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今さら聞けない労務管理のキホン教えちゃいます 第3回

倉重公太朗弁護士(KKM法律事務所代表)

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今の時代に求められる労務管理の基礎知識【漆原香奈恵×佐藤麻衣子×倉重公太朗】第3回

(リード)

社労士の佐藤麻衣子先生は、顧問先の労務管理を行うほか、行政のテレワーク推進コンサルの受託や、テレワーク導入全力応援プロジェクという形で支援をしています。「コロナが落ち着いたらテレワークをやめて出勤させる」という企業は少なくありませんが、将来を見据えてそれは正しい選択と言えるのでしょうか? 佐藤先生、漆原先生に伺いました。

<ポイント>

・ハラスメントはどう予防するのか?

・採用が難しくなる時代に、企業がすべきこと

・テレワークができない業種はどうする?

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■ハラスメントを防ぐには?

倉重:やはり発生したハラスメント案件を調査して処分することも大事だけれども、予防に力を入れたり、コミュニケーションで齟齬が起きたりしないように、話を考えなければいけません。特にテレワークだとハラスメントが多くなったり、闇に潜ったりして発見しづらくないですか?

佐藤:リモハラですね。

倉重:テレワークがゆえに起こることのような。

佐藤:やはり時間外の連絡対応では悩むと思います。あとオンラインになるとオフィスと違って見えづらいこともあり、異変に気づけなくなると私は思います。職場だと、「あれ? あの人、どうなのだろうか、不安だな」という発見の機会がありますけれども、オンラインだと、ログをチェックしていない限りは漏れやすいかなという心配もあります。

倉重:会議室で怒鳴っていたら声で分かりますけれども、それぞれウェブ会議していると見えません。

佐藤:逆にオンラインはログも履歴もあるので、証拠が残ってしまうのが怖いというのもありますけども。日常では変化に気づきにくいので、これも先回りして対策したいなと思います。

倉重:ハラスメントは、結構会社の姿勢が問われると思っています。「絶対に許さんぞ」というスタンスで対応する会社と、「別にそのくらいよくあることだよね」というような会社では、カルチャーも雰囲気も違ってくるのですよね。でも、変えようと思えば変えられると思うのです。経営がちゃんと変えたいと思って、人事が後押しするような施策をしていくと、会社の雰囲気が変化したという事例もたくさんあります。何か起こってから動き出すのではなくて、どう予防するのかが大事です。

医療でも、外科の手術をする前に予防医療をすることが大事ですが、それと同じような話です。やはり人事のクリエイティブさが問われています。その会社に何が必要か。一律「これをやっておけ」ではないし、「この規定をコピペしておけば大丈夫です」というものではありません。

漆原:工夫している人事総務担当者は、休憩室に「パワハラ禁止」という冊子やパンフレットを置いたり、ポスターを貼ったりして、みんながいつでも見られるようにしています。「うちはそういうことはないから大丈夫よ」と言っている会社さんに限って後からパワハラの相談が起きることがあります。

倉重:「そもそも窓口があるのか分からない」、「どこに連絡するか知らない」という会社もありますよね。

漆原:分かりやすく外部相談窓口を設けている会社も最近は増えてきました。ハラスメントは、本当に人事総務の方がいろいろ工夫して、問題を起こさないような空気を作っていくことが大事かなと思います。

倉重:さすがに経営層に「それでいいのだ」と言われてしまうときついですが、もし変えたいと思ってくれたら、人事と一緒に協力すれば、雰囲気は変えられますものね。

若い人で、「もうこの会社は変わらないから駄目だ」と諦めて辞めてしまう人や、絶望してやる気のなくなってしまう人もいるのだけれども、やはりそれはもったいないと思います。彼らに何か言っておきたいことはありますか?

漆原:男性社会、年功序列の時代で生きてきた方々と、現代の男女が共に働き、協調性を大切にし、実力・成果主義という時代を進んできた人たちのギャップを埋めるといった努力が必要です。研修などを開いて、無自覚にハラスメント行為をする方々に気づいてもらう機会を設けるというのも一つの方法ですよね。パワハラを起こしてしまうと、大変な対応に追われるのは会社ですから。

倉重:どちらがいい、悪いではなくて、違いをまず分かっていただいて、相手を尊重してくださいという話です。それが組織としてのパフォーマンスを上げることに最後はつながるのではないでしょうか。パワハラが起こっていたら、チームとしての生産性は上がりません。

■コロナ後テレワークはどうなるか?

