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トップ5%の社員5つのの習慣(4/4)

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)
画像は前回対談時のものです。

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働き方改革が叫ばれて5年以上が経ちますが、企業の働き方はどう変わったでしょうか。残業を削減したり、有給休暇の取得を義務づけたり、労働時間を削ることを目指す企業が大半です。しかし越川さんの書籍によれば、労働時間の削減に対して、64%もの社員がネガティブに感じ、モチベーションが下がっていると回答したそうです。トップ5%社員は、その浮いた時間やオフの時間をどう使っているのでしょうか?

<ポイント>

・5%社員のオフの過ごし方

・業務の「見える化」ではなく「見せる化」が大事

・canを大きくするプロセスの中でwillは出てくる

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■サザエさん現象が起きるのは、目的が明確ではない人たち

倉重:5%社員のオフの過ごし方、休み方もありましたね。

越川:5%社員の睡眠時間は長いです。6時間から7時間取っていて、週末は基本的にはリフレッシュして月曜日に蓄えるという感じです。彼らが金曜日に働きがいを感じるのは理由があります。金曜日に働きがいを感じるということは、1週間をしっかり振り返って「来週は何をやめるか」「何をやるか」が決まっている状態だからです。

倉重:なるほど。そこがクリアになっているということですか。

越川:実はサザエさん現象は、月曜日に何をやるか分からない人たちに起きやすいといわれています。

倉重:確かに、どのような不安なことがあるか分からないから怖いわけですね。

越川:金曜日にある程度来週の目安が付いていれば、土日は完全に休めますし、メールやチャットを仮に見たとしても、相手を不快にさせるような返信や巻き込みはしません。

倉重:もう終わったという解放感ではなくて、達成感ですね。

越川:彼らはプライベートでも達成感をすごく重視しますので、だらだら土日を過ごすということはあまりないですし、有酸素運動をする比率はすごく高いです。最近はウォーキングをしている方々が増えています。

倉重:私もイヌの散歩を度々しています。あとは「自分が好きなことを自分で選択してやる」と書いてありましたが、それは大事ですね。

越川:5%社員は短期的な報酬を実は望んでいません。報酬という外発的動機ではなく、自分の興味関心から湧き出る内発的動機を重視し、自分の意志で選ぶという「自己選択権」の獲得を目指しています。その自己選択権を獲得するために、自分たちは無駄なことをせずに、より多くのことをすると言い切っています。

倉重:自分の気持ちと乖離(かいり)したことをしているのは楽しくないですから。自分がいいと思えるかどうかですね。

越川:5%リーダーの調査は、withコロナだったので2020年と2021年の社員と管理職を全部調べたのですが、テーマが一つ出てきました。彼らの6割以上の人が、働き方や生き方などを振り返って考えています。これから必要なのは共感と共創だというテーマが出てきたのです。 

 お客さんとも上司とも部下とも共感する。今まではデジタル社会でDX、DXといわれて情報共有がメインでしたが、必要なのは感情共有だということです。

倉重:一緒につくり上げていく過程が大事ですね。

越川:感情共有によって共感が生まれ他社の価値観を受け入れていきます。そういう人たちと共に創っていくという共感・共創時代に突入したといえます。

倉重:私もそれはすごく意識しています。

越川:これがコロナになってさらに明確になりました。正直、価値観や経済格差が残念ながら広がってしまっている中で、一つのことを一緒にやっていくことは難しくなってきているのです。議論やミッションだけでは、やはり動かなくなってきています。

倉重:正論を振りかざしている場合じゃないですね。

越川:だからリーダーがやっていた雑談なども、共感の一部です。例えば5%社員がやっているチェックポイントを設けるというのは、共創のプロセスですし、PDCA自体も完全に共創だと思います。この共感・共創を意識することによって、無駄なものをやめて成果が出やすくなることが分かりました。

倉重:そういう5%社員はスター社員だと思いますが。そういう方をうまく処遇できる日本企業は、なかなか少ないのではないかと思います。私自身も経験がありますが、少し目立っていると、足を引っ張られる経験がある人は結構いるのではないでしょうか。そういうときは5%の人はどうしたらいいのでしょうか。

越川:正直、5%社員が変えられることと変えられないことがあると思います。この5%社員にしても5%リーダーにしても、実は出版には裏のテーマがあります。それは評価制度の改正なのです。

日本には四大ユニーク雇用制度があります。年功序列賃金、終身雇用、新卒一括採用、企業内労働組合というこの4つがあるのです。変な話ですが、失敗しなければクビになりません。

 だから行動を変えなくても、働き方改革をしなくても、みんな死なないのです。徹夜して頑張ってきた人たちが今みんな管理職になっています。

倉重:それで今ゆっくりとみんなで地盤沈下しています。

越川:これをきちんと言ってあげないと人事部や経営陣が評価制度を変えません。誰が見ても突出した成果のある人を可視化するために、今の評価制度を360度フィードバック、成果主義、ジョブ型などに変えていかないと会社がつぶれますよと言うためにデータを集めたのです。

