごい勢いで部下からレスポンスが来たのです。

倉重:相当溜まっていたのですね。

高橋:今まで相当強権発動型のマネージメントをしていたので、先ほど倉重さんがおっしゃったように、不満や文句が来るのかなと思っていました。ところがメールを開いてみると、「もっとこうしたら良くなると思います」という非常に建設的な意見がたくさん来たのです。てっきり、「この際だから文句言ってやろう」というメールがたくさん来るのかなと思っていたら、全然そんなことはありませんでした。「今まで自分は間違っていた」ということを痛感したのです。

 営業のリーダー会議でも、やはり人の意見を聞いたほうがいいのかもしれないと思って、「皆さんの意見を聞かせてください」と言ったのです。そしたら最初に「今日は自分の意見を主張しません」と宣誓させられました。反論せずに聞いていたら、みんなとてもいい意見を持っていたのです。それまでの私は、「自分が正しい」「メンバーは分かっていない」という歪んだ世界観でものを見てしまっていました。

倉重:「どうしてこんなに考えているのに伝わらないのか」と思いがちですよね。

高橋:「部下の意見を封じていたのは自分ではないか」と思ったのです。みんなの意見をもっと聞いていくと、いいアイデアがたくさんありました。それを聞きながら、今までと逆のことをしようと思ったのです。今までは最悪のマネージメントで、自分の言うことを聞いてくれという感じでした。逆に、みんなが仕事をしやすくするためにはどうしたらいいのか、ということのほうに集中していったら、業績がとても上がってしまったのです。

倉重:そんなに変わるものなのですね。

高橋:今までは、「自分が」「自分が」と、どうにかして自分の言うことを聞いてもらおうとしていました。それで「なんで動いてくれないのだ」と思っていたのですが、逆に、みんなの考えていることが、もっともっと表に出てくるようにしたほうがよかったのです。安易にメンバーの言うことをそのまま聞くのではなく、議論をするということです。

倉重:批判でも反論でも受け止めるのですね。

高橋:しっかり話すことをすると、やはり結論が良くなります。そうすると、組織はどんどんいい方向に行きました。恥ずかしい話ですが、そのときに「相手と競い合うディスカッションをしてしまっていた」と気づいたのです。

倉重:反論を準備して。

高橋:とにかく疑問や反論を寄せ付けないようにして、経営からのメッセージなどを伝えるときも、「なぜ、こういう方針をとるか」と、もっともらしくロジカルに言うのです。疑問や反論でつまずいても、「つべこべ言わずにやってくれよ」「とにかく我慢してやってくれ」という感じでした。相手と共に作るディスカッションは、とにかく疑問や反論は来るものです。むしろ来てほしいものであって、それを乗り越えて議論をしていった先に、一緒になって進める良い世界があるなとすごく感じるようになったのです。

倉重:共に創るということですね。

高橋:今までは「相手の言うことを認めたら負けだ」と思っていました。当時はそういうつたない世界観があったのです。もちろん、マネージメントとして、経営として、責任を取るべきところは取りますし、しっかり方針を出すところは出すのですが、「自分が正しい」「相手が間違っている」という世界観で仕事をしているうちは、物事がなかなかうまく進みませんでした。

倉重:なるほど。「聞く」ということが大事なわけですか。

高橋:相手の言うことをただ妥協して受け入れるわけではなくて、説明すべきするところは説明します。その上で反論されると「自分の言葉が足りてなかったな」とか、「確かにその観点があったけれども抜けていたな」というところが見えてきます。

倉重:営業でも、お客さんが求めていないことを一生懸命説明すると「ズレてるな」と思われますよね

高橋:営業の世界も、反論対策というものを、どこの会社も結構やるのです。

倉重:お客さんが反論したことに対して言うことを考えておくのですか。

高橋:そうです。例えば、営業的な言葉では、応酬話法と言います。カタカナだと、オブジェクション・ハンドリングと言うのです。例えばお客さまが、こちらの提案に対して「いいとは思うけれども、うちはそういうものを使いこなせないと思う」と言うと、その「使いこなせないと思う」と言われたときの対策を、営業側がばっちり勉強しているのです。それこそコンマ何秒で対策が出てきます。

「大丈夫です。御社のようにアナログな会社でも十分使いこなせる事例がここにございます」と言って資料を見せます。大体そこで出てくるのは、非常にアナログな会社が、いかにIT化するようになったかという事例です。ただ、それがあまりにもタイミング良く出てくると、お客さんは「言いくるめられるのではないか」と警戒してしまうのです。

営業側が事例を理路整然とスムーズに伝えると、お客さんの側も、「いや、そうは言っても」という感じで、くどくど言い始めてしまって、結局進まなくなります。営業も決めてほしいので、「値引きしますから買ってください」というふうになります。

倉重:それは本当に悪手ですね。価格交渉でしか価値を見いだせないというか。

高橋:そうですね。一方で「うちは使いこなせないと思う」と言われたときに、「よくぞ言ってくださいました。もう少し詳しく聞かせてください」と深掘りしていくと、使いこなせないという言葉の裏側にあるものが結構見えてきます。その裏側が分かってくると、やはり、営業提案する側も進化していきますよね。よりお客さまが使いこなせるようにしようとか、ここを難しく感じられていたのだな、とか。

倉重:そうですね。どこで止まっているのかなとか。

高橋:それを繰り返していけば、やり方もより進化していくのではないかということです。

倉重:このプロセスを経ていると、お客さん側も一緒に企画書を作っているような状態になりますね。社内稟議も自発的に通すし、できあがった頃には「一緒にやりましょう」という熱量になっているわけですね。

高橋:オンラインのコミュニケーションでは、皆さん結構PowerPointなどを使うと思います。PowerPointは、きれいな状態でプレゼンされますよね。対面で商談するときなどは、ホワイトボードを使ったりすると思いますが、結構汚いホワイトボードでも、一緒に書いていると、不思議と腹落ち感がありますよね。

倉重:そうですね。徐々に埋まっていったり、概念整理されたりしますね。

高橋:これをオンラインのコミュニケーションでもしていくといいのではないかと思います。もちろん対面でもお互いの理解がより一層深まります。

(つづく)

対談協力:高橋 浩一(たかはし こういち)

東京大学経済学部卒業。外資系戦略コンサルティング会社を経て25歳で起業、企業研修のアルー株式会社に創業参画(取締役副社長)。事業と組織を統括する立場として、創業から6年で70名までの成長を牽引。同社の上場に向けた事業基盤と組織体制を作る。2011年にTORiX株式会社を設立し、代表取締役に就任。これまで4万人以上の営業強化支援に携わる。

コンペ8年間無敗の経験を基に、2019年『無敗営業「3つの質問」と「4つの力」』、2020年に続編となる『無敗営業 チーム戦略』(ともに日経BP)を出版 、シリーズ累計7万部突破。2021年『なぜか声がかかる人の習慣』(日本経済新聞出版)、『気持ちよく人を動かす 〜共感とロジックで合意を生み出すコミュニケーションの技術〜』(クロスメディア・パブリッシング)を出版。年間200回以上の講演や研修に登壇する傍ら、「無敗営業オンラインサロン」を主宰し、運営している。