倉重:テレワークを始める会社も多いですけれども、一方でコロナが収まったらもうやめようかという会社もある中で、どういうふうに人事の人と話していますか。

佐藤:目先のことだけだと、慣れた仕事の進め方がいいかもしれません。特にもうすぐ定年の方は、「もう今のままいかせてくれ」というような思いも恐らくあるかと思います。

倉重:もう今さら生き方を変えたくないのだよと。

佐藤:そうです。そのほうがパフォーマンスも実際いいのだと思うのです。わざわざウェブ会議やスラックを覚えるよりも、対面で営業したほうが効率よく契約が取れることもあると思います。ただ会社はやはり下を育てないといけません。下はもう時代が変わっているので、その土壌を作るのもやはり上の方の役割です。立場が上の方たちが変わってくれないと、下はやはり気遣いの中で成長ができないという感覚があります。自分の生産性ではなくて、会社の将来を見ながら進めてほしいと思うようになりました。テレワークにしても上の方が出社派だったりすると推進されないですしね。

倉重:上が来てしまうから、部下も嫌々来ざるを得ないと。

佐藤:一番のポイントはやはり採用です。お話を進めるときにも「時代が変化していますよ」というより「欲しい人材が採用できなくなってしまいます」という切り口で、会社の将来のためにやるべきことをご理解いただいている感じです。

倉重:直接雇用の採用でも、派遣社員の登用でも、実際にテレワーク不可だと、このご時世、それだけでかなり難しくなりますよね。

佐藤:難しいですね。

倉重:出社するのが当たり前ではなくて、逆に出社するプレミアムは何なのかということを考えなければいけないですよね。「この会議、対面の意味はありましたっけ」と言われませんか?

佐藤:やはり労働者が少なくなってきているので、育児や介護と両立せざるを得ない世代は、テレワークがないと回りません。書類をペーパーレス化したり、IT環境に慣れたりするのにはすごく時間が掛かるので、前もって取り組みを進めるという理解がすごく必要だと思っています。

倉重:例えば、首都圏の企業が地方の優秀な方を雇用するという事例も結構増えています。「いや、うちはテレワークできません」と言っている地元企業は、どんどん人が採れなくなるというリスクがあります。「そして誰もいなくなった」ということになりかねません。

佐藤:「応募来ないけど、求人出しているよね?」という感じになっていると思います。

倉重:さきほどおっしゃったように、テレワークが100%良いわけではなくて、「これはテレワーク」「これは対面」といった振り分けをきちんと行う。会社によってどんな比重がいいのかは、人事も一緒に考えるということなのですよね。

佐藤:例えば製造業など、「テレワークができない業種なので」という理由でやらない会社もあります。現場の業務は難しくても、経営企画や総務、設計といった会社の中でテレワークできる仕事はあると思うのです。社内で設計できる人がいないと、製造現場の仕事にも支障が出てしまいます。テレワークを推進しないことで「設計ができる人」が全く採れなくなる可能性もあり、危機感を持っています。「うちの業界はやらない」ではなくて、一部でも始めるべきだと思います。

倉重:まず本当に上の人から始めていただきたいですね。国の会議も全部オンラインでしてほしいです。

佐藤:そうしたら感染リスクもなくなると思うのですけれども。

倉重:ニュースを見ていて感染対策の会議をリアルでしているのはどうなのだろうと思ってしまいます。かなえ先生、いかがですか。

漆原:今回のコロナの関係で、「絶対テレワークはしない」「制度も作らない」と言っていた会社であっても、できる部門は着手せざるを得なくなりました。急にやると混乱して大変ですから、テレワーク可能な部署からルールを整備した方がスムーズに切り替えられると思います。