 幸運にもヒアリングをすると、大体6割ぐらいの企業が評価制度を2年以内に変えると言っています。「こういう行動を取れば成果を出しやすい」という昔流行したコンピテンシー制度を、5%社員、5%リーダーを軸にして作りませんかと提案するのです。「これを増殖していけば会社も地盤沈下しなくて済みます」と言うためにデータを作りました。

倉重:処遇の面でも報いて、5%の人がより働きやすく後押ししていくのが人事の役割ですから。

越川:おっしゃるとおりです。5%社員ということを、実は本人は分かっていません。5%と言ってしまうと相手が意識してしまいますし、基本的には企業での評価制度は5段階なので、トップ20%のSクラスまでしか出しません。

倉重:確かにそうです。

越川:5%はSS級です。これは人事部もしくは経営陣に、その20%の中の5人に1人は誰ですかと個別に聞いています。ジョブレベルごとなので、「20代ではこの人」「30代ではこの人」というのは出てきますが、本人は知りません。本人に意識させずに、いつもどおりの行動を取ってもらいます。

倉重:それは伝えないほうがいいのですか。

越川:伝えてしまうと、みんな意識するのです。普段はやらないのに、いきなり冗舌にプレゼンし始めたりしてしまいます。いつもどおりにしてほしいので伝えません。

倉重:5%の人は、ある意味本当に突出した人だと思いますが、今までは同質的に「みんなで一緒に」という形でしたけれども、これからはいかに異彩を放つ人をより輝かせるかという社内の施策、あるいは雰囲気、社風が大事になってきますね。これは経営が変わるしかないでしょうか。

越川:5%社員は、昔の人に比べれば異彩なだけで、どの自己啓発書にも書いてある当たり前のことを、ただ当たり前にやっているだけの人たちなのです。

倉重:確かにメールを返すのが早いだけだったりします。

越川:それができていないのは、やはり経営陣や社内文化の問題だと思います。成果を出すということで自己選択権を得て、自分のやり方を社内に定着・浸透させていくという方を、何とか応援したいなと思っています。現場では行動改革をし、行動実験をし、トップダウンで評価制度を変えていくというサンドイッチによって、企業は変われるということです。

倉重:その変革を後押しするのは、人事制度でできるということですね。

越川:うれしいことに、本を読んでくれた方々やクライアント企業の方々が軒並み評価制度を変え始めているので、そういった意味では多少光が見えてきているかなと思います。

倉重:それでまた成功例が少しずつ出てくるといいですよね。

越川:評価制度も大体10年前、5年前のものをそのまま使っている企業が多いのです。それも小さな行動実験なので、今年から始めてみましょう、駄目だったら来年変えればいいからというものを評価制度でも取り入れていくのです。

■足を引っ張られる人はどうすればいいのか?

倉重:確かにそれは外部を入れる意味もありますね。一方で、若い働く側の人でそれなりに成果は出ているけれども、周りから足を引っ張られる人に向けたアドバイスをお願いできますか。

越川:5%社員にならって、目的・目標を意識することと、ギャップから考えるということは、ぜひ若手にも取り入れていただきたいと思います。働く環境の中で、自分でコントロールできることとできないことの2つの円があると思います。残念ながら20代はコントロールできる円が小さいのは確かです。ただコントロールできる円を大きくしていくことが、キャリアアップだと思っています。まずは自分でコントロールできる時間を増やします。例えば20代で言うと、働く時間の13%から17%は自分でコントロールできる時間があります。その中で例えば資料を変えてみる、説明の仕方を変えてみる、そこで振り返って良かったら続ける。途中でフィードフォワードをして修正していくことで成果が見えてきます。進捗と成果は、声をかけられるのを待っているのではなく、しっかり自分から見せていきます。

今必要なのは業務の見える化ではなくて「業務の見せる化」なのです。自分から見せていくことです。

倉重:なるほど。待っているのではないのですね。

越川:上司、先輩と話して、「今年はこれをやります、今月はこれをやります、今週はこれをやります」というのが決まっていれば、「今週はこのような状況で進捗は66%です。少し苦戦しているので金曜日で挽回します」と自分から言う人たちは、協力も得やすいのです。さらに在宅勤務だとさぼるのではないかという不毛な議論も避けられます。

倉重:確かにまだそういう会社もあります。

越川:悔しいので調べたのですが、在宅勤務でさぼる人は14%いました。ソリティアを7時間もしている人もいましたが、怖いことに、在宅勤務でさぼっていた人を追跡調査をしたら、在宅勤務でさぼっていた人の何と94%が出勤していてもさぼっていたことが分かりました。さぼる、さぼらないは場所の問題ではなくて、職責と評価の問題なのです。

倉重:本当にもう個人の属性ですね。

越川:そういったくだらない議論から抜け出るためには、きちんと目的・目標を周りに見せていく。進捗も見せていく。そのギャップを言っていくことです。この3つをやることによって信頼・信用を勝ち取って、巻き込み力も身に付けられます。達成できる成果も広がっていくので、「こういうプロジェクトをやってみないか」「そちらに異動してみないか」という声がかかって、自己選択権が増えていくと思います。

