インドネシアで一番有名な日本人に聞く、「世界で戦う人材育成」【小尾 吉弘×倉重公太朗】最終回

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1990年の工業団地設立以来、長年工業団地の開発や運営に携わってきた小尾吉弘さん。彼はモスクを建てる過程でイスラム教に入信したり、企業が求める人材を育てる学校を造ったりしてきました。これまで自分のやりたいことを楽しそうに貫いてきた小尾さんに、「やりたいことが見つからなくて悩んでいる人はどうすればいいですか」と聞いてみました。その答えの中には、小尾さんならではの人生哲学が散りばめられていました。

<ポイント>

・人生道を広く歩くことで、やりたいことが見えてくる

・労使の話し合いで大切なのは、納得するための努力を重ねること

・コミュニケーションの基本ことは相手に話させること

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■「やりたいこと」はどのように見つけるべきか?

倉重:小尾さんはイスラムの改宗もそうですが、実際にやりたいことを楽しそうにされている印象を受けます。やりたいことが見つけられなくて悩んでいる若い人も日本には大勢いるのですが、どのようにアドバイスしますか?

小尾:わたしが中学か高校ぐらいのときに「人生道を広く歩こうよ」といった内容の本を読んだことがあります。たった一つの好きなことに集中するのもいいのですが、あまりフォーカスしすぎると、両端に雑草が生えて、だんだん道が狭くなっていきます。ですから、右や左に行きながら、いろいろなものにちょっかいを出すのです。

倉重:あれは何だろう、これは何だろうと。

小尾:そうです。一番大事なのは好奇心だと思っています。「ここに何かある」「これは何だろう?」と好奇心を持って触ってみて、合わなければやめればいいのです。そういうことを常に心がけて、さまざまなものを好きになればいいと思います。好奇心を持って右にあるもの、左にあるものを見ながら、ずっと広い道を歩いたほうが楽しいと思います。

倉重:どんどん広くしていくということですね。

小尾:その中でやりたいことが見つかると思います。

倉重:なりたいものが変わってもいいのですよね。

小尾:そう思います。右へ行って駄目ならまた左で違うものを見つければいいのです。人生は長いです。今でもわたしは新しい夢を探してあちこち走り回っていますので。

倉重:まだそうなのですね。今おいくつですか。

小尾:62になりました。

倉重:62には見えないです。まだ新しいことをやって楽しそうです。楽しいことをやっている人は顔に出ますね。

小尾:自分で楽しくするのだと思います。好奇心を持って何かを見つけに行って、「面白いな」と思ったらうれしいのですが、なかなか深掘りはできないので、あっちに行ったりこっちに行ったりしています。楽しいか楽しくないかはやってみないと分からないので、最初から区別するのではなく、広く興味を持つことが大事だと思います。

倉重:若いときから意識されていたことは、「頼まれたら断るな」ですか。

小尾:そうです。これは絶対に大事だと思うのです。イスラム教にも関係するのですが、ハッジに一緒に行った仲間に、「イスラムの究極とは何なのか?」と質問しました。そうしたら「感謝される人間になることだ」と言うのです。日本では「自分から感謝しなさい」「お礼を言いなさい」というしつけをされると思います。イスラムの教えは「一番大事なのは感謝される人間になること」なのです。何か頼まれたことに応えると、相手は感謝してくれます。別に下心があって、感謝してほしいからやるのではありません。

でも、人が困っていること、頼んでいることに応えてあげるという姿勢は、人に共感も与えますし、コミュニケーションもよくなりますので、とてもいいことです。結果として自分が今までやってきたことや、ハッジに行ってイスラムの教えを勉強したことなどが、全部つながります。

倉重:それは結局、道を広く歩くというのと同じことですね。

小尾:そうです。道を広くすることによってさまざまな人にも会えます。出会いを拒絶するのではなく、常にオープンにして、どんどんいろいろな人に入って来てもらって話をすれば、面白いところを吸収できるので、これがすべてなのではないかという気がしています。

倉重:10年前にわれわれが弁護士会の調査でお伺いしたときもとても快く受け入れていただきました。

 インドネシアは経済的にも向上している国で、若い人を見てもキラキラしていますし、頑張っている人が多いようにいつも見えます。一方で日本は「失われた30年」と言われてきました。「このままで大丈夫なのか」「とりあえず食っていくためにはどうすればいいのか」という不安を抱え、暗い目をした人が多いように思うのです。そんな若い人にはどのような声を掛けますか。