倉重:テレワークは効率的ではないとおっしゃっている方はやり方を間違えている場合もありますよね。例えば同じPCから複数の人が入って、一緒に会議をしてわちゃわちゃ発言をしてよく聞き取れないとか。1人1台パソコンを持つだけで全然違います。本当に最低限のIT的なインフラがそろっていないところもあります。今の時代、パソコン1台やヘッドセットはそんなに高い話ではないので、そこも投資していかないといけないですね。

漆原:うちのスタッフも、テレワークでいいよと言っても、事務所のほうが集中できると言って出勤します。それぞれの仕事のスタイルや従業員側の希望を聞きながら、うまく回していければいいのかなと思います。

倉重:うちの事務所は、週1は出勤して、週4はテレワークという感じです。たまには顔を合わせたほうが意思疎通もはかどりますが、「毎日やる必要はないよね」と話しています。ただ、出社した方がやりやすい人はご自由にどうぞというスタンスです。テレワークが根付かないのでしたら、部署単位で強制的に「全員この日はテレワーク」と決めることも考えられます。今は移行期ですから、人事がその会社にあった施策を考えるということですね。

漆原:テレワークをして利益が上がったという会社さんもいらっしゃるし、テレワークで生産性が落ちたという会社さんもいらっしゃいます。うまく試行錯誤しながら人事がどう良くしていくのか、腕の見せ所ですね。

倉重:去年の緊急事態宣言のときは、一斉休校で子どもも家にいるから、奥さんはリビングで、旦那さんは洗濯機の上からZOOMに入ってくるというようなカオスな状況でした。それは仕事にならないのは分かります。でも、もうコロナから2年たとうとしている中で、どうやって持続可能な体制を作っていくか。どういう働き方のニーズがあるのかを考えていかないといけません。これがテレワークでは人事のやるべきことかなと思います。

(つづく)

【対談協力】

漆原香奈恵(うるしばらかなえ)

特定社会保険労務士・キャリアコンサルタント・アンガーマネジメントファシリテーター

平成22年に仕業事務所や人事・総務での勤務経験を生かして、かなえ社会保険労務士事務所を20代で開業。平成30年、合同会社かなえ労働法務を設立。二児の母。

企業向けには、バランスのいい人事・労務サービスを提供している。柔軟な働き方、育児・介護・傷病と仕事の両立支援や労務監査実績は250社以上になる。

年金事務所などの相談員を経て、障害年金請求代理業務にも注力し、請求手続きのみならず不服申立てまでサポートしている。

著書に、「人事労務・総務担当者の人へ 労務管理の基本的なところ教えちゃいます(共著)/ソシム」「障害年金の手続きから社会復帰まで(単著)/秀和システム」「知りたいことが全部わかる!障害年金の教科書(共著)/ソーテック社」がある。

佐藤麻衣子(さとう まいこ)

株式会社ウェルスプラン 代表取締役、ウェルス労務管理事務所 代表

社会保険労務士/CFP

信託銀行勤務を経て2015年独立。会社員時代、仕事と育児の両立や生活設計に悩んだ経験から「企業も人も豊かになれる、時代に合った職場づくり」をコンセプトにテレワーク導入、就業規則の見直し、人事評価制度の構築など多様な働き方を実現する人事労務コンサルティングを提供。2019年に株式会社ウェルスプランを設立し従業員の将来設計を支援する確定拠出年金の導入、投資教育・ライフプラン研修にも注力している。著書『30代のための年金とお金のことがすごくよくわかって不安がなくなる本』(日本実業出版社)『人事労務・総務担当者の人へ 労務管理の基本的なところ全部教えちゃいます』(ソシム)

弁護士(KKM法律事務所代表)

慶應義塾大学経済学部卒業後司法試験合格、オリック東京法律事務所、安西法律事務所を経てKKM法律事務所 第一東京弁護士会労働法制委員会外国法部会副部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)理事 経営者側労働法を得意とし、週刊東洋経済「法務部員が選ぶ弁護士ランキング」 人事労務部門第1位 労働審判等労働紛争案件対応、団体交渉、労災対応を得意分野とし、働き方改革のコンサルティング、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)。 YouTubeも配信中:https://www.youtube.com/@KKMLawOffice

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