倉重:偉い人が協力してくれるようになると幅が広がりますね。

■20代のうちに転職して後悔する人は7割以上

倉重:いよいよこの会社では駄目だと思うときは、どうやって判断したらいいのでしょうか。

越川:実はまた新しい本を来月出すのですが、20代のうちに転職をして後悔する人は7割以上いるのです。

倉重:それほど多いのですか。

越川:労働環境、特に衛生環境などの働きやすさでいいところを狙ってしまうと、隣の芝はみんな青く見えます。そちらに軸足を置いてしまうとなかなかうまくいきません。

倉重:どうしたらいいですか。

越川:パワハラ、重労働、未払い残業のある会社は絶対に逃げるべきだと思います。ただ、より良い労働環境、より良い働きやすさを目指してしまうときりがありません。

倉重:むしろ働きがいですね。

越川:おっしゃるとおり、働きがいです。働きがいというのは内発的動機なので、自分のわくわく感や成長など、興味関心を持てるほうに軸足を持っていかないと、ジョブホッパーのように転職を繰り返して隣の芝をどんどん見に行く人になってしまいます。

倉重:確かに「年収水準が増えます」「休みが増えます」だけで判断してはいけないということですね。

越川:ですから僕も20代、学生を含めていろいろキャリアコンサルをする中で、不平・不満・不快を取るために転職するなと言います。これは満足にはつながりません。

倉重:自分のwillを実現するためだったらいいということですか。

越川:不平・不満・不快を取るのはマイナス1をゼロにしているだけです。関心ややりたいことはプラスです。マイナス1をプラス1にするためには、やはり働きやすさプラス働きがいを求めて転職する必要があります。

倉重:確かに不平不満を解消するために転職したら、また別の不平不満が出てきますから。

越川:それで「あなたの働きがいは何ですか」と聞くと、7割が答えられません。

倉重:それが分からないうちは、まだ動かなくていいよということですね。それは非常にいいです。自分のwillが大事な時代だと思いますし、それがないとなかなかうまくいかないという話ですね。

越川:そうですね。will、can、mustといわれていますので、会社でやらなければいけないmustはどこの会社にもあります。正直20代はcanが小さいので、canを大きくしていくという戦術が必要なのではないかと思います。意外と今、若手の半分ぐらいがwillのない人たちです。僕はそれでいいと思っています。canを大きくするプロセスの中でwillは出てくるものです。

倉重:若いうちはやりたいことはなくて当たり前だと思います。

越川:後で出てくると思います。まさに偶然の出会いを探していったら見つかることもあると思うのです。まずはcanを大きくしていきます。そのうちwillが大きくなって、canとwillとmustが重なったところが、僕は働きがいだと思うのです。

倉重:いいですね。まさにその3つが重なるとすごく幸せです。

越川:この3つを掛け合わせると自分の会社で今、居続けるべきなのか、転職すべきなのかが見えてくると思います。

倉重:分かります。あと個人的には、「それをやっておきましょうか」という人もすごくいいと私は思っています。誰がやるか分からない仕事や雑務があったりしますが、そこに気付いて率先してやる人は必ず出世すると思うのです。そういうことをやっていくと、どんどん担当する領域やcanの範囲が広がって、チャンスもあるのではないかと思ったりします。

 最後に、越川さんの夢をお伺いしたいと思います。

越川:より短い時間で、より多くのことを、より良く働くというのが、われわれのモットーです。実現可能性はさておき、全世界の会社を週休3日にしたいと思い起業しました。読者の方には、ぜひ無駄なものをやめる勇気を持っていただきたいです。より短い時間でより良い働き方をできるようなきっかけにしていただければと思います。

倉重:ありがとうございます。読者の皆様も、明日から無駄な資料作成をやめましょう。

(おわり)

対談協力:越川 慎司(こしかわ しんじ)

株式会社クロスリバー 代表取締役CEO/アグリゲーター

国内外通信会社に勤務、ITベンチャーの起業を経て、2005年に米マイクロソフトに入社。日本マイクロソフト 業務執行役員としてPowerPointやExcelなどOfficeビジネスの責任者等を務めた後、2017年に株式会社クロスリバーを設立。

クロスリバーでは、選択式週休3日・完全リモートワーク・複業(専業禁止)を導入し、新たな働き方を実践しながら800社以上に「稼ぎ方改革(More with Less=より短時間で、より大きな成果を)」の実現を支援。

メディア出演、講演多数。講演の受講者満足度は平均94%、受講後に自発的に行動を起こす受講者は70%以上。

著書16冊『AI分析でわかったトップ5%社員の習慣『AI分析でわかったトップリーダーの習慣』『ずるい資料作成術』『超会議術』『巻込力』など。その多くが重版となり海外でもベストセラーに Amazon等で発売中

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒業後司法試験合格、オリック東京法律事務所、安西法律事務所を経てKKM法律事務所 第一東京弁護士会労働法制委員会外国法部会副部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)理事 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 労働審判等労働紛争案件対応、団体交渉、労災対応を得意分野とし、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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