小尾:「ぜひインドネシアを見に来てください」と言いたいです。

 実はそういう取り組みを、3、4年ぐらい前から始めています。もう3回ぐらいしているのですが、亜細亜大学の学生さんが9月から12月まで約4カ月間インドネシア大学でインドネシア語を勉強しに来られます。その後インターンシップということで1週間彼らを預かるのです。うちの高校で、グルーピングした学生3人に先生になってもらうのです。1クラス20人ぐらい日本に興味のある生徒を集めて、日本の言葉や文化、遊びを学生が教えるという取り組みをしています。

倉重:それはいいですね。

小尾:大学生が先生になって、インドネシアの高校生にものを教えるとなると、彼らもいっぱい考えるようになります。

倉重:教えるというのは分かっていないとできませんから。

小尾:その訓練にもなりますし、うちの高校生も歳の近いリアルな学生と接することによって、日本の今の情報を生で聞くことができます。この取り組みをずっと行っているのです。残念ながら去年はコロナで来られませんでしたが、こういう取り組みをどんどんしてあげたいと思います。日本の高校の研修旅行でインドネシアに来ていただいて1日か2日はうちの高校生と交流することも実施してきました。

ですから若い人に言いたいのは、ネットの情報を通じて知っているような気になるのではなく、実際に行って体験をする、直接会って話をして、においをかぐことも大切だということです。実際に見て肌で感じるという経験をしてほしいのです。

倉重:そこはZoomでは伝わりませんのでね。

小尾:そういうことを若いうちに体験してもらいたいのです。

倉重:絶対に感じるものがあるはずですね。

小尾:そういうものを持って何かやりたいことを見つけてくれれば良い刺激になると思います。今わたしがしたいのは、高校生や大学生など同世代の人、多感で、まだ固まっていなくて、熱量の多い若者に刺激を与えることです。

倉重:それはガンガン実践してもらいたいです。日本とインドネシア両方にとっていいことです。

小尾:本当に両方にとって良いと思います。こちらに来てくれた日本の高校生は、受験校から来ている子もいれば、工業高校から来てくれる子もいます。将来いろいろな進路を考えている若者ですが、みんな来たときは目が暗いのです。帰る前になると目をパッチリ開けてものすごく生き生きした表情で帰ってくれます。

倉重:若いと感受性も強いからいいですね。

小尾:感受性があるときにぜひ来てほしいのです。

倉重:最後に小尾さんの夢をお伺いして終わりにしたいと思います。

小尾:先ほど言いましたように、学校がおかげさまでうまく回ってきて、いろいろな若者を育てることができました。うちの高校で作ったカリキュラムやシラバスなどの教育方法がインドネシア全土で使われるようになれば、すぐに日本を抜けると思っています。

倉重:インドネシアの教育改革ですね。話がまた大きくなってきましたね。

小尾:インドネシアは2045年ぐらいにGDPが日本と同じぐらいになると言われています。しかし人口が倍いる中で同じということは、一人当たりのGDPはまだ日本の半分以下ということになります。そこを上げるのは教育だと思っています。冗談半分で言っているのですが、60歳還暦超えたら教育です。

倉重:日本にも小尾さんのような人が必要だと思います。

■リスナーからの質問コーナー

倉重:ここからは視聴者の方からの質問にお答えいただきたいと思います。産業医の中澤先生からお願いします。

中澤:はじめまして、産業医のナカザワです。きょうはありがとうございました。本当に刺激的なお話で、わたしも一度だけインドネシアに行ったことがあるのですが、また行きたいと思いました。ありがとうございます。

 先ほど労働組合のお話がございましたが、わたしも産業医の面談で労働者側と会社側の話を聞くのですが、それぞれの立場で折り合いがつかないところをよく見ています。先ほど小尾さんは納得性というお話をされていましたが、納得性をお互いに持たせるコツがあれば教えていただければと思います。お願いします。

小尾:納得性という言葉を使うのは簡単なのですが、組合の委員長時代もとても苦労しました。はっきり言って、そこでは納得しません。大事なのは納得する、しないにかかわらず、納得するための努力を重ねることだと思っています。そのためには時間を惜しみません。今の会社は組合がないのですが、丸紅時代の合弁会社には組合もありまして、毎年賃上げ交渉などをしてきました。われわれができるところと組合が求めてくるところにはどうしてもギャップが生まれますし、多分お互いに納得できないと思います。そこでわたしは「時間を空けるから徹底的に話をしよう」と言いました。

話も同じことの繰り返しで、全然進まないのですが、わたしは腹を立てずにニコニコしながら、「あなたの言うことはこうですね、でも会社側はこうなのですよ」ということを一から全部説明することを何回でもしました。そこの努力だと思います。そうすると組合も疲れてきますし、だんだん嫌になります。

倉重:そのプロセスが大事なのですね。

小尾:それをやると「仕方がない」になるのです。わたしはそれが「納得性」だと思っています。

倉重:日本でも昔は春闘や賞与の団体交渉を徹夜でしていましたから。お互いにフラフラになるまで話し合って、「もうこれでいいよ」という結論になるわけですね。

小尾:何とか理解し合おうという態度を見せることが大事だと思います。逆に言うと、相手側にもそうしてもらうよう仕向けていかないといけません。「もうやめた、ストします」と言われる可能性もあるわけなので。今までずっとその姿勢は続けています。

倉重:それはすごいです。労使紛争の解決のプロですね。

中澤:すごいです。ありがとうございます。

倉重:ありがとうございます。では、福岡県の20代のITエンジニアの小屋松さん。

小屋松:小屋松と申します。本日はありがとうございました。自分はインドネシアに行ったことはないので、コロナが明けたら行ってみたいと思いながら聞かせていただきました。

 小尾さんは学生さんと接する機会が多いと思うのですが、学生さんとコミュニケーションをとるときにどういうところに気をつけていらっしゃるか教えていただけますか?

 最近自社にも新卒が入ってきているのですが、別の生き物で価値観が合わなかったりします。先ほどの納得性の話にも通じるかと思いますが、小尾さんのどんな方とでもフランクに話せるコミュニケーションスタイルの秘訣を教えていただきたいです。

小尾:まずコミュニケーションの基本は皆さんご存じかと思いますが、いかに相手に話をさせるかです。相手の言うことをどんどん聞き出すのです。こちらの言うことを伝えてはいけません。みんな「自分の言いたいことを伝えるのがコミュニケーションだ」と思っているのですが、わたしは逆だと考えています。いかに相手にしゃべらせて相手の言いたいことを理解するかだと思います。そうするとその人に対してどのように言ったらいいのか、おのずと分かってくるはずです。

倉重:いい質問です。

小屋松:ありがとうございます。

小尾:うちの高校生も今はZoomでしかなかなか会えません。日本に実習生で来ている卒業生も20~30人いるのですが、日本の田舎で、1人で頑張っている子もいるので、元気づけるためにZoomで話を聞いてあげています。悩みがあったり嫌なことがあったりしたら、何でもいいので告白しろと言っています。一番大事なのは聞き出す能力だと思います。どういうふうに話を持っていったら彼の本音が出てくるのか。本音が出てきたら、「こんなことを言っている背景はこうだな」というのがだんだん分かってきます。そこで初めて自分の言いたい方向に少しずつ持っていってあげるといいのです。

小屋松:なるほど、ありがとうございます。非常にためになります。

小尾:最後には、こちらの考えを伝えておかないといけません。向こうも全部言えば半分ぐらいはすっきりしますので。その中で最後に、「わたしが言いたいことはこれだ」と話すことです。

倉重:また疲れたころにやるわけですね。

小尾:そうです。これもまた根気が必要です。

倉重:確かにそれは真理です。どこでも使えますね。

小尾:「最近の若者は」と言ってはいけませんが、うちの高校生も手っ取り早い解決法を求めるのです。いきなり本題で「どうやったら金持ちになりますか?」「どうやったら日本に行けますか?」みたいなことを言います。これはSNSの弊害だと最近思っているのですが。

倉重:検索すればすぐ答えがわかる時代ですから。

小尾:しかも直球で最短距離を行きたがります。いろいろな道があって、目的地に行くまでには無駄なことも必要だと教えていかなければいけないと思っています。日本で今問題だと思っているのは、効率性を求めるばかりで、最短距離を行こうとすることです。仕事はそれでいいかもしれませんが、人生はそういうものではなくて、右に行ったり左に行ったり、寄り道しながら進むほうが楽しいはずなのです。そういう生き方をするために、仕事も位置づけることが大事だと思います。そういうふうに持っていってあげれば納得してくれるような気がします。

小屋松:なるほど、分かりました。

倉重:今の「お金を早く稼ぎたい」という質問にはどう答えますか。

小尾:いろいろな方法があるということを教えます。例えば、良いアイデアを見つけて、投資家に出資してもらい、IPOしたらバーンと金が入ってくるよと言います。そのために何をするか考えろということです。「こうすればすぐ金持ちになれる」とか、「こういうルートを通ったらここへ行ける」というのは説明しますが、そこに行くためにはどうすれば良いのかというのは、自分で考えて経験しないとなかなか分からないと思います。今インドネシアにいる日本人の若い子たちを集めてコビ・ビジネススクールをしているのですが。

倉重:そこではどんなことを教えていますか?

小尾:ビジネスの基本から教えてあげています。インドネシアのエンジニアを使うとアプリも簡単に安くできるので、「こんなことがやりたい」「あんなことがやりたい」ということをアップすると、それを目がけていっぱい人が来ます。

倉重:最高ですね!

小尾:それが本当に儲かりそうだったら、私もお金を出しますし、インドネシアの金持ちを連れてきてあげると言っています。

倉重:出資までされるということですね。小尾さんは大臣を連れて来られる人ですから。こういうスケールの大きい話を聞くとまた頑張ろうという気持ちになります。

小尾:最後に、一番大事な財産は仲間だと思うのです。やはり人です。今の自分があるのも、いろいろな人に巡り合えて、自分をサポートしてくれたおかげだと実感しています。財産は自分の夢を実現させるために一緒に働いてくれる仲間、同じ価値観を持ち、同じ方向を向いて一緒に頑張ってくれる仲間です。それをいかに増やすかだと思います。

 うちの高校の卒業式で話をするのは、何になりたいかではなくて、誰と一緒に仕事をするかを大事にしなさいということです。

倉重:いい話です。

小尾:何になりたいというのは多分それぞれの時期や時間軸でころころ変わってきますし、世の中も変わっていきます。でも、何かを成し遂げるというときに一番大事なのは、一緒にやってくれる仲間です。嫌いな人とは絶対できないので、一緒にやる仲間を見つけること。一緒に仕事をするためには、その人たちに自分が認められなければいけません。そのために、先ほど言いましたが「感謝される人間になりなさい」ということなのです。

倉重:そうなると仲間が集まってくるのですね。

小尾:そうです。これがわたしのまとめです。

倉重:いいですね。きょうはどうもありがとうございました。

小尾:とんでもないです。悩みがあったらいつでも来てください。

倉重:皆さん、インドネシアに行きましょう。

(おわり)

対談協力:小尾 吉弘(こび よしひろ)

1959年、奈良生まれ。大阪外国語大学イスパニア語科卒。

82年総合商社“丸紅”に入社。30年にわたり、海外不動産開発案件に従事。

83年よりジャカルタに駐在。ジャカルタ中心地でのオフィスビル・商業施設の開発を担当。

89年には、“MM2100工業団地”開発の立ち上げから携わる。

93年より2年間、専従として従業員組合副委員長1年・委員長1年務める。

96年より、フィリピンにて “リマ工業団地”開発を新規に立ち上げ、リマ工業団地開発・運営会社の副社長としてフィリピンに駐在。

2003年インドネシアに移り、MM2100開発・運営会社社長を務める。2012年総合商社退職。

現在も引き続きMM2100開発・運営会社社長として企業誘致、投資環境や労使関係の改善に取り組む一方、病院、高層住宅、商業施設を誘致し、MM2100を工業団地から、複合都市に変貌させた。

2012年、工業団地内に職業専門高校を設立。即戦力となる人材育成にも注力。インドネシアの若者への教育に情熱を傾ける。

2006年イスラム教に入信。MM2100でのモスク建設に関わる。2019年メッカに巡礼(ハッジ)。